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ドライヤー論争です。

 


「だから出力に強弱をつけるのに小型化なんか無理だと言っているだろうが!!! いいか!! 魔術式はひとつの動作につきひとつ展開するんだぞ!! こんなサイズじゃ内部でオーバーヒートを起こすに決まっている!!!」


「でもドライヤーは手に持って使うんだからこれ以上大きかったら疲れちゃうでしょ!!!」


「なら温風の方を諦めるんだな、そしたら火属性の魔術式を取り除ける」


「温風が出なきゃ意味がないの!!! もういっそ風属性の魔術式に火属性も組み込んでしまいましょう、そしたら片方だけでいけるわ」


「そんなことが出来るわけ……いや、そうだな、2つの術式を重ねてぶつかるところを簡略化していけばいけるかもしれん」


「あ、でも冷風も出せないと困るのよ」


「おい!!! そういうことは先に言え馬鹿が!!!」



 はい、なんでこんな白熱してるかってね、時は遡りまして1時間ほど前。

 普通にケンカしてたんですよ、最初は。


 いや向こうはケンカとすら思ってないかもしれないけど。

 ほんとね、何言っても嫌味と正論が返ってきてはらわた煮え繰り返ったわ。



 もうやってられんと思った私は「ドライヤーを作るために魔術の勉強をしに来たのであって、あなたの相手をしてる暇なんてないのよ!」と叫んでいた。

 ほとんど敗北宣言である。情けない。


 ところがユリウスはそんなこと意にも介さず、ドライヤーという聞きなれない単語にのみ反応を示した。

 そうでしょう知らないでしょう、地球の文明の利器だものね!! 誰が教えてやるもんか!! と思ったがユリウスの追求があまりにもうざかったので親切にもイラスト付きで説明してあげたら、あろうことかそのままドライヤーの設計図を作り始めたのだ。

 私が!!! 私がやろうと思ってたって言ったばかりなのに!!!



 これは負けてられないと隣でなんやかんやと口を出し、そのたびに魔術の仕組みを教えられ今に至る。


 ……悔しいけど、やっぱりユリウスは頭良いわ。

 やりたいことも聞きたいことも的確にほいほい答えてくれるから本を読むよりも分かりやすかった。

 ユリウスの歯に衣着せぬ物言いに段々清々しさすら感じる始末だ。正直めっちゃ楽しかった。



「……ロザリア、もうとっくに迎えの馬車来てるけど、まだここにいたの?」


「あっごめんアレン! つい夢中になっちゃって……」



 図書室までついてくると言ったアレンを姉離れさせなきゃと思って置いてきていたのを忘れていた。

 どうやらだいぶ待たせてしまったようだ。

 あとでちゃんと謝っとかないと。



「ふーん……誰それ」


「こら、だめよアレン。こんなんでもコールマン公爵家のご子息なんだから。きちんとご挨拶しなさい」


「ロザリアもこんなんとか言ってるけど……というか、そいつ何も聞いてないよ。帰ろ」



 ユリウスを見るとこちらに一瞥もくれず猛烈な勢いで紙に魔術式を書き込んでいた。

 ちょっと待ってその術式初めて出てきたんだけど! なにそれ! うぅ、気になる……。


 後ろ髪を引かれながらもアレンに押されて図書室をあとにした。

 ……ユリウス、ちゃんと家には帰るわよね?



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふぁ〜……終わった……」


 今日の授業も終わり放課後を告げるチャイムが鳴った。

 初等部の授業内容なんてもうとっくに履修済みなのでぶっちゃけ退屈である。


 それなのにわざわざ行けと言ったお母様のお目当は学園備え付け魔法修練場だった。

 頑丈な壁に魔法防御の魔術式が展開されている特別製の施設だ。

 初級以上の魔法は誰でも高等部に上がって初めて学ぶらしい。

 つまり家で簡単に練習していい代物じゃないということだ。

 それでも私が大人しくしているはずがないので、やるならせめてそこでやってくれという苦渋の選択である。


 ちなみにアレンは既に上級までの魔法をマスターしている。

 本人曰く、本を見たら出来た、らしい。

「ロザリアのお願いよりは簡単」だそうだ。いつも苦労かけてます。


 魔法は練習したいけど、授業は免除にならないかなぁ……眠くなる。

 あくびをかみ殺しているとテオが話しかけてきた。



「ロザリアは今日も図書室の予定かな?」


「んー……今日かぁ、どうしよ……」



 昨日は結局本を探すどころじゃなかったので行きたいのは山々だが、またユリウスがいると思うと気が進まない。

 つい盛り上がっちゃったけど、あれは良くなかったと反省している。途中から様付けもお嬢様口調も外れてしまっていた。


 でも私だけじゃまだどの術式を組み合わせたらどうなるのか把握できていないから、ユリウスがいると話が早いんだよね。

 それにほっといたら先を越されそうだし……。

 もー! やっぱり教えるんじゃなかった!!



「予定がないならたまには僕と街にでも出よう。昨日美味しいタルトを出す店を教えてもらったんだ」


「え? タルト? 行く!!! オズとアレンも行くでしょ?」


「……ロザリアが行くなら」


「おー、お前らだけで行かせられるか」


「……ま、こうなるよね」



 タルトでさっきまでの悩みが吹き飛んでしまった。

 いくらユリウスでも1日くらいでどうこうなるってことはないでしょ、うん、ないない。

 昨日から散々頭を使ったから嬉しいご褒美だ。

 こういうときは甘いものに限るよね!!!



 意気揚々と帰り支度を進めていると教室のドアが開いた。



「おい、エルメライト家の娘はいるか」


「えっ……ユリウス!?」


 うっかり声を上げてしまったことに後悔した。

 気付かれたようだ。失敗したわ、目があった。

 逃げようにももう手遅れである。いや逃げる必要もないのだけど。

 低学年の教室だというのにユリウスは躊躇なくズカズカと踏み込んでくる。



「いたな、ついて来い」


「は? なんで急に……ちょっと!」



 理由も告げず私の手首を鷲掴むとそのまま教室から出て行こうとするユリウス。

 展開が急過ぎる!!!ていうか鞄!!!あとタルト!!!



「離せ、嫌がってんだろ」


 気付いたら、引っ張られたと思っていた手がオズによって救出されていた。

 それどころか、今度はユリウスの手がオズに掴まれている。

 すごい、今なにしたんだろ。護身術ってやつかな?



「ロザリア、こっちにおいで」


「チッ……なんだ貴様ら、面倒臭い」



 テオが私を抱き寄せた。アレンも臨戦態勢だし不穏な空気だ。

 私が庇ってやる義理もないのだがこのままだと一触即発になりかねないので致し方なく口を開くことにした。



「あの……ユリウス様はどのようなご用事で?」


「ああ?言わなくても分かるだろう。お前が昨日言っていたドライヤーの試作が完成したから持ってきた、以上だ」


「……わかるわけないでしょ! それを最初に言いなさいよ!!!」



 なんだってあんたはいつもいつも言葉が足りないの!!!


ブックマーク&評価ありがとうございます。

感想も物凄く嬉しいです。返信できるらしいということを知ったので後ほどきちんとお礼致します。


魔法=自らの魔力で発動するもの


魔術=魔術式を用いて発動するもの


魔術式=術式を組み合わせて発動可能にしたもの


術式=魔術式を構成する要素


みたいな感じで呼び分けているつもりです。

なんとなくですが。

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