5話
自分が住んでいるアパートは、二階建てで全部で8部屋ある。先ずは一階から、自分の部屋以外をノックして声を掛けていく。
「こんにちは、103の佐藤です。よろしければ少し融通致しますよ」
声を掛け、しばらく待ってみるが反応が無い。不在か、もしくは既に亡くなっているか……
(連休中だったし、帰省や旅行ってこともある。まぁ二階を回るか)
そう思い、二階への階段を上っていると、ガチャっとドアが開く音がした。
「えーと、101の……」
振り返ると、ドアにチェーンを掛けて少しだけ顔出している女性が居た。咄嗟に名前が出てこない。挨拶はしたことがある人だった。
「宮田です。あの、佐藤さん。食べ物を分けていただけるというのは……」
「ええ、ちょっとコンビニなんかで調達してきたので、良かったらお裾分けしようかと」
「えっ、コンビニまで行かれたんですか?! 外は化け物が居て危険なんじゃ」
「私も最初はビクビクだったんですけども、意外と数も多くなかったので大丈夫でしたね。それに、スキルもありましたし」
「佐藤さん、スキルをお持ちなんですか?! 」
(あれ、何か驚かれてる。宮田さんはスキルを持ってないのか?)
「はい、異変が起きた時には気づいたら覚えていましたね。それよりも、食料はどうしましょうか? 後よろしければ、お互いの持っている情報を交換したいのですが」
「すみませんっ! 私ったら。散らかってますが、どうぞ上がってください」
そう言うと、宮田さんはチェーンを外し部屋に招いてくる。
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、部屋に上がらせてもらう。散らかっていると言っていたが、部屋は綺麗に整頓されていた。座布団を勧められたので、腰を下ろす。
「すみません。お水しかお出しできるものが無いのですが……」
そう言って、コースターと水の入ったコップを置く宮田さん。礼儀正しい子だ。
「いえ、先に食料をお渡ししますね」
無限収納から日持ちのする食料、水、煮炊きに必要かと思いガスコンロも出す。これだけ出せばしばらくは大丈夫だろう。
「あっ、あの佐藤さん! 今何も無い所から!」
「これですか? さっき言ったスキルですね。めちゃくちゃ便利ですよ」
出された水を頂き、収納から取り出した紅茶をコップに注ぐ。宮田さんにも勧めた。ミルクとシロップも出しておくか。
「ありがとうこざいます」
ミルクとシロップを入れ、紅茶を飲み、美味しいです。と笑顔になる宮田さん。
「それでですね、不躾な質問なんですが、今までの反応からすると、宮田さんはスキルをお持ちではないんですか?」
「はい、私も異変が起きた後にステータス?というのを確認してみたんですけども、スキルはありませんでした」
「なるほど、因みにレベルもお聞きして良いでしょうか?」
「レベルは0ですね。佐藤さんはおいくつなんでしょうか?」
「0ですか? 1ではなくて? 因みに自分は…… 」
ステータスを確認すると、レベルは11に上がり、スキル欄には先程覚えた初級火炎魔法と、棍術が増えていた。
(スクロールで魔法を覚える以外にも、武器を使うことでスキルを覚えられるのか)
スキルもコンプできれば良いな、と考えながら宮田さんにレベル11だと伝える。
「はい、0です。佐藤さんは凄くお強いんですね」
「自分は運良く、アパートの駐車場に出現したモンスターを倒すことができたので、ゴブリンって言うんですけど」
「それでも、凄いです。私なんか、ここ最近外から聞こえる何かを叩きつける音が怖くて、今日佐藤さんが声を掛けてくださるまでは、怖くてドアを開けられませんでしたし」
どうしよう、その音、身に覚えが有り過ぎる。自分を鍛えるためとは言え、この異常事態の中、1人部屋に籠る女性を怖がらせていたとは……
「すみません、その音は俺の仕業です」
頭を下げて、どうやってゴブリンを倒していたか説明した。
宮田さんは驚いてはいたが、怒ることも無くそうだったんですね、と言ってそのおかげで今こうして助けていただいてますから、ありがとうございます。と言ってきた。
(良い子だなぁ、自分にできることなら、なるべく力になってあげよう)
その後は、取り出したお菓子を食べながらお互いの知っている情報や、詳しい自己紹介を済ませた。宮田小百合さんは看護専門学校に通う看護師の卵だった。若いのにしっかりした子だ。
新しい情報と言えば、モンスターを倒したことが無い人間はレベルが0で、スキルを覚えていないということと、ネットも使えなくなっているということだった。
そういえば、二階の確認がまだ済んでいなかったと思い出し、宮田さんと二人で行こうと話していると、外からゴブリンの鳴き声が聞こえてきた。どうやらリポップしたようだ。





