159話
上空からチラホラと見えてはいたが、モスクワの街は至る所に氷像にされた人間たちが配置されていた。
公園のベンチや、歩道、オープンカフェのイス、建物の屋上、民家の庭や軒先。
屋内を除いてどこにでも配置されていて、氷像の表情は恐怖に顔を歪めていたり、泣いていたり、怒りを浮かべていたりと様々だ。
そんな凍りついた街の中でもモンスターたちは動き回っている。しかし氷像にちょっかいをかけることはなく、ただただ街をうろつくばかりなのでそこは少し安心する。
人間と見れば襲いかかってくるモンスターに氷像を壊されることはなさそうだ。
次に可能性は少ないと思うが、生存者を探した。
ただ海外で災害があった時、どういう行動をとるのが常識なのかわからない。
日本だと大体の人間が避難訓練を経験していて、各自治体で災害時の避難場所が指定されているし、そこに学校が選ばれていることも多い。
自分が住んでいた街も近くの学校が避難場所に指定されていたため、あの時宮田さんと木下さんと合流してから向かったのだ。
実際その後日本を旅した際も、大勢の人たちが各地の学校へ避難していた。校門を閉じているとモンスターたちは校庭に進入してこないので、結果的に良い避難場所だったと思う。
(海外ってそこら辺どうなのかな? 避難訓練とかあるんだろうか?)
などと考えながら歩いているうちに、学校らしき場所へとたどり着いた。閉ざされた校門を飛び越えて中を探索する。
結論からいうと生存者は見つからなかった。もしかしたら避難していないのかもしれないし、全滅してしまったのかもしれない。
気を取り直して劇場や大きなマーケット、ホテルなんかも探索してみたが人っ子ひとり見つからない。
モスクワ全体を囲む巨大な氷壁がいつできたかによるが、徒歩でこの街を脱出するのは難しそうだ。それこそモンスターに襲われるのも考慮すると透明化スキルを使えたり、空を飛べない限り不可能に近いと思う。
氷の壁は高さ五十メートル、厚さはざっと二十メートルはあった。街が氷の壁で覆われたあげく、上空には人さらいサンタが出てくる城があるなんてモスクワで生き残る難易度が高すぎる。
もうこの街で生き残っている人間はいないのではないか? そんな考えが頭をよぎる。
「はぁ、お風呂はいろ……」
今夜は最後に探索したホテルの一室を間借りしている。寝転がっていたベッドから起き上がり、LEDランタンの明かりを頼りにシュナイダーとお風呂に入った。
風呂あがりにモスクワの地図をボーッと眺めながら氷の城に乗り込むタイミングを考える。
(仮にあの城に氷像の原因となるモンスターが存在したとして、そいつを倒して氷像化がとけたら街中に配置された人たちが危険だよな……)
今はモンスターに襲われない氷像も、それがとけた瞬間襲われる可能性が高く、それでは助けた意味がない。
厄介なことに氷像は無限収納で回収できないのだ。氷像をプレゼント袋に入れて、そのプレゼント袋を収納することはできるのだが、直ではできないので大変なのだ。
街中のモンスターを処理しつつ、氷像になってしまった人たちをプレゼント袋に収納するか安全な屋内に運びこむ。途方もない作業だ。
(ゼロとシュナイダーがいるとはいえ、春までに終わるか?)
いや、そもそもプレゼント袋の中で氷像化がとけたらどうなるんだ? 何が起こるかわからない以上、氷像はプレゼント袋から出しておかないと怖いな。
それに残りのサンタも倒してプレゼント袋を回収することは必須だ。少なくとも自分が倒したサンタと、後を追ってきたサンタで二体は存在している。
サンタの総数を確認して、サンタを倒してプレゼント袋を回収してリポップする前に原因となる存在を倒して……駄目だ頭が痛くなってきた。
今日はもう休もう。ランタンの明かりを消して布団に潜りこんだ。





