今までの行いを反省します。
魔王のなんやかんやが起こる前に国外に逃亡しよう計画はあっさりと頓挫した。
あのあと、ショックで倒れたお母様は寝込んでしまった。
まぁ国を支える貴族の、しかも公爵家の人間が国を捨てるわけにはいかないよね。
私、一人っ子だし。でも留学くらいならさせて貰えないかなぁ。
学園に入学したところでヒロインを虐める気など毛頭ないが何があるかわからない。
ゲームの強制力でその気がなくても魔王に目をつけられないとも限らないのだ。
……それはそうと、今日はお父様に呼び出されている。
先日国外逃亡したいと言ったことがバレたか?と思ったが、どうやら私が倒れたことにより出来なかった誕生祝いの続きがしたいらしい。
お父様とお母様は2人揃って娘にとにかく甘い。
ドレスが欲しいといえば10着でも20着でも買い与え、馬鹿みたいに広い衣装部屋まで作り始めるのだ。
そんなんだから娘が調子に乗ってワガママ放題の高慢ちきに育つんだよと言いたい。私のことなんだけど。
そこで1つ不安に思うことがあった。
領地経営大丈夫なのかな? と。
湯水のように金を使ってるところを何度も目にしてきたわけだ。
いくら爵位の高い貴族とはいえ流石にヤバいんじゃ? と危機感を感じたのである。
どう考えても8歳の少女が口を出すべき案件ではないが、これまで散々お金を使わせてきた罪悪感もある。
ここはひとつ誕生日プレゼントに可愛い娘のお願いとかこつけて、学校や病院のひとつでも建ててもらおうではないか。
そう意気込んで私は書斎の扉を叩いた。
「お父様、ロザリアです」
「入りなさい」
扉を開けると優しげな笑顔を称えたお父様が目に入る。
お父様はやわらかくウェーブした黒髪の、穏やかで素敵などこかぽやっとしたイケメンだ。
ちなみにお母様は銀髪をいつもきちっとまとめた冷たい印象の美人さんだ。
私の悪役令嬢顔は完全にお母様似だと思う。
「ロザリア、先日は頭を打って倒れたと聞いたよ。看病に行けなくてすまなかったね」
「いいえ、お父様はお忙しい身ですもの。気にかけてくださっているだけでロザリアは幸せですわ」
「驚いた……本当に随分と変わったんだね」
まぁそんな反応になりますよね。
今までだったら絶対「酷いですわお父様!お詫びに新しいドレス買ってくださいませ!」とか言ってたと思う。
使用人達にも随分と驚かれ、機嫌が悪いからと部屋を追い出されたり口に合わないからと食事を作り直させられたりしないことに酷く感激していた。
今までの私申し訳なさすぎて胃が痛い。
「もう8歳になったのですもの。少しは成長しなければと思ったのですわ」
「ロザリア……うっ……なんていい子なんだ……!」
涙ぐみ始めた。
本当に大丈夫なんだろうかこの父親は。
「君が成長した記念に、今年の誕生日は特別なお祝いを用意しないといけないね。この間鉱山でとれた最上級のルビーでなにかアクセサリーでも作ろうか、それとも楽団を呼んでロザリアのための曲を作ってもらうとか……それとも……」
「待って、待ってお父様!! 落ち着いて!!!」
笑顔でヒートアップしていくお父様を急いで止めた。
聞いているだけでも恐ろしいプレゼントだ。
一体どれだけの金がかかるのか…。
「お父様、私はもうなにも欲しいものはありません。そのかわり領地の病院や孤児院にお金をあげてください」
「領地に? それは構わないが……」
「私もエルメライト家の一員として少しでもお役に立ちたいのです!」
渋い顔をしていたお父様に有無を言わせないよう、とびきりの上目遣いでお願いをした。
あっ感激に震えてる。
「本当に立派になって……君はいてくれるだけで私達の宝だというのに……」
「それで、すこし領地についてお父様に教えて頂きたいのですが……」
「ああ! 任せてくれ!! お父様が領地経営について詳しく教えてあげよう!!」
なんかめちゃくちゃ張り切ってるけど、そこまで頼んでないよ!!
ただちょっと罪悪感に駆られて、私に使うお金を領地に回してもらえたらと思っただけなんです!!
「将来は婿をとってロザリアに家督を譲ろう……いや! 結婚なんてまだ早い!!」
「お、お父様…?」
「ロザリア!! ロザリアはお父様とずっと一緒にいるよな?? な??」
「えーと……はい……」
「よし! それなら婿なんてとらなくて済むよう、私の全てをロザリアに教えよう!! さぁ早速勉強だ!!!」
お父様は少し思い込みの激しいところがあるようです。
いつのまにか私のお一人様教育が始まってしまった……。