146話
アレクセイさんたちと別れてから死の谷を目指して移動している間、残念ながらコミュニティは発見できなかった。
途中西に向かって大小の雪の塊が連なっていたので、気になって雪を収納してみると中から車が現れた。恐らく何処かへ避難しようとしている最中だったのだろう。
壊れていたり、横転していたりドアが開けっぱなしだったりと当時の混乱が伺える。モンスターに襲われたのだろうか。
死んでしまった人は死体が残らないので、この車に乗っていた人たちが助かったのかどうかもわからない。
「地図的にこの車が逃げてきた方向に死の谷がありますね」
「日本の避難所のように町中で避難できる場所はなかったんでしょうか?」
「モンスターがいる中を車で逃げようとしてますからよほどのパニックだったか、町にとんでもないモンスターがいるのか……行ってみないとわかりませんね」
お松さんが沈痛な表情で車を眺めている。どうしたのだろうか?
「いえ、この車には子供たちも乗っていたのかなと思って」
「お松さん……」
「まだやりたいことが沢山あったはずなのに……それでなんだか悲しくなってしまって。すみません、これまでこんな機会は何度かあったのに急に……」
お松さんはロシアにきてからも子供たちの面倒を見てくれていた。自身も理不尽な理由で若いうちに亡くなっているし、色々と思うところがあるのだろう。
落ち込むお松さんをシュナイダーが慰めている。こういう時にうまく言葉が出てこない自分に比べて、シュナイダーは凄い。
「ありがとうシュナイダー、もう大丈夫」
泣き止んだお松さんはシュナイダーに抱きついて、そのモフモフな身体でさらに癒し成分を補給していた。
車を辿り、死の谷方面へ向かう。道中見かけるモンスターはフロストイーグルにアイシクルベア、スノーマンにアイスフォックスといった登録済みのものばかりだ。
しばらくして車が逃げてきたであろう町に辿り着いた。観光地であっただろうその場所は、カラフルな煙のようなもので覆われていた。
赤、青、緑、橙、紫といった色が混ざり合うことなく絡みあって町中どころか、山の方まで立ち込めている。
「うわ、目にうるさい」
「観光パンフレットに載っていた町並みと随分と違いますね。やっぱりモンスターの仕業でしょうか?」
上空までは届いていないのでわからないが、見るからに身体には良くなさそうな煙だ。強化防風で防げるだろうか?
お松さんにどれだけ影響があるかわからないが、念のため収納に避難してもらい少しづつ高度を下げていく。
すると、シュナイダーがヤバイ匂いがすると忠告してきた。強化防風をまとっていても無理なのか?
これ以上降りるか迷っていると、空から何かが降ってくる。
「なんだあれ。鳥?」
意識を失った鳥の群れが地面に落下していく。死んでしまったのか、意識がないだけかはわからないが、どのみちあれでは助からない。
原因は恐らくあのカラフルな煙だろう。どうしたものかと一旦高度を上げる。鳥たちは自分たちよりも高く飛んでいたにもかかわらず、意識を失った地面に落ちていった。
自分たちが平気な理由は強化防風とレベルのおかげだろうか。それでもあの煙に直接突っ込んだらどうなるかはわからない。
「どうしたもんかな。これじゃあ町の人たちが逃げるのも当然だ。とてもじゃないけど暮らしていけないよ」
町に立ち込める霧を収納しようとしてみるができなかった。これはダンジョン化してるってことか? あの煙はダンジョンのギミックなのかな。
だとしたらあの煙に対処する方法はあると思うんだけど……多分毒ガス的なものだよな。
毒耐性スキルとかは覚えてないし、どこかにそんなスキルを落とすモンスターがいるんだろうか。
町中から未登録のモンスターの反応があるけど、下手に攻撃魔法を撃ったら町がめちゃくちゃになるしな……もう人もいないだろうけど、流石に気がひける。
一旦町は置いておいて、山の方に向かってみよう。
念のためある程度の高度を維持しつつ山に向かう。それほど高くない山が連なり、山頂付近にはあのカラフルな煙は立ち込めていない。
代わりに山々の間にある盆地には、適当に絵の具をぶちまけたような色合いの煙が立ち込めていた。
「ここら辺なら大丈夫かな」
生命感知を頼りにモンスターに照準を合わせる。火炎系魔法はもし煙が可燃性の物質を含んでいたら大惨事だし、風系魔法も下手に上空にあの煙を巻き上げると上昇気流に乗ってどこまでいくかわからない。無難に土魔法と弓矢でいくか。





