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151話

(こりゃしばらく肉は食べられないな……)


 目の前に巨大な肉の塊が鎮座している。巨大過ぎるのと毒煙で隠れて全貌は分からないが、この場合はそれで良かったと思う。

 一部見えるだけでも腐りかけ、肉の塊に骨や管のような物が混ざり合ったモンスターは、蠢きこちらめがけて肉塊やよく分からない汁や骨を飛ばして攻撃してくる。

 当たってたまるかと全力で回避しながら一度上空に避難することにした。


(ふぅ、あんだけデカイとチマチマ剣で戦ってられないな。大火力で吹き飛ばすか)


 色々と慎重にやってきたが、アレとガチでやり合うのはちょっと遠慮したい。多少は地形が変わってしまうかもしれないが、もう人が観光に来ることもないだろうし勘弁してもらおう。

 ゼロにブレスを頼もうと近づいていくと、シュナイダーに臭いと言われ空中で静止する。

 自分を嗅いでみるが、もはや鼻が麻痺しているようで何も臭わなかった。すすっとゼロがこちらから少し距離を取る。


(うっ、こんな反応されたのは初めてだ……かなりショックがデカイぞ)


 これが自分の子供にお父さん臭いと言われる世のお父さんたちの気持ちなのだろうか?

 悲しいが今はあの肉塊を倒すのが先だな。匂いは後で何とかしよう。この距離でも別に会話はできるし……

 ゼロとシュナイダーに肉塊がいるあたりへ最大火力を放つように伝え、爆風を考慮して少し高度を上げる。

 黒龍剣を二本取り出して両手に構える。やったことはないが二本同時撃ちだ。手に入れたばかりの頃は日に数発撃つのがやっとというところだったが、レベルも上がり魔力も程よくドーピングしている今ならもっと撃てるだろう。

 何よりあの肉塊には、この匂いのお礼をしなければならない。おかげでゼロとシュナイダーに避けられたのだ。


 黒龍剣に魔力を込め終え、二人とタイミングを合わせて肉塊目掛けて魔力を解き放つ。夕暮れの空を黒い閃光が迸った。

 直後、轟音と共に爆風が吹き荒れ肉塊のいた位置を中心に毒煙が晴れる。

 それにしてもデカイ。今の爆発でも肉塊の身体は半分ほど残っており、まだ息があることが分かる。それによくみると、弾け飛んで黒焦げになった肉片が蠢きまた集まろうとしていた。


「くそ、よくあるやつだ! ゼロ、シュナイダー追撃を!」


 集まって再生でもするつもりだろう。そうはさせまいと次弾を放つ準備をする。もう一回くらいなら二刀流でも撃てそうだ。

 再度巨大な爆発が起こり、今度こそ肉塊は黒い霧になって消えていく。ドロップを回収し図鑑を確認する。


 125番 ブロブ アイテム1 謎肉 アイテム2 スクロール(再生)


 謎肉って……流石にこれを食べる勇気は湧かない。何だか蠢いているし骨やあの変な管まで混ざっているじゃないか。きっと食用じゃないはず、封印安定だ。

 一方再生のスクロールは何だか便利そうだ。即死でない限り、欠損部位も時間はかかるが再生するらしい。


(ただ、これを覚えたら人として何かが終わる気がしないでもないな。まぁいっか。便利そうだし)


 爆発によって晴れていた毒煙もいつの間にか元に戻っている。これで死の谷のモンスターはあらかた倒したし、夜の湧きを確認したら一旦ここを離れよう。


 結局夜もポップするモンスターは変わらず、今日は引き上げることにした。その際も匂いがダメらしく、ゼロとシュナイダーには距離を置かれて飛ぶことになった。悲しい。

 結局死の谷から程よく離れ、モンスターの少ないエリアにミニログハウスを出してお風呂を沸かし、全身をくまなく洗ってようやく近づく許可がおりた。

 しかし自分が綺麗になると、今度はゼロとシュナイダーの匂いが気になる。


「二人とも結構な匂いだよ。お風呂に入ろうか」


 まずはシュナイダーからだ。ミニログハウスに入り、お風呂を沸かし直してシュナイダーをあわあわのモコモコにする。いつももふもふのシュナイダーが更にもこふわになる。

 今までも何度か一緒にお風呂には入ってきたが、シュナイダーは綺麗好きなのか嫌がったことは一度もない。

 何度か洗うと匂いもとれてきたので、濡れてぺったんこになったシュナイダーの毛から水分を収納して乾かす。

 さて、お次はゼロの番だ。といってもゼロをお風呂に入れるなんてしたことがなかったな。

 そもそもが入浴できるサイズのお風呂が無い。無いなら作れば良いということで、地面をゼロがすっぽりと収まるまで掘り起こした。あとは魔法で水を出して温める。


 しかしこれが中々骨が折れる作業だった。なんせ水の量が多い。さらに四十度くらいのお湯になった段階でゼロに入ってみてもらったが、これでは温いというのだ。

 シュナイダーと協力して温度を上げていくが、もう既にお湯は沸騰している。これ以上温め続けても蒸発するだけだ。


「はぁ、はぁ。ゼロ、湯加減は?」


 最初とあまり変わらないと答えが返ってきてこけそうになる。ま、まぁドラゴンだし四十度も百度も誤差みたいなもんか……

 ちくしょう。戦闘とお風呂でもう魔力が底を尽きそうだよ。もういい、魔力がなくなる前にゼロをピカピカにしなくては。

 デッキブラシを取り出してゼロの背中に飛び乗り、ボディソープをぶちまけてゴシゴシとこする。シュナイダーも器用にタワシを使ってゼロを洗い始めた。


 二時間後、ピカピカになって満足げなゼロが謎空間に消えていく。自分とシュナイダーは疲れてヘトヘトになりミニログハウスに敷いた布団の上へと倒れ込んでいた。


「せ、戦闘よりゼロを洗うほうが大変だとは……」


 シュナイダーも仰向けに倒れ目を回している。今日はもうご飯を食べる元気も湧かない。最後の力を振り絞りシュナイダーと一緒に布団を被って眠りについた。


 翌朝空腹で目が覚め、朝食を食べながらシュナイダーと今度ゼロをお風呂に入れる時は人海戦術を使おうと話し合う。


「避難所の子供たちの力を借りれば何とかなるはず……報酬はお菓子か何かで……」


 シュナイダーが猫の手も借りたいと言う。どこで覚えたんだ?

 まぁいいや。シュナイダーが賢いのは今に始まったことではない。とりあえずの目的であった死の谷のモンスターも倒し、次の目的地を決めようとコーヒーを飲みながらロバさんにもらった資料を眺める。


(ふんふん、こうやって見るとロシアの民話にも結構な種類があるんだな)


 名前だけはゲームで見たことがあったり、ロシア版雪女みたいな話もある。国は違えど、人間自然に対して考えたり感じることは似るのだろうか。

 実は雪女さんたちは実在していたから雪山に対する恐怖とかではなかったけど……ロシアにも雪女さん的な存在が?

 まぁそれは良いとして、次はベーリング海峡を目指してみるかな。途中大きな雪原地帯もあるし、そこも探索してみよう。

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