127話
結局モチの出現により、季節限定のモンスターの存在を確認してしまってからは、避難所でのんびりしていることもできず、三が日の間珍しいモンスターはいないかと狩りに出かけてしまった。
掲示板や各地の避難所からの情報提供だけでは、見つけられないモンスターもいるかもしれない。この季節を逃すと次はまた一年後だ。居ても立っても居られず、新年早々モンスターを狩りまくる。
両親は呆れ果て、自分のことは気にせずお松さんと楽しく新年を過ごすことにしたようで、もはや何も言ってこなかった。娘ができたようで楽しいと、仲が良いようでなによりだった。
良いんだ。自分にはゼロとシュナイダーがいる。しかし結局今年のところはモチとカガミモチ以外のモンスターは見つからず、収納には大量の丸餅とその他モンスターのアイテムが溜まっただけだった。
「ヒデ、しばらく餅はいらないぞ」
「うん。もう来年の分もあるからしばらくモチ狩りはいいかな?」
流石に三が日で日本全国は回れなかったので、近隣の県くらいしか回れなかった。丸餅が大量に余っているので、宮田さん木下さんのところにも新年の挨拶ついでに餅を大量においてきた。
餅はあまり日持ちしないが、あそこは地元の避難所よりも人数が多いので消費しきれるだろう。地元では自分が大量に餅を持ってくるので、最初は喜んでいた避難所の人たちも次第に飽きてしまい、食べきらなかった分は結局自分が収納にしまうことになった。
「まあ、何でも短期間で食べ過ぎると飽きるよね」
「ああ、でも年一でしか餅は食えなくなるのか……今までもそんなに食ってなかったわ」
「食べたくなったら連絡してよ。まだまだいっぱいあるし、追憶のダンジョンには季節限定モンスターも湧くから、その気になれば年中食べられるよ。流石に海外に行ってたらすぐに戻ってはこれないけど」
そう、追憶のダンジョンにはしっかりとモチたちが湧いたのだ。これでもし季節限定モンスターのドロップが激渋でも、とりあえず一体倒しておけばドロップの回収は可能だろう。本当にモンスター図鑑様々だ。
モチの確認ついでといってはなんだが、チャボさんねこさん、いぬさんロバさんにも新年の挨拶をしてきた。
「しかし海外か、止めろとは言わないけどかなり危ないんじゃないか? ヒデも初期のニュースや動画で見たろ、あの船を飲み込むような奴とかバカでかいやつ。あんなのばっかりだったらどうするんだ?」
「そこは、やばそうだったら引き返して別のルートを探すよ。倒せそうになってから倒しにいく」
「最終的に倒しに行くのか……まぁおじさんやおばさんもお松さんに構って何でもない風にしてるけど、実際無茶苦茶心配してるからな。絶対無茶すんなよな。もちろん、俺だって心配してる。必ず生きて戻って来いよ」
「うん、約束するよ。海外でワープゲート見つけたら一旦戻ってくると思うし、お土産に期待してて」
「はぁ、大した奴だよ本当」
それからしばらく遅れた正月休みを避難所で過ごす。自分だけならまだしも、ゼロやシュナイダーに付き合わせっぱなしだったしな。二人ともあまり気にしていない風だったが、たまにはのんびりしよう。
ワイバーン隊に混ざってモンスターを倒しに行ったり、子供たちと遊ぶゼロとシュナイダーを眺めたり、追憶の広間に行ってゲームをしたりとまったりとした時間を過ごす。
「ちょっとゆっくりし過ぎたよ。そろそろ出発しようかな」
「あら、まだゆっくりしていけば良いのに」
「そうだ、まだ寒いし風邪ひくぞ?」
こちらを引き止める両親には、仲良くなったお松さんと離れたくないという思惑が見てとれる。母さんなんかお松さんの服を夜なべして大量に縫っちゃって、べた可愛がりしていたし、父さんも実の娘のように可愛がっていた。
お松さんに両親とも仲良くなって避難所でも受け入れられているし、ここでしばらく腰を落ち着けてみては? と提案してみたが、まだ世界を見てまわりたいそうだ。
まぁ本人がそういうなら連れて行くのは構わない。いざとなったら収納か追憶の広間に避難させられるしな。
「しかし急だな。すぐに出るのか?」
「明日には出ようかな。今度は北に向かいながらワープゲートを探しつつ、行けそうならそのまま大陸に渡ってみるよ」
「気をつけなさいよ? お松ちゃんもいるんだから」
「ゼロ、シュナイダー息子を頼んだぞ」
そして翌日、両親とカツ君に見送られて北へ飛び立った。シュナイダーに乗ったお松さんが話しかけてくる。
「うぅ、お兄さん。こんなに寒いのにさらに北へ行くの?」
「最初は自分も避けようと思ったんですけどね。以前旅した時はワープゲートやダンジョンの存在を知らなかったので、地上のモンスターばかりに気を取られてたんですよ。なので再探索しつつ、北へ向かって海外に渡ろうかと」
西日本はもう一往復したから、次は情報が少ないうちにまわった東日本だ。ロバさんもいるし、また違った発見もあるだろう。
しかしお松さんは幽霊なのに寒がりだな。自分やゼロ、シュナイダーは防風なんかの魔法で和らげているのもあるが、結構大丈夫なのに。レベルの効果もあるのかもしれないな。
あまりにもブルブル震えているので追憶の広間のコタツに運び、ねこさんたちによろしく言っておいた。
さて、今度はどんなモンスターが待っているかな。





