129話
(起きて、起きてください……)
(うっ、なんだこの声は……)
(朝ごはんを待つ人が居ます。目覚めるのです)
(朝ごはん……? 朝か、起きなきゃ……)
しかし暖かい布団から出られる気がしない。なんだ、この寒さは。そしてあの朝ごはんを求める声は一体……? このままでは布団の誘惑に負けて二度寝してしまう。それはいかんと気合いを入れて布団から起き上がる。
「うおっ! さっむー」
昨夜はかなり降ってたからな。山の中だし積もってるだろうな。収納からダウンジャケットをだして着込む。
「もー、お兄さんいきなり起きないでくださいよ! びっくりしちゃった」
「あ、お松さんおはようございます」
何故か自分の枕の横にひっくり返っているお松さんへ朝の挨拶をする。お気に入りのネズミの着ぐるみを装備して頭をさすっている。
「もしかしてさっきの声はお松さんですか? 起こすなら普通に起こしてくださいよ」
「えへへ、バレましたか? 雰囲気を出してみました」
なんの雰囲気なんだ。まぁいいや、腹ペコさんもいるようだし朝ごはんにするか。うーん、やたら冷えるしチャボさんのところで食べよう。
「いや〜、温まりましたね」
「チャボさんのお味噌汁は最高です」
和食か洋食かで悩んだが、どちらかといえば朝はご飯派なので朝定食を頼んだ。
お松さんも色々食べるが、やはり食べ慣れたご飯と味噌汁が好きなようで同じものを頼んでいた。
冷えた身体に熱々の具沢山な味噌汁がしみ渡り、最初に口をつけると手を止めることができず、二人とも一気に食べきってしまう。
ご飯も味噌汁もおかわりをしてお腹いっぱい食べ、食後のお茶をいただき一息ついてからミニログハウスに戻ってきた。
「しかし異様に寒いですね。昨日はこんなに寒くなかったのに」
「お兄さんも着ぐるみ着たら暖かいのに。ねー? シュナイダー」
アヒルの着ぐるみを着たシュナイダーがお松さんに同意を促され、確かにこれは快適と頷いている。
「いや、二人は似合うからいいけどね。自分は遠慮しとくよ」
何やら着ぐるみは寒さにかなり強くなるようだが、ちょっと自分には見た目が可愛い過ぎる。せめて顔が出ないタイプなら考慮したが、顔が出ちゃうんだもの。
自分は真紅龍の鎧で大丈夫だ。こちらも耐寒性がある。それはさておき、準備できたしそろそろ出発しよう。
扉を開けると白い何かが足元に溢れる。雪だ。目の前に白い壁があった。積もりそうだとは思っていたがまさかこれほど積るとは……
「凄い。これ全部雪ですか?」
「みたいですね。自分も雪国出身ですけど、こんなに積ってるのは初めて見ますよ」
扉は完全に雪に埋もれて、少なくとも三メートル以上は積もっているだろう。山の中とはいえ一晩でこんなに積るものだろうか?
シュナイダーとお松さんがミニログハウス内に入った雪をツンツンとしている。まさか、本当に収納を使って除雪することになるとは思わなかったが、さほど労力がかかるわけでもない。
目の前の雪を収納していく。収納していくはしからドサドサと雪が落ちてくる。
「えぇ、これどんだけ積もってるんだ?」
しばらく収納を続けると、ようやく雪が落ちてこなくなった。外に出て上を見上げてみる。
「流石におかしいだろこれ、十メートルくらい積もってないか?」
昨夜の吹雪と積もったこの雪はなんなのかという青空が見える。収納を駆使して穴を広げながら空中浮遊で雪の上に出た。
「これは、随分と局地的な豪雪だなぁ」
見下ろすとミニログハウス周辺だけが、大量の雪で埋もれている。冬の山中なのでもちろん他にも雪は積もっているのだが、ここら辺だけが異常だ。雪崩に巻き込まれたとしても、こうはならないと思う。
こうなると原因はモンスターくらいしか考えられない。もしかして昨日寝ている間、この近くにこれだけの雪を降らせるモンスターが湧いていたのかも。
「寝てたもんなぁ。起きている間は生命感知にそんな反応はなかったけど、範囲外の遠距離から攻撃された可能性もあるか……」
しかしミニログハウスは特性的に攻撃されないはずではないか。いや、もしかして効かないモンスターもいるのか?
でもその割に中に侵入してくるでもなく、周りを雪で埋めるだけか。屋内に侵入してこないというところは守られているのかも。とにかくミニログハウスを掘り出してモンスターを探そう。発掘作業は一瞬だ。
「いないなぁ、吹雪き始めたのは夜だし夜に湧くモンスターなのかも」
あの後周辺をゼロに乗ってくまなく探索したが、それらしいモンスターには出会えず、何かヒントは残っていないかと、再度元の場所へと戻ってきていた。
「お兄さん、どうするんですか?」
「そうですねぇ、今夜はここでもう一泊してみようかな。起きてモンスターが来ないか待とうと思います。





