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先を越されました。

 


 ユリウスは私が思っていたよりずっと優秀だったらしい。1日どころか一晩でドライヤーを完成させてしまったようだ。

 そして私たちはタルトを一旦お預けにして試運転のために昨日の図書室までやってきたのであった。



「呼んでいないのまでぞろぞろと……」


「もう、いいでしょ。それより早く見せてよ」



 不服そうな顔をしながらもユリウスは置いてあった木箱からドライヤープロトタイプを取り出した。

 こいつ、図書室を私物化してるな。



「外側は適当にそれらしいものを集めてお前の下手くそなイラストの通り再現してある」



 おぉ……いちいち一言余計だがこれは正しく私が前世で使っていたドライヤーそのものだ。こんなに早く再会できるなんて!!


 けど……


「私が最初に作りたかったのにっ……!」


「ふん、凡人であるお前のことなど優秀な俺が待っていられるか。温風の魔術式は風属性と火属性の術式を2層にすることで一体化を図った。冷風に切り替えるときは片側だけに魔力を流すようにすれば可能だ。出力の問題は術式に流す魔力を3段階にすることで全ての動作がひとつの魔術式で完結できるようにし小型化に成功した。どうだ!! お前の要望そのままだろう!!!」



 得意げに魔術式の説明をするユリウス。

 悔しいが完璧だ。最小限の術式で無駄なく作られた魔術式の基板はまさに叡智の結晶と呼ぶべき美しさである。



「すげー……俺には何言ってるかさっぱりだわ……」


「うん……ここまでになると僕にもわからないね……」



「くっ……完敗だわ……! こうなったら、最後まで付き合ってもらうわよ!! 私の野望を横取りした責任をとって頂戴!!!」


「ふざけるな負け犬。俺は自分の疑問を解消し、ついでにお前に出来の違いを見せつけただけだ。あとは勝手にしろ」



 うーん、とりあえずは安全性の確認と原価の算出かしら?

 それに生産ラインの確保もしたいし……。

 この方法なら温水の出るシャワーも夢じゃない。

 でも肝心の魔術式を完成させたのはユリウスだし、私ひとりの手柄にするわけには……。



「いっそ連名で商会でも立ち上げようかしら? それならコールマン家にも話を通さないといけないわね……」


「勝手に話を進めるんじゃない!! 父上の手を煩わすような真似、俺はしないからな!!」


「なに言ってるの煩うのはあなたの手よ。私とあなた名義で商会を作るの! あっ完成させたのはあなただけど発案は私なんだからね!! 売り上げは五分五分よ!!!」



 もちろん大人の手を借りずに全てを賄うことは出来ないだろうが、そこはうちのお父様にお任せしよう。

 うちは元々私がシルクの製造販売をしているからね。

 そこ繋がりから人を連れてこれるんじゃないかなと思っている。

 ユリウスは苦虫を噛み潰したような顔をしているけど、ま、問題ないでしょ。



「……この、金の亡者め」


「お金は大切なのよ」


「……公爵家の子息令嬢による合同商会に全く新しい発想の魔術式で作られた新型の魔道具、か……世界が注目するだろうな……」


「あーあ、またロザリアの悪い癖が出たな」


「……はぁ、昨日図書室までついてけばよかった」



 見学組には何故だか一様に呆れた顔をされている。なんで?

 まぁ私は満足なのでオールオッケーだ。



「よし、あとはタルトを食べながらということで!行きましょ!!」


「おいちょっと待て、俺をメンバーにいれるな!話を聞け!!」


「だめよ。あなたがいなきゃ詳しい話できないじゃない。」



 それに甘いもの好きでしょ、さっさとついてきなさい。王家の奢りよ。……多分ね。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後、ぐだぐだ言っていたユリウスの口にタルトを突っ込んで黙らせどうにか父上に聞いておくという言葉を引き出した。

 私もお父様に諸々お願いしておいたのでコールマン家のゴーサインが出ればいつでも動き出せる状態だ。


 ……が、数日経った今もまだ返事がもらえていない。時は金なりっていうのを知らないのか!

 図書室に行っても会えないし、コールマン家宛に催促の手紙を送るわけにもいかないし……。


 逸る気持ちを抑えられずに学園をしらみつぶしに歩いていたら校舎の裏でお目当ての人物を見つけた。



「ユリウス様? こんなところでなにを?」


「ああ……お前か」


「あら、仔猫ですか?」


 校舎を背にして座るユリウスの足元にはかわいい黒猫がいた。


「……おい、その気色悪い喋り方をやめろ。どうせ最初しかもたないんだから無意味だろうが」


「うっ……これでも頑張ってたのに……はぁ、もういいか、私もこっちの方が楽だわ」


「それでいい、貴族なんてどいつもこいつも回りくどくて耳障りだ」


「で、この猫ちゃんどうしたの?」


「知らん。ただの野良猫だろう。誰かの手を借りなければ生きられん脆弱な生き物め、精々媚びを売るがいい」



 言葉とは裏腹にもふもふと仔猫を撫で回すユリウスはいつもより少しだけ優しげに見える。

 どんな愛で方してるんだこいつは。



「可愛いなら可愛いって素直に言いなさいよ……」


「別にそんなこと思っていない」


「はいはい……クロちゃんはかわいいね〜」


「……なんだその貧困な発想の名前は」


「なによ、黒猫だからクロちゃん、分かりやすいでしょ。そんなに言うならユリウスが名前付けてよ」



 人のネーミングセンスに文句をつけてくるから冗談のつもりで言ったのに、ユリウスは顎に手を当て思いがけず真面目に考え始めた。

 断られるかと思ったのに……。



「……ノストラダムス」


「……ふっ。ふ、ふふっ、ノストラダムスって……っあははは!」



 やけに真剣な顔をしていると思ったら予想だにしない名前が出てきて笑ってしまった。

 ノストラダムスって偉人がこの世界にもいるのかしら?

 これは絶対今ぱっと思いつきましたって名前じゃないわ。



「かの有名な革命家の名を貴様ごときが笑っていいと思ってるのか」


「いや、だって、革命家……っふふ、大層な名前ね……っていたたたた!! 締めないで! 締めないでー!!!」



 あんまり笑っていたら無言でアイアンクローをかまされた。

 普通女の子の顔掴む!?

いつもブックマーク&評価ありがとうございます。

励みになります。



「ちなみにこっちは失敗作だ」ゴウッ


わぁ火炎放射器。私と同じ失敗してるし……。


「風属性と火属性の術式を融合させて出来たものだがこれはこれでいい武器になりそうだな」


やめて〜〜〜!ファンタジー溢れる世界にそんな世紀末な武器を生み出さないで〜!



ユリウスはなんだがマッドサイエンティストになりそうですね。

だんだん文字数が増えていって中々終わらないのですが次でまとめられるように頑張ります。

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