141話
この硬いのは何だろう? 横目でチラリと声の主を見ようとすると、再び動くなと低い声で言われカチャリと音がした。
もしかしてこれは銃を突きつけられているのだろうか? 映画でよく見るシチュエーションだ。子供たちの無事を確認しているということは、この人物が子供たちの保護者だろう。
こちらも別に敵対するつもりもないので言われたとおりにする。それに今更銃で撃たれたくらいで、このレベルの上がった身体がどうにかなるとも思えない。身代わり人形もあるし。
「お前一人か? 子供たちはどうした」
「子供たちは無事ですよ。近くの街で仲間が保護しています」
覚えたてのロシア語を繋げて何とか説明する。うまく通じるだろうか?
「仲間は何人いる? 目的は何だ?」
目的って言われても、随分と衰弱していたから保護したんだけど……仲間は三人だと伝える。しかしこれはこちらが子供たちを攫ったと誤解されているのだろうか?
今度は銃を背中に突きつけられ、腕を頭の後ろで組んで歩けと言われる。案内しろってことか。
しかし、この雪の中を歩いて行くのは……街まで結構距離があるぞ。
「あの、こちらは別にあなたがたをどうこうしようなんて気はないんです。それに歩いて行ったら時間がかかるので空を飛んで行きませんか?」
返答はなくしばらく沈黙が辺りを支配する。伝わらなかったかな? それともまだ疑っているのだろうか。
「空を飛んでいくとはどういうことだ? 馬鹿にしているのか?」
「仲間が空を飛べるので……呼びますけど驚いてその手に持っているの使わないでくださいね」
ゼロが銃でどうにかなる訳もないが、仲間が撃たれるのも気分が良くないので忠告しておく。このままグダグダやっていても拉致があかないし、子供たちも目を覚ましているかもしれない。ゼロに目の前に出てきてもらうことにした。
目の前の雪原に突如として現れたゼロの巨体に、後ろの人物が息をのむ気配がした。
「子供たちが心配なんでしょう? 乗ってください。早く行きましょう」
ピョンっとゼロの背中に飛び乗り声をかけるが、軍服姿の男性は動かない。あっ、屈まないと乗れないのかな。ゼロに乗りやすいように屈んでくれと頼む。
しかし次の瞬間、素早い動きで軍服姿の男性に首を伸ばしたかと思うと、口の中に収めそのまま街へ飛び始めた。
「食べちゃダメでしょ……え? 危ないからしまっておくって、自分の真似?」
確かに敵の武器は収納で奪ったりするけど……ちょっと過激な運搬方法じゃないか? するとゼロは甘噛みだし大丈夫だという。
「怒るだろうなぁ……」
あっと言う間に街にたどり着き、ミニログハウスを建てた場所に降りる。
ゼロが口から唾液まみれになった男性をそっと地面に出す。男性がふらりと前のめりに倒れそうになるのを慌てて駆け寄って支える。
近くで顔を見るとこの男性もかなり頬がこけていて、あまり栄養状態が良くないように見えた。ヨダレを収納して服を乾かし、肩に担いでミニログハウスに運び入れる。
「ただいまー」
「あっ、お兄さんおかえりなさい」
「お松さん、子供たちは目を覚ましましたか?」
「いえ、ずっと眠っています。疲れてたんでしょうね」
そう言って痛ましそうな表情で子供たちに視線を送るお松さん。そうか、起きなかったか。
まぁ用意した食事は温めなおして明日食べればいいか。それより今は肩に担いだ男性だな。
布団をもう一組取り出して窮屈そうな軍服を収納でしまって脱がせる。ついでに武器類も一旦没収させてもらう。布団に放り込みようやく一息ついた。
「ふぅ、これで勉強に戻れますよ」
「お疲れ様です。お兄さん」
起きた時事情を説明する必要があるだろう。子供たちが外に出てモンスターに襲われてしまう可能性もあるし、ロシア語を勉強しながら時間を潰そうかな。
シュナイダーやお松さんには先に休んでもらい、明かりを少なくした中でちゃぶ台に露和辞典とノートを広げ勉強する。数時間ほど経つと、唐突に声をかけられた。
「ここは、何処だ?」
声のした方向に振り返ると、男性が上半身を起こしてこちらを見ていた。
「ここはあの教会の近くの港町ですよ。この建物は自分の拠点です。子供たちもそこに寝てますよ」
「そうか、どうやら助けられたようだな。疑ってすまなかった」
「いえ、良いんですよ。何か飲みますか?」
ウォッカをくれと言うのでミネラルウオーターのペットボトルを布団の上に収納から出すと、一瞬目を見開いた男性は肩をすくめてから飲み始めた。





