アレンがうちの子になりました。
その後、私が手を挙げられたと聞いたお父様の行動は早かった。
怒り心頭でミリオン家の取り潰しを決めたのだ。
王宮と一緒になって余罪を追及したところ、なんでも怪しげな教団と組んでアレンの魔力をそのまま長男に移そうとしていたことが発覚したらしい。
なにそれ怖すぎるでしょ……ひょっとして伯爵家崩壊の原因ってそれなんじゃないだろうか?
ともかく、その非人道的な計画が決定打となりミリオン伯爵家はこの国から消えることになった。
そしてアレンは晴れてエルメライト家の子になりました。やったね!
お父様もお母様もアレンを私と同じくらい可愛がってくれて、「男の子もいいわね」なんて言っている。
私はというと、それはもう溺愛してる。
うちの両親は私を呼ぶとき「可愛いロザリア」とか「私たちの天使」とか聞いてるこっちが恥ずかしくなる呼び方をするんだけど、その気持ちがようやく分かった。
「アレンは今日も天使みたいにかわいいね〜!」
「……ばかなの?」
こんな憎まれ口を叩くようになったのも慣れてきた証拠だ。
あれからアレンはハグが気に入ったようで、よくくっ付いてくるようになった。
ぎゅーっと抱きしめ合うのも今だけの特権かな、と思って堪能させて貰っている。
ちなみに魔法について、私の自主練自体は規制されなかったが次のステップに進むときは必ずお母様監修のもとで、ということになった。
なんでもお母様、結婚前は『氷の魔女』と呼ばれていたくらいには魔法が得意らしい。思いがけないところでお母様の二つ名を知ってしまった。
氷魔法は水属性の魔法を上級まで習得すると覚えられる派生の魔法である。これって結構凄くない?
王宮からは魔法研究部の人間を派遣する、という案が出されたがアレンが家庭教師にあまりいい思い出がないだろうということで断念された。
そして私も4属性の使い方は絶対に口外しないようにと厳命されているのでいない方が気が楽だ。多分口が滑る。
テオとオズにはもうバレているので、今日は私の研究に協力してもらおうと絶賛呼び出し中だ。
アレンのこともきちんと紹介したいしね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「距離が近すぎない?」
うちにやってきた2人をお出迎えに行ったらテオは開口一番これである。
今のアレンは私の腰に腕を巻きつけぴったりくっついている状態なので近いは近いが、最早いつものことになりつつある。
「ん? でも、ここがアレンの定位置だから」
それを聞いたテオの笑顔が引きつった。
まだあまり慣れていないテオとオズが怖いのかアレンの密着度が増した気がする。
「離れろ、今すぐ」
「ロザリア……こいつやだ」
「もう、テオ! アレンのこといじめないで!」
「いじっ……!」
アレンを無理やり引き剥がそうとするテオを止めたら、ピシッと音がして固まってしまった。
……と思ったらなんか笑ってる。テオが壊れた。
「ふっ、ふふ……まぁ、僕は彼女と学園を卒業したら婚約者になる約束をしてるからね。せいぜい今のうちに可愛がって貰いなよ」
「……所詮約束でしょ」
「弟扱いの君では約束すらありえないけどね」
「……弟だと、ロザリアと一緒に寝れるけど」
「……ロザリア? 今の話は本当かな?」
「えっうん。アレンが怖い夢見るっていうから……」
私を挟んで喧嘩するのはやめて欲しいなぁと思いつつ口を挟むのも怖いので空気に徹していたら急に巻き込まれた。
そうなのだ、うちに来た日以来アレンは度々怖い夢を見たと私の部屋へやってくるのでそれならば初めから一緒に寝ようとお互いの部屋を行き来している。
「……君とはまた話をする必要がありそうだね」
「えっ、え、なんで怒ってるの!?」
「おい、お前ら……今日は魔法の練習するんだろ?早くしようぜ……」
オズ!!! ナイスアシスト!!!!
