3話
アパートに帰り着き、まずは腹ごしらえをする。コンビニで調達してきた弁当を食べ、お茶を飲んでひと心地ついた。
「ふぅ、ご馳走様」
何も無い部屋に、布団を出し寝転びながらこれからのことを考える。朝、外に出た時は人の悲鳴も聞こえたし煙なども見えた。先程コンビニへの道中では事故を起こしたと思われる車や、乗り捨てられた車、自転車が見受けられた。しかし、モンスターや人の姿は見かけなかった。
(モンスターに殺された人間が消えるってのは本当なのか? ゴブリンも倒したら消えるし、本当にゲームの世界に迷い込んだみたいだ)
コンビニでも疑問に思ったことがある。弁当やホットスナックなどの食料がモンスターに食い荒らされた形跡は見られなかった。
(奴ら、物を食わないのか?)
だとしたら、どこからエネルギーを得ているのか? 食べ物だと分からなかっただけか?
駄目だ。気にはなるが考えても答えは出ない。そういえば昨日は徹夜してしまったな、と思いながらも瞼が重くなる。
(いかん、飯を食って緊張が緩んだら……ねむ)
ハッと気づいた時には、もう部屋が暗くなっていた。慌てて時計を確認すると、もう深夜を回っていた。
(ヤバかった。襲われなくて本当に良かった)
人間、寝ずに活動し続けることなどできないが、それにしたって無防備過ぎた。ましてや、アパートの直ぐ外にはゴブリンが湧くというのに。
(そういえば、あいつら部屋の中には入ってこないのか?)
ドアスコープから覗いてみるが、暗くてよく分からない。しかし、耳を澄ますと鳴き声は聞こえてきた。どうやらゴブリンは湧いているようだ。
視界の悪い夜に、こちらから仕掛けることも無いかと棍棒を手に持ち扉を警戒する。ゴブリンが侵入してこないか、朝まで緊張が続いた。
結果として、ゴブリンが扉を開けようとすることは無かった。
(恐らく、あいつらはなんらかのルールに沿って行動している)
確実とは言えないが、屋内はそれなりに安全そうだった。他の人たちも、家に篭って息を潜めているのかもしれない。
(そうと分かれば、まずはレベル上げだな)
モンスター図鑑が埋まらないのは、少し、いやかなり残念だが、しばらくは食料もあるしゴブリンを狩ってレベルを上げることにした。
それからは、ゴブリンが湧いたらそっと扉を開けて、冷蔵庫を落とし、ドロップを回収する。そんな日がしばらく続くと、3日目には電気、1週間が過ぎる頃には水道とガスが止まった。
(インフラも止まってきたか。食料はまだ持ちそうだがまだ余裕があるうちに動いた方が良さそうだな)
電気が止まる前には、屋内に居た方が安全だということが掲示板などで広まってきてはいた。しかし、立て籠もれる期間にも限りがある。外に出なければ、襲われる危険は少ないがいずれ飢えて死ぬ。
(レベルも10になったし、スーパーかホームセンターまで物資を確保しに行くか……それとも災害時の避難所に指定されている近所の学校に行ってみるか)
悩んだ末に、先に物資の調達にホームセンターに行くことにした。この先のことを考えると、食料以外にも色々と調達する必要がありそうだからだ。
(もしかしたら、ホームセンターに立て籠もっている人たちがいるかもしれないけど、
そしたら、役に立ちそうな物を幾らか分けてもらおう)
先程ゴブリンは倒したばかりなので、ドアを開けて外に出る。ホームセンターまでの距離は2kmほど。モンスターに気をつけて進むとしよう。
道中、申し訳ないと思いながらも自動販売機や、建築現場の鉄骨などを収納していく。度重なる落下でもはやうちの冷蔵庫はボロボロになってしまい、新しい物が必要だった。
ここら辺にはゴブリンしか出現しないらしく、ホームセンターまでの道中に四匹ほどと遭遇したが、レベルアップの効果はかなり高いようで、気付かれる前に走り寄り棍棒で殴り倒すことができた。
「普通のゴブリンなら、棍棒で充分対処できそうだな」
それに、ゴブリンの数もそれほど多くはなさそうだった。あまり大勢来られても困るのでありがたかった。
しばらくすると、ホームセンターにたどり着いた。異変が発生したのは早朝ということもあるのか、車は止まっていない。
(車も無いし、人は居なさそうだな。それに)
駐車場には、ゴブリンが10匹ほどうろついている。その中には初めて見るタイプのゴブリンが混ざっていた。
(この中に突っ込む物好きもあんまり居ないか。新顔は、ナイフに剣に弓に杖が2匹ずつ、あとは普通のが2匹か)
新たに図鑑が埋まるかもしれないと思うと、嬉しい反面、その数と新しい敵に少し緊張も覚える。
(ふぅ、大丈夫だ。実験はしてあるし)
周囲も軽く見て回ったが、ここら辺に居るゴブリンは駐車場の10匹だけのようだ。慎重に行けばなんとかなる。
(先ずは、武器を奪う!)