41話
追憶の広間に戻ると、ねこさんが微妙な表情でこちらを見てくる。いぬさんも無言でジーとこちらを見てくる。二人とも何か言いたげだが、スルーしてまた第二階層へと潜る。作業的にカミナリウオを処理していくと、五体目で中級雷魔法のスクロールが落ちた。すぐにスクロールを使用して試してみることにする。
中級雷魔法は、敵の攻撃に反応して発動する<反雷>。これはゴブリンの攻撃を剣で受けてみると、即死しなかったものの痺れたのかビクンと三秒ほど身体を硬直させた。その隙に二つ目の魔法<放電>を放つ。自分の身体を中心に、周囲に青白い雷が迸る。それをマトモに食らったゴブリンは、ブルブルと身体を震わせると黒い霧になって消えていった。どちらの魔法もあまり射程はないが、近接戦でかなり使えそうだ。最後の魔法は<充電>。試しに電池が減っているスマホを収納から取り出して充電してみる。すると一瞬で100%まで充電される。何気に凄い魔法だった。
新しい魔法の効果に満足し、追憶の広間へと帰還する。
「人間さん。手際はお見事ですが、あれじゃお魚さんが可哀想ですにゃ」
「一方的ですわん」
そんなことを言われても、こちらだって命が懸かっているのだ。楽で安全に倒せる方法があるのならそれを躊躇う必要は無い。ここは話を逸らしてスルーしよう。
「それより新しいゲームソフトと漫画はいかがですか? まだまだオススメのがありますよ」
「んにゃ?! まだあるんですかにゃ? 」
「欲しいですわん……」
「まだまだありますよ。今回は完結してるオススメの漫画を置いていきますね」
「ふにゃ〜、ありがたやですにゃ」
「人間さんありがとうですわん」
「いえ、いいんですよ。布教活動というやつです」
収納から取り出した、完結済みオススメ漫画シリーズを入れた本棚を設置する。早速それぞれ違うシリーズを手に取り、ソファーに座って読み始める二人からは、最初に感じたミステリアスで謎な雰囲気は既に感じられない。話を聞くと、どうやら今まで置いていったゲームや漫画はほとんど消化してしまい、新しい物に飢えていたようだ。
「ねこさん。そういえばここ電気は大丈夫なんですよね? 」
「大丈夫ですにゃ。でも仕組みは秘密ですにゃ」
「据え置きのゲーム機なんてのもあるんですけど」
おもむろに収納から据え置きのゲーム機と、40インチのモニタを取り出しセッティングしていく。モニタから2メートル離してソファーも置く。興味を惹かれたのか二人がこちらに近づいてくる。
「これが新しいゲームですかにゃ? おっきいですにゃ」
「これが電源プラグで、電気を流すとゲーム機本体とモニターがつきます。携帯型ゲーム機と違って継続的に電気が必要ですね。こっちがコントローラでゲーム画面はあっちのモニターに写ります」
説明を終えると、ふむふむと頷いていたねこさんが電源プラグを手に取りいきなり床に突き刺した。
「えっ?! なんですかそれ、壊れないですよね? ここやっぱり電気来てますよね? 」
「秘密ですにゃ」
「えぇ……」
コンセントが気になり近寄ろうとすると、ねこさんが両手を広げて立ち塞がる。かわして近寄ろうとしても素早く回り込まれて阻止される。
「ダメですにゃ。秘密ですにゃ」
「分かりました。気になりますけど見なかったことにします」
気を取り直してモニターとゲーム機本体の電源を入れる。問題なく動くようだ。操作を説明すると、いぬさんが早速プレイし始める。ダークファンタジーのアクションRPGを選んだようだ。死に覚えゲーでやりごたえがあるゲームだ。自分的にはかなり難しい部類に入るゲームで、なんとか武器、アイテム、実績をコンプしたが苦労した覚えがある。そんなゲームをいぬさんがどんな風にプレイするのか興味が湧き、椅子に座って見学することにした。いぬさんは早くプレイしたいのか、簡単にキャラメイクを済ませた。騎士の男性キャラで名前をINUと名付けている。初期位置でキャラクターの動きを確認してから進めていく。雑魚敵の攻撃を堅実に盾でガードし、反撃して倒していくが最初のボスでやられてしまう。
(結構上手いな。自分は最初雑魚にやられたぞ)
このゲームはボスだけでなく地形やギミック、雑魚ですら殺意が高いのだ。とにかく死んで覚えるしかない。再度ボスまでたどり着いたいぬさんは、ボスの動きを覚えることにしたようだ。慎重にボスのHPを削っていくが、一定のHPになるとボスの攻撃が激しくなりやられてしまう。
人のゲームプレイを見るのも中々楽しいもので、最初のボスを撃破した後も、ついついお菓子やジュースを飲み食いしていぬさんの初見プレイに見入ってしまった。ねこさんは本棚近くのソファーで漫画を読んでいた。ゲーム画面はネタバレされたくないので見ないそうだ。ふと時計を確認すると、既に外は暗くなっている時間だった。長居してしまったようだ。
「そろそろお暇します。お邪魔しました」
「またですにゃ。漫画ありがとうございますにゃ」
「ゲームありがとうですわん」
久しぶりにまったりとした時間を過ごして追憶の広間を後にした。





