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87話

 扉を開けて現れたのは、輿を担いだタツノオトシゴ四体と人魚が四体だった。タツノオトシゴは鎧だけ身につけて武器などは持っていない。人魚は胸にホタテのような貝殻をつけていた。どちらも足がないのに空中に浮いて移動している。

 攻撃してくる様子はなく、こちらへ近づいてくると輿をおろして乗るように促してくる。


(お話通り歓迎されるってことなのか? この広間ならゼロを呼び出すスペースはあるけど……あーもう毒を食らわば皿までだ。イベントにのってやろうじゃないか)


 覚悟を決めて輿に乗り込むと、タツノオトシゴが担ぎ上げ進みだす。人魚たちは広い輿に乗ってくると、こちらへしなだれかかりボディタッチをしてきた。顔は綺麗だがモンスターだ。攻撃ではないかんじだが非常に落ち着かない。

 シュナイダーも二人の人魚に撫でられて、身体が固まっている。こちらに視線を送ってきて食べられちゃうの? と言ってくる。


(大丈夫。今までモンスターが何かを食べるところは見てないから、大丈夫なはず)


 何度か曲がり角を曲がり、階段を登っていく。どうやら上へと向かっているようだ。とりあえずマップスキルで来た道は記録されているので、いざとなれば入り口までは戻れる。

 マップスキルをみると現在は五階のようだ。目の前には金や銀、美しい貝殻やサンゴで装飾された大きな扉がある。タツノオトシゴはその扉を目指して進み、前に立つと扉が自動で開いていく。

 その先には巨大な広間があった。一際高くなっているところの玉座にはこの城の主であろうモンスターが座っていた。

 豊かな黒髪を豪奢なかんざしでまとめ、白と水色を基調とした羽衣をまとい微笑んでいる。広間に入ると入ってきた扉が閉ざされていき、輿は玉座の前まで運ばれると地面におろされる。


「良く来たの、人の子よ。なんでも亀子を助けてくれたとか。アレは私の可愛いペットなのじゃ。お礼に、ささやかながら宴でもひらこう」


(し、喋ったあぁぁぁぁ?! なんだこれ? モンスターって喋るのか?! いや、テイムしているゼロとは意思疎通できるけど、見た目が人間だからか?)


 目の前の人物? は見た目こそ人間なものの、生命感知にはしっかりとモンスターの反応が返ってきている。しかし、人魚も人の上半身をしているが喋らなかったので油断していた。咄嗟に言葉が出てこない。シュナイダーもたまげているようだ。


「あ、あの、あなたは?」


「おや? どうしたのじゃ。あぁ、まだ名乗っていなかったの。妾はこの竜宮城の主、乙姫。人の子よ、おぬしの名も聞かせよ」


「自分は佐藤と言います。こっちはシュナイダー、後はゼロという仲間がいます。呼び出しても構わないでしょうか」


「おぬしの中にいる龍の子か。良いぞ、ここは広いからの」


(な、わかるのか? ヤバイ、強キャラ感がハンパないぞ……これは初手で暴れなくて正解か?)


 目の前に新モンスターがいるのに手を出せないのが悔しいが、今のところはどうやら歓迎してくれるようなので、ここは大人しくして様子をみよう。

 ゼロに攻撃はまだしないと指示を出して呼び出すと、乙姫が手を叩く。


「ほぅ、中々凛々しい子ではないか。さて、そろそろ始めるかの」


 そう乙姫が宣言すると、入り口の扉が開き次々と人魚が料理を運んでくる。いつのまにか敷かれていた敷物の上に座布団が二つ用意され、シュナイダーと二人案内される。

 目の前に置かれた料理は、刺身や焼かれた魚介類だけでなく、肉や野菜もあるようだ。料理の配膳が終わると、タツノオトシゴと人魚による演奏が始まり、それに合わせて目の前で海の生き物たちが踊っている。

 凄い光景なのだが、乙姫の視線が気になりそれどころではなかった。先ほどから料理をつまむこちらをジーッと見つめている。開き直ってむしゃむしゃと料理を食べているシュナイダーが羨ましい。人魚に酒を勧められるが、さすがに断った。しかし、なんでこっちをずっと見ているのだろう。落ち着かないので、箸を置き尋ねてしまう。


「あの、何か?」


「ふむ、いや気にしてくれるな」


 結局宴が終わるまでその視線が外れることはなかった。


「はぁー、なんだか何もかも見透かされている感じがしたよ」


 ゼロとシュナイダーも直感的にヤバイと感じたのか、戦おうとは言いださなかった。宴会のあと、今日は一晩泊まっていけと言われ、案内された部屋でようやく一息つけた。明日の朝地上にかえしてくれるらしいが、またここに来ることはできるのだろうか? このチャンスを逃したらもう戦えない、なんてことになったりしたら目もあてられない。しかし、なんかイベント的な感じがしてこちらからも手を出しにくかった。なんせ人間を見れば襲いかかってくるモンスターが、手を出してこなかったのだ。


「賢明な判断じゃったのぅ」


「っ! 心臓が止まるかと思いましたよ。乙姫さん」


「ふふふ、何やら悩んでおったようじゃからな」


 天蓋付きのベッドにいつのまにか乙姫が寝そべり、こちらに話しかけてきた。ホラーとビックリ系は苦手なので心底やめてほしい。思い切って聞いてみるか。


「あなた、何者なんですか? 初めて人間の言葉を喋るモンスターに会いましたよ」


「先ほど自己紹介したじゃろ、竜宮城の主、乙姫じゃと。それとここにはまた来られるぞ? わーぷげーととかいうので地上に送るからのぅ」


 質問ははぐらかされたようだが、ここにはまた来られるらしい。なら今回は大人しく帰って、力をつけてからまた来よう。

 決意を新たにすると、見えない力に押し倒され地面に仰向けに転がる。


「なっ」


 なんとか起き上がろうとするが、微動だにできない。こちらに馬乗りになった乙姫が、蒼く光る瞳を光らせ顔を近づけてきて言う。


「ここは初めて正攻法で訪れた客は食わん。しかし、この力の差を理解したうえでまた訪れるというのであれば、妾が遊んでやろう」


 乙姫は二つに割れた舌でチロリとこちらの耳を舐めると、現れた時と同じように忽然と姿を消した。


「はぁ、はぁ」


 シュナイダーが現れ、心配そうにこちらを見下ろしてきて大丈夫? と問いかけてくる。ゼロは乙姫の挑発に怒り狂っている。


「大丈夫。何、見逃してくれるって言うんだ。鍛えて今度来た時にけちょんけちょんにしてやれば良いさ」

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― 新着の感想 ―
乙姫のモデルって海神の娘である豊玉姫ですからね⋯⋯ 女神ですし、まず間違いなくそこらのモンスターとは格が違う
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