その後騎士様は。
俺の名はオズワルド・ルーンナイト。
ルーンナイト家は代々王族に仕える誇り高き騎士の家系だ。近衛騎士団長である父上の背中を見て、俺もいつかはこうなるんだと憧れていた。
だからこの国の王子に側近として紹介されたときは父上に認められたようで、とても嬉しかったのを覚えている。
けど、初めて会ったテオは薄ら寒い笑顔を貼り付けたなんだがいけ好かない奴だった。
テオのあとをついて回り特に面白くもない講義を聞いて貴族連中の相手をする。
そんな日が続き飽き飽きし始めた頃、テオと2人で貴族達の立ち話を聞いてしまうことになった。
内容はくだらない、王族や王子を中傷するような聞くに耐えないものだった。
「なんっだあいつら!!!」
「よせオズワルド、あんなのはよくあることだ」
「よくあるって……! お前は腹立たないのかよ!!」
「腹が立たない訳ないだろ。けど今の僕じゃ何を言っても無駄だ、もっと力をつけて侮られないようにならなければ……」
テオはそう言ったが、ずっとテオに引っ付いてた俺はこいつがどれだけ頑張っていたのか知っていた。
俺がうんざりしていた講義以外にもテオは暇さえあれば政治や国の歴史を学んでいたのだ。
それなのに何も知らないこんな奴らに好き勝手言われてると思うと腹が立った。
「なら、それまで俺がお前を守ってやる!!!」
「は……?」
「お前いっつも笑っててよくわかんねーんだよ。嫌なことがあるならそう言え。そういうのから守ってやるのが騎士の役目だ!!」
今まで仮面のような笑顔の下で1人で戦っていたのだと思うと、俺だけはこいつの味方でありたいと思った。
そう言うとテオは初めて作り笑いじゃない笑顔を浮かべた。
「ははっ……君って、お人よしというかなんというか……」
「……おい、馬鹿にしてんだろ」
大人達はテオを利用することしか考えてない。
テオを取り囲む女子達だってそうだ。
あいつの中身なんてなんにも見ていなかった。
俺はテオを守るためにあいつに近づこうとする人間を遠ざけるようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「面白い女の子を見つけたんだ」
テオの婚約者を決めるためのお茶会から数日、珍しく楽しそうなテオは婚約者候補が決まったと言った。
あれだけ嫌そうにしていたのに何があったのか、聞いても教えてはくれなかった。
それからというもの、あいつは俺と会う機会が格段に減った。
時間を見つけてはロザリアとかいう女子と会っているらしい。俺と会っている時もずっとロザリアの話ばかりだ。
こんなことは初めてで、正直気に入らないと思った。うまく言えないけど腹の中がもやもやする。
絶対に何かがおかしいと思った俺は無理を言ってロザリアに会うことにした。
ロザリアの第一印象は飛び抜けて綺麗だけどそれ以上にキツそうな女、だった。テオの奴こいつの顔に騙されてるんじゃないだろうな!!! 絶対尻尾を掴んでやる!!!
……だが結局、そんな俺の考えは見事に打ち砕かれることになる。
ロザリアは今まで会ったご令嬢とは比べ物にならないくらいおかしな奴だった。
あれだけ敵視して嫌な態度をとったというのにテオに置いていかれた俺を慰めてくれて、あろうことかテオのことを腹黒くて笑顔が怖いなんて言いだしたのだ。
思わず笑ってしまった。それはこの国の王子ではなく俺の知ってるテオの話だ。
嬉しくなって余計なことを言ったらばっちりテオに聞かれていたようで、条件反射で頭を下げたら隣でロザリアも同じことをしていてまた笑った。
そして目標を新たにテオと仲直りした俺はロザリアとも友達になったのだった。
手を握ってくるのは癖なのか……ここだけの話、不覚にも笑った顔が可愛いと思ってしまった。
なんつーか、こいつといると調子が狂う……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
エルメライト領地の視察に同行した日、ロザリアが攫われた。
そばにいたのに気付けなかった自分が悔しくて不甲斐なくてなにより許せなかった。
無事に帰ってきたロザリアに安心してテオと2人で離れるときは声をかけろとか1人になるなとか散々言いたいことを言ってやっと落ち着いた。
ごめんなさい……と落ち込んでいるロザリアを見てると言い過ぎたかと柄にもなく心が痛んだが、当の本人はすぐに誘拐犯に貰ったとかいう布地を抱えてご機嫌に鼻歌まで歌っている始末だ。
「これね! とっても綺麗な布地でしょ? この村の人達とブランドを立ち上げる約束をしたの! 絶対人気出ると思うのよね!」
「ロザリア? 反省の色が見えないようだけどまだお話しする必要があるかな?」
「ひぇっ! ごめんなさい! 反省してます!」
なんだって誘拐された奴がそんな話を持って帰ってくるんだか。頭を抱えたくなった。
けれど嬉しそうにしているこいつを見ると、仕方ないなぁなんて思えてくるのだ。
その日の夜、俺は父上を訪ねに騎士舎へとやってきた。
「……父上、相談したいことがあるんだけど……」
「相談? お前が珍しいな……」
「なんだオズワルド、ついに好きな子でも出来たか!」
「そんなんじゃねーよ!」
父上の隊の顔馴染みの騎士が茶化してくる。
そんなんじゃない。そんなんじゃない、はずだ。
あいつはテオの婚約者になる予定で、俺にとっても大事な友達で……それだけだ。
「友達が……誘拐されたってのにすげー楽しそうで………」
「……それはまた……変わった友人だな」
「そう思うだろ!? しかもあいつ誘拐犯を雇って仕事をさせるとか言ってんだぜ!? そんなの絶対おかしいし危ないし……やめるべきだろって思うんだけど、でもあいつがしたいこと止めるのも嫌で……大人しくしてるだけのあいつもなんかちげーって思うし………」
「はははっ! お前随分とその子のことが気に入ってるんだな!!」
「別に気に入ってるとかじゃ……! ただ、父上ならどうするかと思って……」
「そうだな……お前はやりたいことやってるその子が好きなんだろ? なら、とことんまで付き合ってやれ。危険なことも無茶なことも、一番近くにお前がいろ。そんで、何かあったらその時はお前が守ってやればいいさ」
「俺が……」
「そのための剣は俺が教えてやる」
「!! うん!!」
あいつがそのままのあいつで居られるように。
またひとつ守りたいものが出来た。
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