7話
宮田さんのゴブリン戦や、傷の治療などで時間が掛かってしまったが、当初の目的通りアパートの二階の部屋にも声を掛けていく。
すると、最後の205号室から反応があった。ガチャとドアが開いたかと思うと、20代後半くらいの男性が倒れるように出てきて、俺にしがみ付いてきて言う。
「ご飯……ください……」
目の前で貪るようにご飯を食べているのは、205号室の住人。木下透さんだ。異変発生当時は、夜勤明けで家に帰り着きそのまま眠り、異変のことは朝起きてからニュースで知ったようだ。運良く、異変発生前に家にたどり着けたらしい。
「ぷはーっ、生き還りました。佐藤さん、ありがとうございます」
「いえ、困った時はお互い様ですよ」
「そに君の分まで、ありがとうございます」
そに君とは、木下さんが飼っているハリネズミのことで、空腹で倒れそうな身体にムチを打って先に餌を与えていた。とても大切にしているらしい。
「かわいいですね、そに君」
宮田さんがニコニコと、ケージの中で動き回るそに君を見ている。その言葉に木下さんが食いついてしまった。
「そうでしょう?! そに君は現世という名の地獄に舞い降りた天使なんです! 宮田さんは話の分かる女性だ!」
そこまでは言っていないと思うが……そに君への想いがオーバーヒートした木下さんは、完全に自分の世界に入り、いかにそに君が愛らしく、どれだけ自分が癒されているかを語り出す。最終的には、今まで付き合ってきた女性が自分とハリネズミどっちが大事かと聞かれ、そに君と答えて振られたことを語り出し、奴らはそに君のことを分からない悪魔とまで言ってのけた。
さすがの宮田さんも、これにはドン引きで、はぁ、とかそうですね、と適当な相槌を打って流している。
(凄いな木下さん。礼儀正しい宮田さんをここまで引かせるとは……黙っていればかなりのイケメンなのに)
このままでは、いつまでたっても終わりそうに無いので声を掛ける。
「あのー、木下さん、できれば今後のことをお話ししたいんですが」
「す、すみません。そに君のこととなるとつい」
良かった。戻ってきてくれた。とりあえず、言い出しっぺとして自分の考えを述べる。
「自分の考えとしてではですね、先程お話ししたように木下さんにも、宮田さんのようにゴブリンを倒していただいて、スキルを取得してもらいます。その後、お二人を避難場所か、行政の庇護が受けられる所まで送り届けたいと思います」
「こちらとしては、とても有り難いお話なんですが佐藤さんにご迷惑をおかけするのでは? 」
「まぁ、ずっとご一緒するわけではありませんから。大丈夫です。それに街の人たち全員を助けられるわけでもないですから。お二人は、まぁ同じアパートの住人ということで少し気になったもので」
「一緒ではないって、佐藤さんは私たちを送り届けたらどうするんですか? 避難されないのですか?」
宮田さんが問いかけ、木下さんもうんうんと頷いている。
「はぁ、自分はスキルのモンスター図鑑を埋めるためにモンスターを狩って歩こうと思います」
俺の言葉に二人ともポカンとしている。何か変なこと言ったか?
「そんな! 危険ですよ! 一緒に避難しましょう?」
「そうですよ! そに君も心配しますよ!」
(いや、そに君は何も思わないと思います)
「んー心配していただけてありがたいんですが、好きなんです。こういうの埋めるのが。趣味みたいなもんですね。できればレベルもカンスト、スキルも全部覚えたいですね」
その後も説得してくる二人をやんわりと受け流し、今後のことを話し合う。先ず木下さん、宮田さんのレベルを5くらいまで上げる。特に理由は無くて、結構適当だ。その後、自分一人でここら辺の避難場所になっている高校に偵察に行き、安全そうなら2人を送り届ける。そう話した。
「佐藤さん、偵察には私も連れていってください! 足手まといかも知れませんが、回復魔法もありますし少しはお役に立てると思います」
「そうですよ! 僕はまだレベル0ですけど、男手はあった方が良いと思います!」
(うーむ、真面目な良い人たちだなぁ。ソロも気楽だけど、頑なに拒む必要も無いか)
「分かりました。力を合わせて頑張りましょう」
「「はい」」
ザックリと目標も決まったし、次は木下さんのレベル上げだな。





