80話
その日振る舞われた夕食は大変美味しいだけではなく、わかったことがあった。調理スキル持ちの板長さんの料理を食べると、ステータスが下がる感覚があった。チャボさんの食堂で食べた料理の効果が上書きされたのである。
今まではチャボさんの料理を食べた後に食事をしてもこんなことは起きなかった。
(つまり調理スキル持ちの人が作った料理は、ステータス変化の効果がつくってことか)
そしてその効果は補正の高低にかかわらず、後からとったほうが優先されるといった感じのようだ。自分はチャボさんの食堂の料理で強化できるが、他の人たちはそうではない。少しでもパワーアップできるのなら今の世の中、それにこしたことはないのだ。
この情報を周りと共有すると、確かに食事後は力がみなぎる気がしていたが、たんに腹がふくれたからだと思っていたようだ。
すぐに各地の避難所にも連絡して調理スキルについて説明し、この情報を拡散してもらうことにした。そしてスキルコンプリートへの道のりの険しさが想像できて、つい一緒に食事をしていたここのまとめ役の人に愚痴ってしまう。
「しかし参りました。調理スキルのスクロールがあれば良いんですが、なかったらどれだけ料理をすれば覚えられるか見当もつきません。プロの料理人さんで覚えてるレベルのスキルですからね」
「え、さっきまでの話を聞く限り佐藤さんにはその食堂というのが利用できるから必要ないのでは? 効果もそちらの方が高いんですよね」
「自分はモンスター図鑑だけでなく、スキルもコンプリートしたいと思っているんです。他にもどんなスキルがあるのか……最初に手に入れたスキルと武器スキル以外はスクロールで覚えたんですが、正直スクロールで全スキル覚えられる仕様であってほしいです」
「はぁ、なんとも難儀なものなんですね」
なんだか呆れられているかんじがするが、これは性分なので致し方ないのだ。しかし二兎を追う者は一兎をも得ず、まずはモンスター図鑑完成を目指してやっていこう。どんな理由でこんな世界になったかはわからないが、追憶のダンジョンのようなドロップ回収場を用意しているくらいだ、コンプリートできる仕様になっているはず。なっていてほしい。なっていなければクソゲーだ。大丈夫だ、剣術スキルなんかの後天的に覚えられるスキルのスクロールも落ちるし、大丈夫なはずなんだ。
「さ、佐藤さん? 大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶなんです」
「本当に、大丈夫ですか? お疲れのようですし今日はもう休んではどうですか?」
「……そうします。おやすみなさい」
適当なスペースにミニログハウスを出してその日は眠りについた。次の日からレベリングを手伝ったり、ワイバーンのテイムを手伝ったり、調理を手伝ったりと忙しく過ごした。さすがに数日では調理スキルは覚えられなかった。
そしてそろそろ移動しようとすると、初日のチンピラたちが再び登場した。懲りない人たちだ。
「げ、まだいやがる」
「これから出ていくとこですよ。あと一応忠告しておきますけど、引き返してまじめに生きていくのをオススメします」
「なんでぇ、さっさと出ていきやがれ。テメェは人もやれねえ甘ちゃんだろ? 最初に俺らを見逃したからなぁ。悔しかったらやってみろよ」
はぁ、こちらに手も足も出なかったのになんでこんなにイキがれるんだろう。ゼロとシュナイダーがやっちゃう? とウズウズしている。
(いやいや、ダメダメ。こういうのはスルーするに限るの)
「ほらほら、どうした?」
「じゃあ自分はこれで。あっ、いらないけど武器はもらっていきますね」
「あっ、テメェ!」
武器は没収してゼロに乗り込んでさっさと行くことにする。チンピラたちが野次ってくるが気にしない。
次の瞬間、チンピラたちの悲鳴が聞こえてくる。一度上空を旋回し門前を見ると、ここ数日鍛えた調達班の人たちにボコボコにされているチンピラたちが見えた。中級魔法のスクロールに武器やワイバーンまであるからなぁ。だからやめておけって言ったのに。
こちらに手を振る避難所の人たちに見送られ次の目的地を目指して飛び立った。





