《閑話 オズと護身術》
「私にも護身術を教えてほしいの!!」
「はぁ? なんでだよ急に」
ユリウスの一件がずっと気になっていた私は剣の自主練をしているオズのもとを訪れた。
すぐに了承してくれると思っていたが珍しく難色を示している。
オズは基本私のやることを怒ったり否定したりしないのに、やっぱり騎士に関することには興味本位が許せないんだろうか。
お嬢様のお遊び程度に思われてるのかなぁ。
「私ちゃんとまじめにやるよ?なんでそんなに嫌そうなのよ」
「……お前のことは俺が守ってやるから護身術なんて必要ねぇ」
オズは少し拗ねたように答えた。
自分の仕事がとられると思ってたのか。
そんな心配しなくても私がオズに敵うはずないのに。
「もちろんオズのことは頼りにしてるよ! でもあの掴まれた手を外してたやつが知りたくて、お願い!」
「あ〜……、あれか。まぁ、あれくらいなら……簡単だぞ、手掴んでみ」
差し出された手首を掴んだ。
オズは自分の手を外側にくるっと返しただけで私の拘束から抜けてしまった。
「おお!」
「これであとは手刀のひとつでも落とせば逃げる隙くらい作れると思うぞ。ま、その前に俺が助けるけどな!」
「すごいすごい! 私もやってみたい!!手首掴んで!!!」
「ふっ、はしゃぎ過ぎだろ」
はしゃぎたくもなるよ!
手回されると掴んでいられなくなるんだもん。
早速私も実践しようと思ったら、さっきまで笑っていたオズが私の手首を掴んで固まってしまった。
「……手首、ほっせぇ」
「え? なに? どうかした?」
「な、なんでもない!!! 早くやれ!!!」
なにやらオズの顔が心なしか赤い気がする。なんだろう。
まぁ、いっか、今はこっちに集中しよう。
掴まれた手を、こう、くるっと返す!
「出来たー!」
これ楽しい!オズがそんなに力を入れてなかったせいもあるが、簡単に外れる。
もう一回やりたいなぁとオズを見れば赤い顔のまま自分の手のひらを見つめていた。
「折れそうだった……」
「えっ折るの!?」
「折らねえよバカ!!!」
不穏な単語が聞こえた。なんだかさっきからオズの様子がおかしい。
顔赤いし……折れそうとか言ってるし……。
あ、ひょっとして……!
「オズ……嫌なら嫌って言っていいんだよ……私も極力触らないようにするから……」
私としたことが失念していた。
いくら仲良くなったとはいえ、オズは元々ロザリアのことを斬り捨てたくなるくらいに敵視しているキャラだった。
今のオズは私を嫌ってはいないと思いたいが、潜在意識がロザリアの腕をへし折れと言っているのかもしれない。
「はぁ!? ちげえよ馬鹿!!! むしろ……っ、と、とにかくちげえ!!!」
「いいのよ……私は大丈夫だから……無理しないで……」
「あーくそ!!! ちげえっつってんだろ!!!」
「わっ」
オズは私を片手で引き寄せると頭を自分の胸に押し付けた。
耳まで真っ赤にして、内から湧き上がる嫌悪感に耐えているようだ。
ここまでしてくれるなんて……うぅ、なんて健気なのオズ!
「ほら、嫌じゃないだろ……」
「……うん、ありがとうオズ!」
私のために己と戦うことを決めてくれたオズが嬉しくて素直にお礼を言うことにした。
私もオズに嫌われないよう頑張って悪役令嬢の運命と戦うからね……!
「なにしてるオズワルド・ルーンナイト」
「……今すぐロザリアから離れないと燃やす」
「あ、テオ、アレン」
2人が一緒に行動してるとこなんて初めて見たかもしれない。
普段から相性が合わないのか火花が散ってるからなぁ。
まぁいつかはヒロインを奪い合う仲になるんだから仕方のないことかもしれないけど。
「げっ!!! おい、テオ、誤解だ、落ち着け……!」
「姿が見えないと思って来てみれば……」
あたふたと言い訳するオズだったが怒ったテオにずるずると引き摺られていった。
先約があったのかな?悪いことしたわ。
「……油断も隙もない」
アレンは何かを小声で呟いて私に抱き付いた。
ブックマーク&評価ありがとうございます。
明日への気力に繋がります。
この作品唯一の良心、ロザリア絶対守るマンのオズでした。
純粋な好意を寄せている純情少年オズはテオとアレンにとって脅威になりうるのでこういうときだけは仲の悪い2人も結託します。
次はアレンの予定です。よろしくお願いします。