《閑話 テオと婚約》
「相変わらずおモテになりますこと……」
王妃へのドレスお届けのついでに久し振りに来たテオの部屋には熱烈なラブレターが積み上げられていた。
「まぁね、僕は地位も名誉もあってまぁ顔もいいし文武両道だし文句なしに将来有望だしで逆に聞きたいんだけどむしろロザリアはなんで僕の運命の人とやらを押しのけて婚約者になろうと思わなかったの? 飛び付いてくれてよかったんだよ」
えぐい自信あるなこの王子。そういうとこだよ。
私がヒロインを押しのけて無理やり婚約者になったらそれこそゲーム通りのロザリアじゃないか。
「そういう女の子嫌いなくせによく言うわ」
「あはは、そうかもね。でもロザリアだったら歓迎なのは本当だよ……もし、運命の人なんてものがいなかったらすぐに頷いてくれた?」
ヒロインがいなかったら、か。
考えたことなかったな。そりゃあ前世で攻略したことはあるし、テオは本人が言う通り非の打ち所がない王子様ではあるけれど。
「いや、ないかな」
「……一応理由を聞こうか」
きっぱりと宣言するとテオは柔らかく微笑んだ。笑顔だけど、目が笑っていない。
これは少し不機嫌になったときの顔だ。怒ってる感情だけは分かりやすいのよね。
このくらいは散々見てきたからもう慣れっこだけど。
「だって私、王妃なんて柄じゃないもの。それに家から出たくないし商売も楽しくなってきたところだし、まだまだやりたいことも沢山残ってるから結婚してる場合じゃないわ。なにより面倒臭そう」
「……君、数年後には僕と婚約することになるのわかってるよね?」
「わかってるけど……でも、『婚約の約束』でしょ。
約束の約束ってことだし、そんなに強制力はないかと思っ……あっ嘘です! ある!! あります!!!」
調子に乗って喋り過ぎたせいでうっかり心の声が漏れた。
やばいこれブチギレの顔だわ。
私今日死ぬかもしんない。
「へぇ……わかった、ちょっと待ってて」
そう言ってテオはそれはもう恐ろしいくらい綺麗な笑顔で部屋から出て行った。
今のうちに逃げるべきかな、国外とかに……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋に置き去りにされること数十分、流石に今逃げたら処刑を待たずして命がないと思った私は大人しく土下座のスタンバイをしていた。
この世界で土下座が通じるのかはわからないがやらないよりはマシだ。捨て身である。
「あ、テオおかえり……ひぃっ!!!」
とうとう部屋に戻ってきてしまったテオはバァンッと勢いよく机に荘厳な装飾のなされた白い紙を叩きつけた。
これって……。
「国の許可と王の印は貰ってきてあるから。ロザリアは約束だけじゃ不安みたいだからね、サインしなよ」
たったあれだけの時間でとんでもないものを発行してきた。
これは約束なんてかわいいもんじゃない。バリバリの契約書だ。
それも王と神の前で誓ったことを証明する、反故にしようもんなら一発で首が飛ぶやつ。
王族のガチ約束こっっわ。
「勘弁してください……」
私は無駄のない動作で土下座をきめて謝り倒した。スタンバイしていた甲斐があったな。嬉しくない。
「ふふ、冗談だよ。けど……『約束』にしてあげてるのは僕の優しさだって、覚えておいてね。次はないから」
絶対冗談じゃなかった、目が本気だった。
婚約ってこんな悪魔との取引みたいな感じだったっけ……。
いつかほんとにこのテンションで処刑されそうだわ。気を付けよ。
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閑話なのでと思っていつもより短めです。
テオは初恋拗らせてるのでロザリアは(馬鹿で)可愛いなぁと思っています。
分かりやすく怒るのも怯えてるロザリアが好きだからですね。厄介な男です。
こんな感じで一人一話くらいいけたらなぁと思います。よろしくお願いします。