89話
慌ててゼロに飛び乗って上空から様子をうかがうと、火口の底がどんどんと盛り上がり、ついには火口を埋め尽くしてしまった。ポカンとしていると、石板から少し離れた位置に建物が生えてくる。瓦屋根に長い煙突、その煙突には湯けむりマークが描かれている。
「銭湯?」
どう見ても銭湯だ。空から降りて近づくと、のれんに笹の湯と書かれている。竜宮城の件もあるので危険かもしれないと思いつつ、好奇心が抑えきれなかった。靴を脱いで下駄箱にしまい、男と書かれたのれんをくぐると声をかけられる。
「いらっしゃいませ〜、笹の湯へようこそ」
声のした方へ振り向くと、右手に番台がありその中に女性が座っていた。ミントグリーンの髪を後ろでまとめていて、肌は透き通るように白く浴衣のような和装をしている。
そして何より特徴的なのはその耳で、笹の葉のように長く先は尖っている。顔も恐ろしいほど整っている。エルフってやつかな。そして生命感知にも反応がない。モンスターではなく、ねこさんたちに近い存在なのだろうか。
「お客さん、どうかしましたか?」
「ああ、すみません。それでここはどういった施設なんですか? いや、銭湯なのはわかるんですが円で良いんでしょうか?」
「笹の湯は回復の銭湯です。疲労回復、切り傷捻挫、色々治りますよ。お代はモンスター素材をポイントに変換してお支払いいただきます」
チャボさんの食堂と似たような仕組みか、余っている黄金の鹿角を取り出してみせる。
「これで大丈夫ですか?」
「はい、結構ですよ。変換したアイテムはお返しできませんがよろしいですか?」
構わないと答えると、手に持った鹿角が光って消える。
「さっそくご利用されますか?」
「はい、せっかくだし入っていこうと思います」
「それではごゆっくり〜」
身につけている装備を収納にしまい、一瞬で裸になりタオルを取り出す。浴場に入ると手前には洗い場がズラリと並んでおり、奥にはサウナらしき扉があった。シャンプーやボディーソープは備え付けのものがあるようだ。
風呂椅子に座り、頭から順番に全身を良く洗っていく。綺麗になったので湯に入る。どうやら湯船は水風呂、ぬるめ、熱めの三種類あるようでまずはぬるめのにゆっくり浸かることにした。
「はぁ〜、気持ちいいなぁー」
薄い緑色のお湯は気持ちいいだけではなく、身体に溜まった疲労が溶けていくようだ。回復の銭湯といっていたし、何か特殊な成分でも入っているのかもしれない。その後はサウナや水風呂にも入り、最後に熱めのお湯に浸かってから上がった。
着替えた後脱衣所のベンチでコーヒー牛乳を飲む。笹の湯では水、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳が売っていた。牛乳瓶を返してそろそろお暇する。番台の横を通るとエルフさんが話しかけてきた。
「お客さん、気持ちよかったですか?」
「はい、凄く良かったです。また来たいと思います」
「気に入ってもらえたようですね、またのお越しをお待ちしてます」
のれんをくぐって外に出る。しかし気持ちいいお湯だった。山頂にはモンスターも湧いていないし、ワープゲートも直ぐそばにある。これは広めたら流行るかもしれないな。
さっそく携帯を取り出して掲示板に書き込む。ツリーが解放されて、しばらく各地の避難所を巡っていたら、いつのまにか[佐藤]モンスター目撃情報提供スレ[支援]なんてのが建っていた。未だ新モンスターの情報は寄せられていないようだが、皆かなり積極的に探してくれているようだ。
(えーと、陸路の場合のモンスターと、空のモンスターの分布と、ワープゲートもあるよと。あとはエルフの女性が番台さんで……)
情報を書き込むと一瞬でスレが埋まり、次スレがたつ。回復の銭湯というのにも反応が凄かったが、一部がエルフの番台さんにめちゃくちゃ反応していた。
絶対行く。エルフキター! 佐藤さん、あなたが神か? などと怒涛のレスがつく。この分ではその内笹の湯は大変なことになりそうだ。
しかしこんな良いところの情報を独り占めしておくのも気がひけるし、繁盛したらエルフさんも嬉しいだろう。
次に来る時は賑わっていると良いなと思い、モンスターを求めて飛び立った。





