128話
「ふわぁ〜、暖かい。これならいけそう」
一度は寒さに負けたお松さんだったが、やはり外の景色を眺めながら旅をしたいとのことで、防寒用に着ぐるみが装備できないかと試してみたらなんと装備することができた。
(半分くらい冗談のつもりだったんだけど、まさか装備できるとは……アイテムとして収納できたり防具を装備できたりと、お松さんは一体なんなんだ?)
人形に乗り移っている時はご飯も食べるし……自分の中で幽霊というものの概念が崩れていく。もはやお松さんは幽霊だとかそういう存在ではないのか?
ネズミの着ぐるみを装備してはしゃぐお松さんをねこさんが怪しい瞳で見つめている。瞳孔が縦に細まり、本物の猫のようになっていた。
「いぬさん。なんでねこさんを抑えてるんですか?」
「早く行くわん。それかお松ちゃんは着替えたほうがいいわん」
呼び覚ましてしまったというのか。ねこさんの狩猟本能を。しかしネズミはお松さんのお気に入りだ。他にも試した結果これが一番好みのようで、耳や尻尾を動かしている。
えっ?! 動いてる……いやそれよりも早く外に出たほうがいいか。
「お邪魔しました。ほら、お松さん行きますよ」
「あ、お兄さんもう行くの? じゃあ皆またね!」
追憶の広間からミニログハウスに戻ってきた。地元の避難所を旅立ってからすでき数日経過していた。前回北上した際はまっすぐに北の大地を目指したが、今回はダンジョンやワープゲートを探しつつ、蛇行して移動しているのでまだそんなに進めていない。
まだダンジョンやワープゲートは見つかっていないが、モンスターの分布には変化があった。それまで主に見かけていたゴブリンの数が減り、アサシンリザードなんかはほぼ見かけていない。
そのかわり、以前北の大地で出会ったスノーマンやフロストイーグルを見かけるようになってきた。夏には本州で見かけなかったモンスターたちだ。確実に変化は起きている。
(これは新モンスターが期待できそうかな? とりあえずいろいろ狩りながら北上していこう)
現在位置はカッパたちと相撲をとった山の中だ。日が落ちてからも少し狩りをしてまわっていたのだが、特に収穫もなく今夜の野営にとミニログハウスを出し、チャボさんのところで夕食を済ませお松さんを回収してきた。
すっかり暗くなった外では結構吹雪いている。先ほどまでこの吹雪の中狩りをしていたのだ。我ながら頑張ったな……まぁ成果はなかったのだけど。
お風呂入って寝よう。排水設備なんてないミニログハウス内だが、そこは無限収納があるので荒技が可能だ。濡れても収納ですぐに元の状態に戻せる。やはり便利な能力だ。
ホームセンターで回収していたバスタブに、水流で水を張り温熱付与で少し熱めのお湯にする。体を洗っているうちに程よい温度になるはずだ。
入浴前に覗きの前科があるお松さんを収納にしまおうとすると、待ったがかかる。
「違うのお兄さん! 前回も言ったけどあれは決して邪な心でやった訳ではないの! 知的好奇心だったの。信じてください!」
「いや、その言い分はわかりました。でも嫁入り前の娘さんがはしたないですよ。もっとこっそりと自分以外で知的好奇心を満たしてください」
「うぅ、許してぇ。許してくださいー」
許しを乞うお松さんを収納して入浴をし片付けも済ませる。最初からこうするか追憶の広間に預けたら良かった。
収納から取り出されたお松さんは非常にしょんぼりとしており、充分反省したようだ。
いつまでも怒っているのも可哀想なので、今回はこれで許してあげることにする。
「それじゃあ消しますよ。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
灯りを消し、小さな布団に潜り込んだお松さんのさんに就寝の挨拶をして自分も布団を被る。シュナイダーは謎空間でゼロとお休みだ。外はまだ激しく吹雪いている。風の音が凄い。
(明日の朝は積もってるだろうな……以前なら次の日出勤前の雪かきが憂鬱だったけど、今なら収納で一瞬だ)
そんな呑気な事を考えながら眠りにつく。そして次の日の朝、想像以上の事態に驚くことになった。





