130話
暗くなるまで周辺のモンスターを狩り、日も暮れ始めた頃、昨夜と同じ場所にミニログハウスを出して待つ。
しばらくすると、風の音が強くなってきた。先ほどまではそれほど天気も荒れていなかった。これはおいでなさったかな?
「ちょっと見てきますね。お松さんは留守番していてください。シュナイダーは大丈夫だと思うけどお松さんについていてあげて」
「はい! お気をつけて」
いってらっしゃいとお松さんとシュナイダーに見送られ、扉を開けて外に出る。吹き付ける吹雪を防風で和らげながら周囲に目をこらす。肉眼で確認できる範囲にはそれらしきモンスターの姿は見えない。
(生命感知にも引っかからないし、どこから攻撃してるんだろう。それとも感知系スキルを妨害する能力でも持っているのかな)
ミニログハウスからゼロに乗って移動する。距離が離れるにつれ、風の勢いは収まっていった。やはり不自然にミニログハウスの周りだけ天候が悪くなっている。
しかし、相手を見つけないことには戦うことすらできない。ゼロがどうすると問いかけてくる。
「そうだなぁ……ん? 何か動いたな」
視界が悪くハッキリとは見えなかったが、木の陰で何かが動いたような気がした。
モンスターかもしれない。近づいていくと冬の雪山にもかかわらず、白い着物を着た少女が木の陰に隠れているのを見つけた。
少女はこちらに気がつくと腰を抜かして、雪の上に尻もちをつく。
なんだか様子がおかしい。それに生命感知にも反応がない。話しかけようとした瞬間、猛烈な風と雪がこちらに襲いかかった。
「せっちゃんから離れなさい! この化け物!」
「ゆきちゃん!」
(なんだ?! もう一人いる。人だったのか?! もしかしてゼロに乗ってる自分が見えてないのか? とにかく落ち着いて話を聞いてもらおう)
ゼロから飛び降りて謎空間に戻ってもらい、声をかける。
「化け物が消えた?! やったの?!」
「気をつけてゆきちゃん。何か空から落ちてきたよ!」
「あのー! 自分は化け物じゃなくて人間です! あ、やめて! 攻撃しないで」
「お母さんを捨てた人間?! この野郎!」
「えぇっ?! まったく身に覚えがない。人違いですよ!」
どうしたら落ち着いて話を聞いてもらえるだろうか? モンスターっぽくないしあまり手荒な真似は出来ない。埋めたらこの吹雪は使えなくなるかな。いや、さらに敵対心を煽るか?
あ、ちょっと冷えてきちゃった。蒼炎を身に纏い雪を防ごう。防風で防ぎきれないとは結構強力な魔法だな。氷魔法だろうか?
「な……人間って燃えるの? やっぱり化け物じゃない!」
「あ、危ないよゆきちゃん! 逃げよ? 溶かされちゃうよ!」
(溶ける? 攻撃する気はないけど……本当どうしよ)
ほとほと困り果てていると、二人の少女を止める声がかかった。まさかの三人目登場である。
「ゆき、せつ、おやめなさい! どうやらその人はこちらと話をしたいようです」
「お母さん!」
二人の少女が同時に叫ぶ。どうやら先ほど言っていた母親が止めに入ってくれたようだ。そして二人は姉妹らしい。
「娘たちがごめんなさい。この子たちは人間を見たことがないのです。それで、私たちに何か御用ですか?」
人間を見たことがない? 何を言っているのだろうか。目の前にいる女性たちはどう見ても人間に見える。しかし、たしかに違和感はある。三人とも白い着物を身につけているだけで、冬の雪山にいるのに防寒のぼの字もない。
「あーっと、昨夜そこに山小屋を出して野営していたんですが、朝起きると雪でうまっていてモンスターに攻撃されたのかと思ったんです。それでそのモンスターを倒そうと探していたんですが、どうやら娘さんたちの仕業だったようで……」
「それは、娘たちが失礼をしました」
「え、あの小屋あなたのだったの? てっきりあの家と似た化け物かと思って雪に埋めちゃったわ」
「それに、また出てきたからきっと化け物だと思って……ごめんなさい」
家の化け物って、迷い家のことか? あー、たしかにここら辺で戦ったし紛らわしかったかな。カッパと相撲をとった後に倒したんだったか。動かないし楽な相手だった。
「なんだか行き違いがあったみたいですね。良ければ情報交換をしませんか? この山にも避難している人たちがいるんでしょうか?」
「いえ、私たちはその……」
「あなた、あの化け物について何か知っているの?」
「うーん、知っているかと言われると難しいですね。モンスターたちが現れた原因とか目的はさっぱりわからないですから、ただ敵対しているのは間違いないですね」
「そうなんだ。人間も困ってたのね」
「迷惑ですよね。こっちが先に住んでた山にきていきなり襲いかかってくるし」
「へー、皆さんはこの山に住まれてるんですね」
「そうそう、雪女の里に……あっ」
「ゆき!」
「ゆきちゃん!」
なんだか今とんでもない言葉を聞いた気がするぞ。雪女って、あの雪女か?





