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とある天才少年の独白。

 


 アレン・ミリオンがアレン・エルメライトに変わった日、ロザリアに言われたことがある。



「アレンのことは私が幸せにするからね!」



 ばかだな、と思った。

 僕はもう既にこれまでにないくらい幸せだ。

 ロザリアがいてくれるならどこでだって幸せになれる。そう思ってるのに。


 それじゃ気が済まないのかロザリアはこれ以上をくれようとする。



「それでね、アレンのいた孤児院にはエルメライト領地に来てもらおうと思うんだけど……」


「いらない」


 初めて会ったときに帰りたいと言ってしまったことを覚えていたのか、ロザリアはそんなことを言い出した。



「え……でも、会いたくないの?」


「別に」



 納得がいかないと首を傾げているロザリアだが、今となってはもう必要のないものだ。

 孤児院が伯爵家からの多額の寄付と引き替えに僕を売ったことは知っていた。

 それでもあのときはそこにしか帰る場所がなかっただけだ。


 今の僕にはロザリアがいる。あの地獄から僕を救い上げてくれた、唯一の理解者。





 僕は人より魔力を感知する能力が優れていた。

 人が魔法を使っているのを見て、覚えて、再現する。

 そしてそれが出来るだけの魔力量が僕にあったという、それだけの話。

 それなのに天才だと囃し立てられ伯爵家の養子にまでなった。


 あなたは『特別』なのよ、よかったわね、なんて薄っぺらな笑顔でシスター達は僕を見送ったが、現実はそんなに甘くなく僕を引き取った人間を父や母と呼ぶことを許されることはなかった。

 初めから実の息子の糧にするためだけに呼ばれたのだ。



 それからは、知らない人間に囲まれてひたすら魔法の技術を磨かされた。

 子供の僕でも怪しいと分かる黒服の連中にこの家の人間は信奉しているらしい。

 幸か不幸か、彼らの求めることをこなすのに苦労は無かったが少しでも疲れたとか辞めたいと言うと服で隠れるところを鞭で打たれた。

 お前の頑張り次第では元の孤児院に帰してやる、そう言われてここから逃げられるならと大人しく従っていた。


 それ以外の時間は部屋に押し込まれ部屋から出てくるなと命じられた。

 運ばれてくる食事が到底伯爵家に相応しくないどころか、孤児院ですら出されないような貧しいものだったのは使用人の嫌がらせだろうか。

 彼らが陰で僕のことを気味が悪いとか化け物だとか呼んでいるのを何度も耳にした。



 好かれたいとも思わないが、敵しかいないこの家で頑張って何になるのだろうか。

 孤児院に帰ったところでまた別の家に売られるのが関の山だ。

 そう思って、せめてもの反抗にと魔法を失敗させ続けた。

 失敗する度にまた鞭で打たれたがこいつらを喜ばしてやるよりはマシだと思って。



 そんな日が続いたある日、侯爵家のお茶会に参加させられることになった。

 いつもは長男だけが参加していたようだが、いつまでも僕のことを外に出さないままではいられなくなったらしい。

 あまり気は進まなかったが今日は打たれずにすむと思うと少しホッとした。



 お茶会には僕と同じくらいの年齢の子供たちも沢山いた。

 僕とは違って幸せそうに笑う姿を見ていると暗い気持ちに襲われて逃げるように会場を抜け出した。

 人目につかないよう隅に避けていろと言われていたので構わないだろう。



 誰も来ないような茂みの陰に座り込んでいたらそんな僕を見つけた少女がいた。

 何故か隣に座り込んで来たその少女は僕のことを知っていると言う。


「4属性の魔法が使えるなんて凄いね」


 その言葉を聞いて、今まで溜め込んでいたものを吐き出してしまった。

 凄くなんてない、『特別』なんていらない。なんで僕だけが。

 純粋に褒めてくれているだけだと分かってはいても抑えきれなかった。


 そうして話していたら腕に怪我をしていることがバレた。綺麗な場所で生きているこの子がどんな反応をするか、なんて意地の悪いことを考えていたら僕よりも辛そうな顔になった彼女が抱き付いてきた。

 誰かに抱きしめられたのは初めてのことだった。



 僕にうちに来いと言ってくれたが、この子には嫌われたくないと思ってしまった。一緒に行けばこの子も伯爵家の人間のように僕のことを異常だと言うかもしれない。


 けれどロザリアは自分も同じなのだと、絶対に嫌いになんてならないと笑ってくれた。

 そのとき、ロザリアが僕と同じように魔法が使えることは運命だと思った。

 神様なんて信じたことはなかったけど、ロザリアは辛い日々に耐えていた僕に天が与えてくれた天使様なんだと。

 ロザリアの隣でなら僕もこんな風に笑えるかな、そんな希望を抱いたときにはもう涙が溢れていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、あれほど苦痛だった魔法の勉強もロザリアとなら楽しいと思えるようになった。

 私は練習して4属性を使えるようになっただけだから『特別』なんかじゃないのよ? とロザリアは言っていたが練習して4属性使えるのは十分『特別』だと世間は認識すると思う。


 ロザリアは思考が少しズレているのか自分のことを普通だと思っているようだが、そんなわけない。

 その証拠に今も風魔法を応用して空を飛ぼうとしているから見ていてハラハラする。毎度毎度、どうしてこんなことが思いつくのか……。



「ロザリア……僕が見てるとき以外は魔法使わないで」


「え、なんで」


「なんでも」


「むぅ……まぁ、アレンはずっと一緒にいるからいっか。ねぇアレンなら空飛べる?」



 なんの疑問もなくずっと一緒、と言われた言葉に嬉しくなった。

 ロザリアは自分で無理難題を考えては僕にふっかけてくる。

 それでも応えて見せればロザリアが喜んでくれるから、僕は初めて自分が『特別』であることに感謝したのだった。



『特別』なのに、それを普通のことのように振る舞うロザリアは人を惹きつける。

 お茶会のときにいた王子と側近もそうだ。

 気付いていないのはロザリアだけ。


 こうしてエルメライト家に来られるよう協力してくれたことには感謝しているが、だからと言って信用はできない。

 見せつけるようにロザリアに抱き付き勝ち誇った笑みを浮かべると、王子は分かりやすく挑発された。

 この王子とは婚約者になる約束をしているらしいが所詮は約束だ。

 側近である騎士の方も明らかにロザリアを意識しているようだが見ているだけの奴に負ける気はない。



「今日も一緒に寝てもいい?」


「勿論よ、私はアレンのお姉さんだもの」


 断られないと分かっていて問いかけたがロザリアはあっさり受け入れてくれた。

 姉だと思ったことなど一度もないが、ロザリアは僕を弟として可愛がりたいらしい。


 僕にはロザリアだけがいてくれればいい。ロザリアにも僕だけがいればいい。

 だから今は弟でも構わない。

 何も知らずに眠るロザリアの額にそっと口付けた。

ブックマーク、評価などありがとうございます。

感想も嬉しいです。



「アレンマジ天使」


「ばかなの?(天使はそっちでしょ)」


ってことですね。思いのほか強かなアレンくんでした。

明日からはちょっぴり成長して4人めの攻略対象が登場する予定です。よろしくお願いします。

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