何故だか今日はとびきり機嫌の悪いテオの話を逸らしてくれた。
最近オズの株が右肩上がりに急上昇中だ。
さぁ、気を取り直して魔法の練習を始めましょう!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
「う〜ん、水属性ならなんとか使えそう、かな」
ほうほうなるほど。
元々風属性の魔法が使えたテオは早々に水魔法の感覚も掴んだようだ。
風属性と水属性は魔力の操り方が似てるものね。
私はそこで苦戦したわけだけど、水と風、火と土はお互いに覚えやすいのかもしれない。
そう思うと私が最初に使えたのが水と火だったのは幸いだったな。
「俺はだめだ、そもそも魔法苦手だし……」
「オズは火魔法だけを極めたほうがいいかもね……それで剣に炎を纏って魔法剣士になってほしいわ!」
出でよ、炎の剣士! なんつってね。
「魔法剣士……! かっけえ……!」
キラキラした瞳で剣を握り始めたオズ。男子ってこういうの好きだよね。
この世界にそんな職種があるのかは分からないがやる気が出たようで何よりである。
「……で、剣に炎を纏うってどうやるんだ?」
「そこまで考えてなかった。アレン、出来る?」
「……やったことないけど多分」
オズから剣を受け取ったアレンはこともなげに剣に炎を出現させた。
紅蓮の炎に包まれたそれはまさに魔法剣と言えるだろう。
「おおっ! すげーなお前!!!」
「でしょ!! アレンはすごいのよ!!!」
「別に普通だし……っちょっと、勝手に頭撫でないで」
大はしゃぎでアレンを撫で回すオズ。
みんな同い年ではあるんだけど、アレンは私達の中で一番背が低いからつい弟みたいに接してしまうのよね。わかるわかる。
オズも面倒見がいいタイプだしいいお兄ちゃんになりそうだ。
「……剣に魔法を付与するなんて聞いたことが……いや、もう今更か……流石、魔法の天才アレン・ミリオンだね。いや、今はアレン・エルメライトか」
「……なに、気持ち悪いんだけど」
「別に。相手が誰であろうと正当な評価を下しただけだよ」
……仲、悪いね、君たち。
なんだか険悪なムードだ。少しは隣で一生懸命に剣を振ってるオズみたいに子供らしくできないものか。
「ん〜……見てる分には簡単そうだけど難しいなこれ……でも、絶対習得したい……」
「あっ私もやってみたい! 剣貸して!」
「おー、気を付けろよ」
さっきアレンがやってたのを見て私もやってみたかったんだ!
なんとなくイメージは出来ている。剣を体の一部と捉えて魔力を流して……。
「ロザリア!!!」
「え? きゃあっ!!!」
瞬間、剣が燃え上がった。
とても纏っているとは言い難い様子だ。柄にまで火がついてしまっている。
「あっぶねぇ……」
「ありがと……ごめんオズ、剣燃やしちゃった……」
間一髪、オズが私の手から剣を落として体を引き寄せてくれたので怪我をすることはなかったが剣はもう使い物にはならないだろう。
この間からオズには助けられてばかりだ……。面目無い。
「あー、いや、練習用の模擬刀だからそれはいいけど……俺より、後ろの奴らに謝ったほうがいいぞ」
「後ろ? ……ひっ!!」
そこには、2人の鬼が立っていた。
「ロザリア!!! 危険なことはするなと何度言ったらわかるんだ!!!」
「僕が見てないときには魔法使わないでって言ったでしょ」
「ご、ごめんなさい……」
2人の鬼……もとい、友人と弟に正座させられ怒られる私。
こういうときは息が合うのね……。
「ちゃんと聞いているかな? もう一度初めから言おうか?」
「いえ!! ちゃんと聞いてます!!」
「母様にも僕から伝えとくからね」
「そ、それだけは……!」
「なんだお前ら、仲良いな」
「「良くない!!!!」」
綺麗にハモって、今度はオズに矛先が向いたようだ。ちゃんと守ってくれたのにごめん。
……案外うまくやっていけそう、かな?
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