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ビジネスチャンス到来です。

 


 大喜びの子供達に連れられて中庭までやってきた。

 特になにがあるというわけでもないだだっ広い広場なのだが、さすが子供、どうにか工夫して遊んでいるようだ。

 まぁ広さと人数がいれば鬼ごっことかもできるものね。

 遊具とか作ってあげたいところではあるけれど。



「あっおい! 上に乗んな!!!」


「オズ兄ちゃんすごーい!! お馬さん!!」



 体力と腕力のあるオズは男の子に大人気だ。

 あれよあれよとおもちゃにされているが本人も満更でもなさそうである。



「金髪のおにーちゃんもお馬さんやって!!」



 この国の王子を馬にしようとは中々見所のある少年だ。

 しかしそれはテオを取り囲む女の子に睨まれ阻まれてしまった。

 こんな小さい女の子まで虜にしてしまうとはこの王子魔術でも使ってるんじゃないだろうか。



 そして私はというと、見事にぼっちである。

 この悪役令嬢顔がよくないのか、遠巻きに見られるばかりで近寄ってきてくれないのだ。くすん。


 いいですよ!! 私は私で施設を見て回るから!!

 実は中を少し歩いただけでも気になっていたのだ。

 階段が多かったり高いところにしか棚がなかったり、ここは子供とお年寄りが住むには少し優しくない作りになっていた。

 老朽化もだいぶ進んでいるようだしこの機会にリフォームした方がいいと思う。


 そんなことを考えながら館を眺めてふらふら歩いていると突然体が浮いた。


「へ?」


「こっちに来い!!!」


 ……これってひょっとしなくても人攫いかな???




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あっけなく連れ去られまして、ここは孤児院から少し離れたところにある空き家だ。

 お父様怒ってるかなぁ……。誘拐されたことについては全然心配していないがそっちの方が怖い。


 なんていうかね、負の余裕っていうか。

 私には魔王に目をつけられ処刑されるって役割がある分、逆に考えるとそれ以外で死ぬことはないんじゃ?って思うのよね。

 それに、なんで攫われたのかは分からないけどこの人たち全く悪人には見えない。

 それどころかこっちが大丈夫?と聞きたくなるくらい揉めているのだ。



「どうすんだよお前ら! このままじゃ俺たち誘拐犯だぞ!!」


「仕方ねーだろ!! これしかないって思ったんだよ!!」


「だからって何も無理やり連れてくることねーだろ……」



 さっきから私を放ったらかしてずっとこの調子である。

 手足の一つも拘束されてないガバガバ状態なのでこのままさっさと逃げてもいいんだけど、街中を1人で歩くよりはここにいた方が安全かも。

 というわけで、そろそろ話を収束させてもらいたい。



「あの〜……」


「あっ……すまん、嬢ちゃん、すぐ家に帰してやるからな」


「けど帰してどうすんだよ、このままじゃ話を聞いてもらうこともできずにただ犯罪者になるだけだろ!」



 どうやら彼らはなにか聞いてほしいことがあるらしい。

 だからって公爵家の令嬢を誘拐ってめちゃくちゃ悪手なんじゃないかなぁ……。

 下手すると一言も言葉を発することなくバッサリ、なんてことになってもおかしくない。良くて投獄だろう。



「とりあえず、あなた方の目的を教えて頂けませんか?」


「いや、嬢ちゃんにそんなこと話してもな……」


「困ってるんですよね? 場合によっては私が口を利くことも出来るかもしれませんよ?」



 どちらにせよこのままなら犯罪者扱いなのだ。

 ならば先に私に少しでも話をしておいた方がいいのでは?庇ってあげるかもよ?という気持ちを込めてそういうと誘拐犯Aは渋々口を開いた。



「……俺たちは街から少し離れたところある村に住んでんだ。村の特産品を売って細々と暮らしてたんだが、その、あんまり売れなくて……生活がギリギリでな。もう今までの古いやり方は止めるべきなんじゃって話になったんだ。けど、俺たちは村の伝統を捨てたくなくて領主様に援助を頼みに来たんだ……が、俺たちなんかが取り合ってもらえるはずもなく、追い返された帰りに公爵家の馬車と嬢ちゃんを見つけて……」


