84話
「お待たせしました〜」
「お、ありがとうございます」
「はい、これはシュナイダーくんのね」
チャボさんが料理を持ってきてくれる。今日の魚はサンマか……どうやって仕入れているのかは多分教えてもらえないだろうな。シュナイダーはここのお気に入りのハンバーグだ。犬用に調整されてあるので安心して食べられるし、シュナイダーいわくめちゃうまだそうで、すでにわふわふと貪っている。さて自分も冷めないうちに食べるとするか。
「いただきます」
ふぅ、美味しかった。色々この店で食べてきたけど今のところハズレはないな。ご飯もおかわりしてしまった。一足先に食べ終わったシュナイダーは謎空間にひっこんでゼロと遊んでいるらしく、楽しげな感じが伝わってくる。
「ご馳走様でした、チャボさん。今日も美味しかったです」
「うふふ、おそまつさまでした。今日はこの後どうされるんですか?」
「うーん、そうですねぇ。食べてすぐ動くのもアレだし少しゆっくりしようかと思います」
「そうだ! じゃあ、あの映画を見ませんか? この間持ってきてもらったやつ」
この間持ってきたやつって……あれか。まぁあれなら大丈夫か。
「わかりました。付き合いますよ」
「やったー! いきましょういきましょう」
チャボさんに手を引かれて追憶の広間に出ると、ねこさんといぬさんはソファーに寝転がって漫画を読んでいた。二人ともうつ伏せで足をパタパタしている。
「映画を観るわよ!」
「チャボねぇ何観るにゃ?」
「これよ! ゾンビがドーンでデッドなやつ」
「チャボ姉さんこの間ゾンビのゲームしてた……わん」
「そう、それで人間さんに持ってきてもらったのよ。きっと面白いわ」
「観るにゃ」
「観る……」
全員で見ることになり、先日きた時にセッティングした大型モニターの前に移動する。ソファーに並んで腰掛け再生を始めると、明るかった広間の照明が落とされる。全員が映画を観るので暗くしたようだ。チャボさんはこの間某ゾンビゲームの二作目リメイクをプレイしてゾンビ映画を観たくなったようで、リクエストされていたのを先日渡していたのだ。
ゾンビ映画なら自分も平気なので付き合って鑑賞する。テレビから出てきたり携帯をかけてきたり、階段から四つん這いで降りてくるような幽霊はダメだが、ゾンビとかは物理で倒せそうだし怖くない。
しかし、ゾンビがモンスターに変われば今の世界の状況と似ている。どっちのほうがマシだろうか……うーん、やっぱりモンスターのほうがマシか。無限に湧いてくるけど屋内には入ってこないし。というかゾンビもモンスターで出てくるのかな? 無限湧きのゾンビか、ちょっと遠慮したいな。臭そうだ。
映画は登場人物がショッピングモールに立てこもる場面だ。自分は遭遇しなかったが、現実でもこんな風に立てこもった人たちもいるだろうな。
チャボさんがさっきから時折、怖ーいと抱きついてきてははしゃいでいる。楽しそうで何よりだが、絶対怖がっていない。というか力がめちゃくちゃ強い。咄嗟に岩石鎧をかけてしまった。ねこさんといぬさんは色々とつっこみながら映画を楽しんでいる。映画館だったら私語は厳禁だが、こうやって観ている分には楽しみ方の一つだな。
「フラグですにゃ、絶対感染してますにゃ」
「フランクさんなら一人でなんとかしてくれるわん」
やがて映画が終わり、広間に明かりが戻る。うーんホラー映画特有のあの終わり方、様式美だな。次は人数もいるので複数人でできるゲームをすることになった。ゲームと言ってもテレビゲームではなく、異世界転生ゲームというボードゲームだ。
異世界に転生する前の能力や条件をサイコロで決めてから、マスを移動していき複数あるゴールを目指す。能力や生まれによって良いイベントに変わったり、悪い結果になったりとかなりパターンがあって面白いらしい。これはねこさんのリクエストでアナログゲームを集めた時に持ってきたやつで、自分もやるのは初めてだ。
しかしやたら凝った作りのボードゲームだ、ボードがかなりデカい。マスの種類も多く、スタート地点まで複数ある。テーブルには乗らないので床に置き、座布団を出す。勝敗は獲得したお金だけではなく、こなしたイベントや、到達したゴールによってポイントがかわるようで少し複雑だ。サイコロを転がしてキャラメイクをしていく。
「えーと、駆け出しの新人冒険者か。能力は水魔法……なんか普通だなぁ」
「私は行商人の娘で、鑑定がありますにゃ」
「宿屋の娘で料理上手……どうしたら良いわん?」
「神速の異名を持ち神聖なる極光魔法の使い手の姫騎士とはわたしのことです」
なんだかチャボさんだけやたら強そうなんだけど……チートってやつかな? いや、ゲームはやってみなければわからない。やるからには頑張ってトップをめざそう。





