54話
「なぁヒデ、その犬本当に連れていくのか? 危なくないか? 」
「大丈夫だよ勝くん。シュナイダーはこう見えて凄く強いから。頼りになるよ」
「このポメラニアンがねぇ」
しゃがんでシュナイダーをぐしぐしと撫で回す勝くん。どうやらシュナイダーのことを心配しているようだ。しかし、下手するとここの調達班全員でかかっても勝てないんじゃないか、というくらいシュナイダーは強い。昨日の夜は母さんや、周りの奥さん方をその可愛いらしさで癒していたし。色々と頼りになる奴なのだ。
ワイバーンのテイムには、ゼロに乗って向かうことになっている。一度に全員は乗れないため、何回かに分けてテイムを行う。
今日は勝くんを含めて調達班五人が同行することになっていた。テイムに向かうメンバーには、万一のための身代わり人形と、ワイバーン拘束用の粘着糸を渡してある。
「それじゃあゼロを呼ぶから、驚かないでね」
魔法陣からゼロが現れると、歓声が上がりメンバーのテンションが上がる。皆子供のようにはしゃいでいる。
(わかる。かっこいいよねワイバーン)
一見澄ましているが、褒められてゼロも満更ではなさそうだ。早速ゼロに乗り込みワイバーンのテイムに向かう。目指すはゼロと初めて会った場所だ。
高速道路に着き、全員で徒歩で移動していると早速ハーピー が現れた。最初は手こずっていた調達班メンバーだったが、次第にコツが掴めてきたのか危なげなく倒していく。
自分も最初は中々上手く倒せなかったのを思い出す。飛んだり動きの速い奴は厄介なのだ。さりげなくシュナイダーも調達班に混ざってサポートしている。
「と言うわけで、ここでハーピー を狩って歩いてたらゼロと出会ったのです」
「はー、なるほどねぇ。モンスターってのは色々出てくる条件みたいなのがあるんだな」
ゼロとの出会いを解説しつつ、高速道路をハーピー を狩りながら移動していると、お目当てのワイバーンがやってきた。あまり自分が手を出し過ぎても、ワイバーンに認められない可能性がある。空から地上に降ろす所までやって、後は危ない時以外見守ることになっている。
その地上に引きずり降ろすのもゼロが居るため、ほとんどすることがなかったのだが……
上空からゼロに襲い掛かられ地面に組み敷かれたワイバーンに、調達班のメンバーが粘着糸を投げて動きを封じる。徐々に体力を削られていき、ワイバーンがぐったりとしてきたところで、一番手の勝くんがテイムを試みる。
「頼む、お前の力を貸してくれ」
しばらくすると、魔法陣がワイバーンに吸い込まれていく。どうやら無事に受け入れられたようだ。皆の歓声が上がる。
「ゼロ、もう大丈夫そうだし退いてあげて。回復魔法をかけるよ」
粘着糸を収納にしまって、ぐったりしたワイバーンに回復魔法をかけてやると、立ち上がって身体を震わせる。元気になったワイバーンに勝くんが近寄ってきて鼻先を撫でる。
「俺は勝志。お前の名前はシデンだ。これからよろしくな」
シデンは気持ち良さそうに目を閉じて撫でられていた。
その後大きな怪我もなく、夕暮れ前には全員のテイムが終わった。皆、自分の相棒ができて喜んでいる。目的も果たして、さぁどうするかと話し合った結果、慣れていないうちの夜間飛行は危ないだろうということで、本日はミニログハウスの中で一泊することになった。
LEDランタンで明かりを確保し、夕食をとりながら皆でワイワイと自分のワイバーンについて語り合い、布団を敷いてから眠くなるまでの間も今後のことを話し合う。
空飛ぶ移動手段を手に入れて、これまで行けなかった場所にも行ける。他の場所に避難している人間たちと、協力できるかもしれないと希望のある話で盛り上がった。
ミニログハウスの中に男六人は若干狭かったが、修学旅行を思い出してなんだか懐かしい気持ちになる。
次第に話し声も無くなる。皆眠ってしまったようだ。自分もそろそろ寝ようと目を閉じた。
翌日は早朝から行動を開始した。ワイバーンのテイムは自分と勝くんが手伝うことにし、他のメンバーは物資の運搬や、他の避難所との連携のために動くことになった。
昨日の夜に、今から冬に備えて準備を進めていかなければ、凍死者が出るとの意見がでた。暖をとるための衣類や燃料集め、建築資材の運搬をするようだ。
それから四日掛けてワイバーンのテイムが終わった。現在避難所には、三十名以上のワイバーン乗りが存在しており、今日も朝から忙しく飛び立っていった。狩りに運搬、移動にと大忙しになっている。
避難所の中を歩き回って思う。初めて訪れた時よりずっと活気がある。今まではその日食べるのもやっとだったのが、ワイバーンのおかげで以前より大量に物資を運べ、今までは日帰りできなかった場所に狩りや調達に行けるようになった。それで食事の量やレパートリーなども増え、やれることも増えて未来への希望が出てきたようだ。
どうやら自分が最初に向かった避難所にも行ったようで、そことのやり取りも始まっているようだった。木下さん宮田さんは元気にしているだろうか。南に向かう前に一度顔を出してみようか。
そんなことを考えて歩いていると、父さんに声を掛けられる。なんだか廊下でよく会うな……見回りしてるからかな。
「そろそろ行くのか? 」
「うん、そうしようと思う。どうしてわかったの? 」
「親ってのはそういうもんだ」
「そうなんだ。まぁちょっと行ってくるよ。また顔出すから、母さんにもそう言っておいて」
「わかった、たまには連絡しろよ? せっかく電話が使えるようになったんだ」
「うん、それじゃあ行ってきます」
外に出てゼロを呼び出し跨り、シュナイダーが股の間に収まると空へ飛び立つ。木下さん宮田さんに会ったら南へ向かおう。まだまだ図鑑のページは白い、きっとまだ見ぬモンスターが待ってるはずだ。
ここまでが東日本編という感じです。思いがけず沢山の方々に読んでいただき、また暖かい感想や応援のお言葉を頂きました。感謝感謝です。この場を借りてお礼申し上げます。
明日から西日本編が始まります。引き続き楽しんで頂ければ幸いです。





