お悩み相談です。
「いったぁ〜……頭割れるかと思った……」
「お前がいつまでもアホ面をさげて馬鹿みたいに笑っているからだ……はぁ、ったく、こっちは貴様のせいで悩む羽目になっているというのに……」
「え、ユリウス悩んでたの。ひょっとして商会作ろうって言った話?お父さんに許可もらえなかったの?」
だからってユリウスがわざわざ悩むとは思えないけどね。
まぁなんかあるなら話してごらんと問いかけるとユリウスは嫌々口を開いた。
「……それは、今やらなければならないことなのか、と言われた」
あぁ、お父さんはユリウスが友達と遊んだり勉強以外のことを期待して初等部に入れたんだものね。
それが仕事を取ってきましたなんて聞いたらどこの社畜だ! ってなるか。
捻れて伝わっているようだけど。
「だから今何をすべきか、正解を考えていた。答えは出なかったけどな」
そりゃそうだ、正解なんて初めからないんだも
の。
して欲しいことがあるなら言えばいいし分からないなら聞けばいいのにまったく会話のない親子だ。
仕方ない、少し助け舟を出してあげよう。
「ユリウス、お父さんに何かをやりたいって伝えたことある?」
「俺の話を聞いていたのか……? あるわけないだろそんなこと。俺は公爵家の子息としてやらねばならないことをするだけだ」
なに言ってるんだこいつ、とばかりの顔をしているがそれはこちらの台詞だ。
親子といえど意思表示もせずに察してほしいなんて考えが甘いのよ!!
「家のためになることをやりたいっていうのがユリウスの意思なんでしょ。だったらちゃんとそう言わなきゃ、伝わんないわよ。やりたいことはやりたいって言うの!!」
ノストラダムスを抱き上げて眉間にしわを寄せているユリウスのほっぺたに猫パンチした。
くらえ! 肉きゅう攻撃!
「それでだめなら、私が一緒に頼んであげる」
親の手伝いがしたいなんて子供らしい可愛いお願いじゃないか。
それを断るって言うならその時は宰相様のほうにお説教してあげよう。
「……誰が貴様なんかに頼むか。それと、地面を踏んだ足を俺の顔に当てるんじゃない。土が付く」
ふふふ、前言撤回やっぱり可愛くない。
でも少しはすっきりしたようだ。気持ちが固まったみたい。
ユリウスにとっては初めての自己主張になるのかな。
こんなに我の強い奴なのにね。
「というわけで、はい」
抱き上げていたノストラダムスをユリウスに差し出した。
「……なんのつもりだ?」
「手始めに、飼いたいって言ってみたら?」
コールマン親子にはアニマルセラピーが必要だと思うの。
ユリウスみたいなタイプの方がデレッデレの飼い主になりそうだ。そのときが来たらからかってやろう。
「飼いたいなんて一言も言っていないが」
「顔が言ってた。ゆるゆるだったもの。ね〜、ノストラダムスもおうちが欲しいよね〜」
「にっ!」
私の言葉がわかってるのかわかってないのか、今までされるがままに撫でられていたノストラダムスが元気よく返事をしてくれた。
「ほら、名前を付けた責任をとれ!だって」
「……ふ、馬鹿かお前は」
あ、笑った。
滅多に拝めないユリウスの微笑みスチルだ!
猫ちゃん効果すごい!!!
「獣と同程度の知能しか持たない憐れなお前みたいにならないよう、こいつは俺が躾けてやる」
大分失礼なことを言いながらやっとユリウスは私から伸びきったノストラダムスを受け取った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日図書室にて。
昨日のうちにコールマン家から早馬で商会設立許可と息子をよろしく頼むとの手紙をもらった私は早速ユリウスに会いに来ていた。
なんでも息子を型にはめようとし過ぎていたと宰相様も反省をしたらしい。
ユリウスの才能を伸ばすために自分の仕事も少しずつ手伝わせるつもりだと張り切っているようだ。
一晩で随分な変わりようだが親子仲が深まったようでなによりである。
そしてノストラダムスがコールマン家のペットになった。
宰相様も絶対好きだと思ったのよね、猫。
どうやら大当たりだったようで手紙からえらく遠回しな可愛くて仕方ないという気持ちが溢れていた。
……似たもの親子だ。
商会を作ることが決定したからには従業員のことや素材の仕入れ先など、決めなきゃいけないことは山ほどあるのでこうして話をしに来たのだが……
「……で、なんでノストラダムスがここにいるのよ」
おかしい。
昨日確かにユリウスが自宅に連れ帰ったはずだ。
それなのになぜこんなところでユリウスの膝に頭を乗せてゴロゴロと寛いでいるのか。羨ましいかわいい。
「飼えと言ってきたのは貴様だろう。もう忘れたのか」
「そうじゃなくって! なんで学園の図書室にいるのかって聞いてるの!」
「俺が連れてきた」
「……なんで」
「こいつが行きたいと鳴くからな、猫は自由であるべきだ。その性質を尊重したに過ぎない」
そう言ってノストラダムスを小脇に抱えたまま本を読むユリウス。甘々じゃないか……。
どうやらユリウスとノストラダムスには『お留守番』を覚えさせなければいけないようだ。
「はぁ……先が思いやられるわ」
「おいうるさいぞロザリア。気が散る」
「え」
「……なんだ」
「いや名前、初めて呼ばれたなと思って」
別に気にしてなかったけどお前とか貴様としか言われたことがなかったので驚いた。
どういう心境の変化だろう。
「……別に、ただの気紛れだ」
……素直じゃないわ。
けど、少しは歩み寄る気になったの……かな?
ブックマーク&評価ありがとうございます。
頑張れます。
ゲームでは犬猿の仲だった2人ですが意外といいコンビになりそうですね。