45話
メガクロコダイルを倒した地点から少し飛ぶと、着陸できそうな橋が見えたので降りる。橋は東にも西にも進めそうだった。ツリーは西側にあるので西側から探索することにする。ここからはゼロに乗って移動できそうにないので戻ってもらう。
「ゼロ、ありがとう」
橋の周辺にはモンスターがおらず、簡単に橋の終わりまでたどり着いた。ここから先は市街地のはずだが、道は木々に囲まれトンネルのようになっている。まだ外は明るいのに、ジャングルの中は微かに木漏れ日が指すくらいで非常に薄暗い。生命感知を使いマッピングしながら歩いていく。ポツポツとモンスターの反応が出てきた。キラーラビットが三体、目の前の交差点を左に曲がった所にいるようだった。リビングソードを召喚し、近づこうとした時だった。キラーラビットの反応が一つ減る。
(誰か戦っているのか? )
そっと交差点の角から顔を覗かせ様子を窺うと、そこには戦利品であろうウサギ肉を咥えた一匹の犬が佇んでいた。
(犬? テイムしていそうな人は見当たらないが……)
トテトテと肉を咥えて歩いていく犬の後をつけてみる。50メートルほど進むと犬は木の間を抜けて、門をジャンプで飛び越えると民家の庭に入っていった。もしかしたら生き残った人がいるのかもしれない。民家を訪ねてみることにした。
門の前まで行くと、先ほどの犬がやってきてウゥゥと唸る。警戒されているが無闇に吠えたりはしないようだ。
「こっちに害意はないんだ。お前のご主人様はいるか? ちょっと話がしたいだけなんだ」
すると悲しそうに少しうな垂れた犬は、こっちへ来いとでも言うように玄関のドアの前まで行くと振り返ってくる。警戒を解こうとして話しかけてみたのだが、まるでこちらの言葉を理解しているようだった。ドアをノックし声を掛けてみる。
「すみません。旅の者なのですが、良ければお話を聞かせてもらえないでしょうか? 」
返事は返ってこない。犬を見ると、ふるふると首を横に振っている。ドアに手を掛けてみると鍵がかかっていない。失礼して家の中を探索してみると、リビングに優しそうな老夫婦と写る犬の写真と書き置きが残されていた。
悪夢のような出来事が起きてから一ヶ月半ほど経つ。インフラも止まり水の備蓄も尽きてきた。気がつくと周りは数日で森のようになり、化け物がうろついていて、老体ではとても逃げられない。もしこの書き置きを読むことがあれば犬のことを頼むと書かれていた。犬の名前はシュナイダーというらしい。しゃがみ込んでシュナイダーと目を合わせ問いかける。
「お前のご主人様に頼まれた。ついてくるか? 」
キャンと返事をするシュナイダー。こちらの言葉を理解しているような節があるが、こちらはシュナイダーの言葉が分からない。テイムを受け入れてくれれば意思疎通が楽になるので提案してみる。しばらく悩んだような仕草をしていたシュナイダーだったが、決心がついたのか仰向けになり、お腹を見せてきた。テイムスキルを使い契約を結ぶ。魔法陣がシュナイダーに吸い込まれるとゼロと同じように、シュナイダーの意識が通じてくる。これからよろしく頼むと言っているようだ。
「あぁ、こちらこそよろしくな。シュナイダー」
シュナイダー情報によると、頑張ってご飯を取ってきていたがご主人様たちが段々と動かなくなっていき、ある日狩りから帰ると居なくなっていたらしい。家の中を確認してみると、遺体は見つからなかった。人も死ぬとモンスター同様消えるというのは本当なのかもしれない。水はどうしていたのかと聞くと、川に飲みに行っていたようだ。
「さっきキラーラビットも倒していたけど、結構強いんだな」
シュナイダーはレベル18だと答える。少し得意げにしている。ん? まさか動物もレベルが上がるのか?
「シュナイダーお前ステータスが見えるのか? スキルは? 」
シュナイダーは瞬足というスキルが使えるようだ。なんでも初めてキラーラビットを倒した時、本能的に使えるようになったのがわかったらしく、倒せないような相手からはその瞬足で逃げていたという。試しに使ってみてもらうと、一瞬姿を見失い背後からキャンと声を掛けられる。振り返ると尻尾を振りこちらを見上げるシュナイダーが立っていた。
「凄いな。レベル差が倍以上あっても見失ったぞ」
どうやら動物もモンスターを倒すとレベルが上がってスキルを覚えるのは間違いないらしい。妙に人間くさい仕草をしたり、頭が良いと思ったらレベルアップの効果だったようだ。シュナイダーとやいのやいのと話していると、ゼロが何かあったのかと聞いてきた。
「あぁ、ゼロ。新しい仲間ができたよ。シュナイダーっていうんだ」
不思議そうに首を傾げるシュナイダーにゼロのことを説明する。ちょっとデカイからここでは出てこれないとも伝える。
「そうだ。テイムした相手は謎空間に入れるんだけど、その中でなら会えるかな? 」
シュナイダーにどうするか聞いてみると、入ってみたいらしい。光に包まれたシュナイダーが消えると、ビックリして慌てているようだ。
(シュナイダー、ゼロは良い奴だよ。齧ったりしないから大丈夫)
しばらくすると打ち解けたようで、仲良く自己紹介をしだした。何やらゼロが、アイツはおっちょこちょいだからオレたちがしっかりしないとダメだとシュナイダーに吹き込んでいる。それに対してシュナイダーは、でも結構強そうだよ? と返していた。うーむ、会話には混ざれるが姿が見えないと疎外感がある。その後はシュナイダーがお腹を空かせて出てくるまで、まったりと仲間たちとおしゃべりをして過ごした。
(そういえば、シュナイダーの犬種なんて言ったっけ……ポメ、なんとかだったはず)





