42話
帰還の魔法陣の光が収まり、真っ暗なミニログハウスに一人たたずむ。布団を出して座りこみ、LEDランタンで灯りを確保し地図に今日の探索した内容を書き込んでいく。モンスターの種類や分布なんかを書いていると、自作の攻略本を作っているような気持ちになる。作業を終え、腹も減っていないので歯を磨いて寝ることにした。
翌朝、支度を済ませゼロに乗り飛び立つ。生命感知の反応を見ながら飛んでいると、新しいモンスターを発見した。大小様々な緑色の半透明なゼリー状のモンスターが、街の中を蠢いている。ゴブリンやオークの反応もちらほらと見られるが、圧倒的に緑ゼリーが多い。とりあえず目に見える範囲で一番大きい奴を狙い、業火球を放つ。バスくらいの大きさはある緑ゼリーの動きは緩慢で、あっさり命中し燃え上がる。
45番 グリーンスライム アイテム1 ずんだ餠 アイテム2 溶解球
溶解球は野球ボールくらいの大きさの透明なガラス球に、強力な溶解液が入っているようだ。大体の物を溶かすと大雑把な説明が書いてある。ずんだ餠は食べたことがないが、テレビで見たことがある。枝豆の餡で包まれた餠菓子だったはずだ。今度食べてみよう。動き回らない良い的だなぁと、空からグリーンスライムを狩っていると、衝撃的な光景を目にしてしまう。グリーンスライム同士が近づいたかと思うと、合体して大きくなったのだ。
「なるほど。ああやって大きくなってたのか」
大きさがバラバラな理由がわかった。しかし、ああいった行動をするモンスターは初めて見た。モンスターたちは種類が違うモンスターが周りに居ても、敵対なんかはせず共存していた。あのスライムの行動は何か意味があるのではと感じた。一番小さな奴も、一番大きい奴もグリーンスライムだったが更に大きくなったら? そのままグリーンスライムなのか、はたまた別のモンスターになるのか……ゲーマー的な勘がやれと告げていた。
「よし、実験してみよう」
ゼロが馬鹿な真似は止せと言ってくる。
「いや、気になるだろ? 絶対何かあるって」
市街地では少し手狭なので、なるべくグリーンスライムが大量にいる広い場所を探すことにした。
「ここら辺なんか良いんじゃないか? 」
辺りは田んぼだらけで、民家や高い建物なんかも見当たらない。グリーンスライムもほどほどにいる。ここで合体させることにした。グリーンスライムの動きはカタツムリよりも遅く、ただ待っているだけではどれだけ時間がかかるか分からなかった。そのため、合体のお手伝いをする。
しかしここで問題が発生した。当然のことながらグリーンスライムはモンスターだ。モンスターに近寄ると攻撃してくる。グリーンスライムも例に漏れず、近寄ると溶解液を飛ばして攻撃してきた。なんとか躱したものの、溶解液がブチまけられた地面は白煙をあげていた。こちらは合体を手伝ってやろうとしているのだが、それがテイムもしていないグリーンスライムに伝わるわけもなく作業は中々捗らない。
「どうしたもんかな……あいつらの足じゃ相当時間がかかるし、自分が運んでやらないと……」
ミニログハウスを出して休憩がてら考える。テイムをしたグリーンスライムに説得させるかと考えたりもしたが、ゼロに乗っていても普通にワイバーンには襲われるので、あまり期待できそうにない。力技で運ぼうと土魔法の岩石鎧を使い、手で持って運んでみたが溶解液は中々強力で、すぐに岩石鎧の効果が剥がれてしまった。異変後一番ダメージをくらったかもしれない。中級回復魔法があって良かった。
何かないかと、無限収納のリストをチェックしていると自分の間抜けさに嫌気がさした。ヒントは他ならぬグリーンスライムのドロップにあったのだ。まだ外は明るい。早速外に出て、収納に入れてあったガラス製の水槽にグリーンスライムを入れてみる。グリーンスライムは必死に溶解液を吐き出すがガラスが溶けることはなかった。
それからは水槽を使い、グリーンスライムの捕獲を繰り返す。二日で周辺の田んぼにいたスライムは一つになる。合体していると新たにポップしないようで、広い田んぼに二階建ての民家くらいの大きさのグリーンスライムが一匹、ぽつんとしている平和な光景になった。大分大きくなったが、外見的にはグリーンスライムと何も変わらない。まだ足りないのかもしれない。
次の日も、また次の日もグリーンスライムを運び続けた。次第に大きくなっていくグリーンスライム。街から消えていくグリーンスライム。既にグリーンスライムの大きさは、下手な野球ドームより大きくなっていた。それでもまだ、見た目はただのグリーンスライムだ。最近ではグリーンスライムを見つけるのも難しくなってきた。ここいらのグリーンスライムは、もう運び尽くしたのかもしれない。もしかしたら、無意味な行為だったのか……そう思いつつもゼロに乗り上空からグリーンスライムを巨大なグリーンスライムへと投下する。二匹のグリーンスライムが合体した瞬間、辺りに強烈な光が迸った。