「勢いで攫ってしまったと」


「本当にすまん!!! こいつらも必死だったんだ!!!」



 うーん、これって結構深刻な問題かも。

 伝統工芸が廃れていくのって良くないよね。

 それに本当ならそれぞれの村の特産品を把握して保護していくべきなのにそれが行き届いていないのは完全に領主の失態だ。

 この人達も自分達の村が好きなだけみたいだし、どうにかしてあげたいよね。



「あの、その特産品って今持ってたりしますか?見せてほしいんですが」


「え?ああ、持ってきているが……」


 そういうと誘拐犯改め村人ABC達はクリーム色の布地を持ってきてくれた。



「えっこれって……シルク!?」


 凄い!!本物のシルク様!!!!

 庶民の間では売れないのも当たり前だ。絹は光沢の美しいとても上質な生地ではあるが摩擦や日光に弱く普段使いできるようなものではない。まさに上流階級のための布地なのだ。

 こんなお宝が眠っていたなんて……!


「あのこれ!」


 うちに全部売ってください、と続けようとしたら部屋の扉が勢いよく開いた。



「ロザリア!!!!」


「お父様!?」


 シルクに興奮してすっかり忘れてた。

 私攫われてたんだった。それはもう血相を変えたお父様が衛兵を連れてなだれ込んできた。



「無事かロザリア!あぁ、すまない、私が軽率に外に出る許可なんて出したから……こんなに怯えて……待っていろロザリア、お前に無体を働いた連中を今地獄に落としてやる」


「まっ待ってお父様!! 私は大丈夫だから!! 話を聞いて!!!」



 こわいこわい!!!

 お父様って怒るとこんなに怖いの!?完全に目が座っている。

 心配をかけたことは申し訳ないが今はシルク様を保護しなければ。

 完全に腰の引けている村人達の代わりに静かに怒るお父様に今までの経緯を説明した。



「と、いうわけで、この度のことは我が公爵家が至らないせいでもあります。なのでどうか許してあげてくださいませ」


「ロザリア……優しいお前の言うことはわかったが、公爵家の者が害されて無罪放免というわけには……」



 確かにお父様の言うことも一理ある。

 彼らがやったことは誘拐だ。簡単に許されることではないし、なにより周りの人間に示しがつかない。

 ならもういっそ丸ごと囲い込んでしまおう。



「では、この村の者たちを私にください」


 全員固まってしまった。

 けどここで彼らを逃がすわけにはいかない!!!


「見てくださいこの美しい布地を!!! こんな素晴らしいものを生み出せる方々を牢屋に閉じ込めるなんて勿体無いことしてはなりません!!! この方達には是非この技術を磨いていってほしいのです!!!」


「……俺達が作ったものをこんなに評価してもらえるなんて……」


 私の熱弁に村人達は目頭を熱くし、苦い顔をしていたお父様が溜息をついた。


「……わかった、お前がそんなに言うならこいつらの処遇はロザリア、君に任せよう。……いいな、貴様ら!!!」


「願ってもありません!! 一生ロザリア様のために尽くします!!!」



 よほど自分達の特産品を褒められ慣れていなかったのか私に忠誠を誓い出した村人達。

 一度手を出したからには最後まで面倒を見るつもりでいるが、これからは商売仲間としてもう少し打ち解けたいところだ。


 まずはこのシルクを使ったドレスを王妃様に献上しよう。絶対流行るはずだ。

 生産を絞って希少価値をあげて……夢が広がるなぁ!!!



 そして運良く出会ったビジネスチャンスにほくほく顔で孤児院へと帰った私はテオとオズにしこたま叱られたのであった。


ブックマーク&評価誠にありがとうございます。

まだまだ拙い文章ではありますがこれを励みに頑張ります。

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