49話
こちらへ駆け寄る獣の足元の地面を収納しようとするが、効果がない。
(収納できない、ツリーと同じ仕様か?! )
落とし穴は掘らせてくれないようなので、岩石槍を使う。獣は跳躍してそれをかわすと、両手に持った王笏を振りかぶり、叩き付けようとしてくる。
しかし、宙に浮いたその瞬間を狙いゼロが横から突撃してきた。獣はメインストリート沿いの建物にその身を打ち付け転がる。そこへ一斉に業火球を放つ。手をつき立ち上がろうとする獣に次々と着弾し火柱が上がる。
(くそ、まだダメか……)
炎に包まれながらも、獣は立ち上がりこちらへと向かってくる。放電や今の集中砲火に耐えるとは、かなりタフな奴だ。全くダメージが通っていないということも無いだろうが、他のモンスターに比べて魔法の効きがイマイチな気がする。
獣が王笏で地面を突くと、再び着ぐるみとジャングルのモンスターたちが大量に現れる。どうやらあの技は連発は出来ないが、一回きりというわけではないらしい。
(早いとこ決着をつけないと魔力切れでジリ貧になるな……)
獣が咆哮を上げ号令をかけると、モンスターたちが襲いかかってくる。こちらの強化魔法を打ち消すオマケ付きだ。嫌らしい奴である。
シュナイダーが放電を使いながら敵の間を駆け抜けていき数を減らしていく。ゼロはメガクロコダイルの相手をしている。
自分も強化魔法をかけ直し、鬼斬り包丁を片手に獣目掛けて突撃する。鋭刃や剛力、強化魔法の乗った鬼斬り包丁の威力は凄まじく、立ち塞がる雑魚を一刀で切り捨て、獣の足元までくる。
最近安全を求めて、魔法や遠距離攻撃偏重になり過ぎていたかもしれない。物理攻撃の強さを改めて感じる。
懐に入り込まれた獣は、非常に戦い辛そうでちょこまかとまとわり付き切りつけていくと、次第に消耗していく。雑魚をシュナイダーとゼロが引き受けてくれたので、獣との戦闘に集中できた。気分は一寸法師だ。
切りつけた傷口に、毒蛇の牙をプレゼントしたのも効いたのだろう。獣は、二人が雑魚を殲滅しても次のモンスター召喚を行うことなく倒れ、ドロップを残して消えていく。
53番 獣王 アイテム1 電波塔の鍵 アイテム2 獣王メダル
ドロップは鍵とメダルのようだ。苦労したわりに収穫が少なく感じるが、きっとツリーに良い物があるのだろう。
ゼロとシュナイダーを撫でて労う。ゼロは鼻先、シュナイダーはお腹を撫でられるのが好きだ。
「二人共お疲れ様」
しばらくコミュニケーションを取った後、遊園地の外に出てミニログハウスを出し、今日はもう寝ることにした。疲れて夕食をとる元気はなかった。
翌朝お腹が空いて目がさめる。シュナイダーと一緒にしっかりと朝食を食べ、少し休憩してからツリーを目指して出発をした。
ツリーまでの道中、敵は透明化でスルーして進む。ゼロとシュナイダーは謎空間に入って何やら話している。遠距離攻撃に頼るだけでなく、近接戦の特訓もしなくてはと盛り上がっているようだ。確かにレベルアップで身体能力が上がっても、いきなり戦闘技術が上がるわけではない。魔法も無尽蔵に放てないので、近接戦闘の特訓は必要かもしれない。追憶の闘技場ならばゼロも呼び出せる広さもあるし、死亡もしないので今度三人で特訓に行こうという話になった。
ようやくツリーの扉前までたどり着いた。生命感知に反応はないが、鍵を開け慎重に扉を開けて中を覗き込む。ツリーの中は木の枝や蔦に侵食されていた。モンスターの姿はない。1階を探索するが特に何も発見できなかった。
上に行こうと、ついエレベーターのボタンを押してしまう。動くわけ無いか、と思いきやボタンが光っている。
「動いた……」
まぁいいかとエレベーターに乗り込むと、勝手に動き出し展望台へと登っていく。何が起こるか分からないので、シュナイダーに出てきてもらいリビングソードも召喚しておく。
エレベーターが止まり、ドアが開く。展望台に降り立つと、目の前に石のような素材でできた台座があり、その上には追憶の広間の交換所で使った板に似た物が置かれていた。
板に手を置くと、床が青く光り始める。次第に光は強くなり、目を開けていられなくなる。一際光りが強く輝いた後、光が収まり目を開ける。
展望台の天井と窓が無くなり、塔の先端からは空へ向かって青白い光が伸びていた。何だこれはと思っていると、システムメッセージさんが喋った。
<ワープゲートが解放されました。マップスキルが使用可能になりました。全世界で通信が可能になりました>
スマホを取り出してみると、電波が来ている。電話をかけて確認しようにも、相手の電池が切れていて繋がらない。次にワープを試そうとするが、これは移動先が解放されていないため使用できませんとなる。どうやらワープゲートとやらを使うには、一度その場所に赴いて解放が必要らしい。
マップスキルは拡大縮小が可能で、縮小した世界地図の状態で見ると、日本の首都のあたりが青く光っている。重なっている緑の光りがある。これはワープゲートと自分の現在位置だろうか。まだ行っていない南日本や、海外は表示されていない。異変が始まってから訪れた場所が登録されているようだった。拡大するとツリー周辺の詳細な地図が出る。縮尺を変えると踏破したジャングルのマップが表示される。中々便利なスキルが手に入った。これからは探索が捗るだろう。





