まさかの出会いです。
テオやオズと会う日以外に練習していた4属性の魔法は最初の頃に比べだいぶスムーズに使えるようになっていた。
難所だった風と水の魔法の使い分けもどうにか感覚を掴むことができ、つむじ風程度は起こせるようになった。最初から使えた水魔法とロザリアの火魔法よりは苦手だけどね。
次はレベルを上げて初級の魔法に挑戦してみようと思う、のだが、初級魔法は火なら火球、土なら土壁など、ただ魔力を放出するだけではなく操って思い通りの形にしなければならないので難易度が跳ね上がるのだ。
学園の初等部に入学するまで待つか家に家庭教師を呼ぶかできればいいのだが、私はまだ自分が魔法を、しかも4属性使えることを誰にも話していない。
というか話せない。
4属性の魔法が使える人間などこの国にだって1人もいないのだ。……いや、1人いた。いるはず、である。
攻略対象の一人、アレン・ミリオン。彼は生まれながらに4属性の魔法を使いこなす天才なのだ。
孤児であった彼はその魔法の才能を見込まれ伯爵家に養子に貰われることになる。
そこで厳しい教育を強いられたアレンは魔法が暴発し、伯爵家を崩壊させてしまうのだ。
幼かったアレンが罪に問われることはなかったが、その後彼は周りから化け物として扱われることになり心を閉ざしてしまう。
アレンルートはその手をとって笑いかけてくれたヒロインにのみ心を開き、半ば依存するようなエンディングを迎える。
正直伯爵家は自業自得だろと思うのでいっそ失脚すればいいと思う。
アレンには申し訳ないが学園に入ればヒロインという癒しが待ってるので頑張ってもらいたい。
そしてここから分かることは2つ。
4属性使えることがバレるとやばいということと、無理をすれば屋敷が吹き飛ぶレベルで暴発するということだ。
前者はそのうち誰でも好きな属性が使えるようにノウハウ本を書くつもりでいるが、後者のことがある分好き勝手に練習するのはよろしくない。
けれど講師を雇うと4属性使えることがバレてしまうし……。
お父様とお母様がいる限り私が不当な扱いを受けることになるとは思わないが、研究は極力自分の力で進めたい。よくわからない研究員に囲まれるのもごめんである。
う〜〜〜ん二律背反……。
「お嬢様!! こんなところにいらっしゃったんですね!!本日はコンラッド侯爵家でお茶会がありますと伝えてあったではありませんか!!」
いつもの裏庭でうんうん唸ってるとマリーが困った顔で走ってきた。
そういえば朝にそんなこと言われたような気がする。半分寝ぼけていて忘れていた。
「ごめんマリー……」
「急いでくださいませ! 今日もたっぷりおめかし致しますからね!!」
やる気満々なマリーに苦笑してしまった。
着せ替え人形再びである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
真紅はやめてくれと頼み込み、淡い紫のドレスに身を包んだ私は2回目のお茶会に来ていた。
相変わらず人気者のテオと睨みを効かしているものの本人の顔がいいせいで余計にご令嬢を集める結果になっているオズを見ながら平和だな〜なんて完全に他人ごとを気取っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
前回の王子の婚約者選びパーティーと違い、今回はご子息達も大勢参加している。
令嬢達の大多数は王子に夢中で取り付く島もなく、残っているのも競争率の高い王子ではなく他の優良物件にアタックをかけている逞しいお嬢さん達である。
そんなところにぽつんと立ってる公爵家の令嬢。狙われないはずがなかった。
「疲れる……」
代わる代わる挨拶にやってくるご子息達に耐えかねて私は人気のなさそうなところを目指し歩いていた。
テオはよく毎回これに耐えられるな……ロザリアのことがなくても女性嫌いになりそうだ。
「ん?」
茂みから白い髪が見える。
サイズ感的に子供だ。先客だろうか?
まさか不審者ってことはないと思うけど……覗いてみよ。
ひょこっと茂みをかき分けて体ごと突っ込むと、白いくせ毛の可愛らしい男の子が体育座りをしていた。
「……なに」
「え……っと、ここでなにしてるの……?」
「座ってる」
「そ……そっか……」
なんともそっけない少年である。
じゃあ私はこれでとこの子を置いていくのも忍びないので私も隣にお邪魔することにした。
どうせ行くあてもないしね。
「……なにしてんの?」
「え?いや座っただけだけど……」
「そう」
さっきとは逆の会話だ。
沈黙が続く。うーーん微妙に気まずい。
「あの、私ロザリアっていうの、君は?」
「……アレン」
「アレン………って、アレン!? ……あの、アレン・ミリオン!?」
噂をすればなんとやら。まさかの出会いである。
しかしこの驚きは彼が件の攻略対象だったからではない。このお目々くりくりできゃるんきゃるんの可愛い男の子が!? という驚きである。
私の知っているアレン・ミリオンは切れ長な紫の瞳をした色気溢れる美青年だったからだ。
幼いときに養子に貰われたとは知っていたが具体的な年齢は知らなかったので全然気付かなかった。
確かに髪と瞳は同じだが何をどうしたらこの小動物みたいな可愛い子があんなセクシー路線になるんだ……。
「……そうだけど、なに」
「あっご、ごめん、えーっと、アレンのこと噂で聞いたことがあったから、つい。4属性の魔法が使えるなんて凄いね」
話を誤魔化そうと気になっていた魔法について話を振ったら顔をしかめて俯いてしまった。
ぎゅっと腕を握りしめたアレンが呟いた。
「……凄くなんてない。魔法なんてもう使いたくない」
「えっ?」
「魔法頑張ったら帰してくれるって言ったのに……痛いのも、我慢したのに……」
痛いの?
ふと袖口から覗くアレンの腕に痣のようなものが見えた。まさか……!
「アレン! 腕見せて!!!」
返事を待たずにアレンの腕を取り袖を捲り上げるとそこには痛々しい傷跡が広がっていた。
ひどい……。
甘かった。厳しい教育といってもまさか虐待までしているなんて思わなかった。
こんなの8歳の少年が耐えられるはずもない。孤児院から連れ出されて周りに誰も味方がいないなか一人きりで耐えていたのかと思うと楽観的に考えていた自分に後悔をした。
「勝手に見てごめんねアレン……」
「……別に、いいけど……って、なにして…!」
痛ましい傷を隠すように袖をおろしてアレンを抱きしめた。
彼はどんな気持ちでこんなところに一人でいたんだろうか。
決めた、アレンは私が助ける。
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