118番
何だかんだ強敵と戦う時は屋外だったからな。いざとなったら逃げることもできたけど、ここは腹をくくってやるしかないか。
まだモンスター図鑑は完成してないんだ。ここでやられる訳にもいかない。
「お、良いツラになったじゃねぇか。くくく、イジメがいがあるぜ」
「イジメは良くないですよ」
鬼が再び口を開こうとした瞬間、鬼の背後に出現したゼロが頭上から噛み付きそのままパクリと一口に収まってしまう。
しかし、次第にゼロの口が開かれていく。どうやら鬼が口を開こうとしているようだ。
首を持ち上げ、鬼を噛み砕こうとするゼロだが鬼の力の方が上回っているらしく、ついにゼロの口が開かれてしまう。
(ダメか、なんつー力だ)
しかし、今なら確実にあたる。ゼロにブレスを指示する。口内に黒い魔力が収束していき、数瞬後、鬼ごと黒いブレスが部屋の壁に突き刺さり大爆発を起こした。
溜め時間は少なかったが必殺のブレスだ。このブレスのダメージで、あの鬼の耐久もある程度測れるだろう。
鬼の飛んでいった壁に向けてゼロが追撃のブレスを放ち続ける。こちらも黒龍剣に魔力を溜める。ちょっと時間がかかるのがネックだ。
突如、ゼロの黒いブレスが青い炎によって押し返され始めた。まずい、このままじゃ。咄嗟に鬼がいるであろう位置へ、黒龍剣を振るう。
門番たちを一撃で葬り去った黒い光があたったのか、青い炎が止まり再度大爆発が起こる。流石にある程度ダメージが入っただろう。
「痛えじゃねぇか……結構ヤバかったぜ」
爆煙の中から青い炎を纏った鬼が、しっかりとした足取りで歩いてくる。その様子はまだまだ余裕を感じさせる。
痛いと言いながらも、目立った傷は見当たらない。あの身体に纏った炎で和らげたのだろうか? しかし、着崩していた着物はさらにはだけ、白い胸板が露わになっていた。
(ん? 胸板?)
「なんだ? ジロジロ見て。今度はこっちから行くぜ」
そう言うとドンっと部屋の床どころか、城ごと揺れて、鬼がその場から一瞬消えたように見える。
次の瞬間には、目の前に迫る鬼が拳を振り抜こうとしていた。回避は間に合わない。至近距離だったため、盾を出すのも間に合わず両腕を交差させ拳を受けた。
(ぐあっ、熱痛い)
今度はこちらが吹き飛ばされる番だった。鬼が振り抜いた拳からは同時に青い炎が放たれ、炎に焼かれながら部屋の壁に叩きつけられ跳ね返る。
熱く、防御に使った腕も折れているのか動かない。だが蹲る訳にはいかない。ゼロとシュナイダーが時間を稼いでくれている間に、回復魔法を全身にかける。
「ちっ、すばしっこいな」
鬼はゼロの噛みつきや前足の爪を避けながら、その瞬足で素早くヒットアンドアウェイを仕掛けるシュナイダーを捕まえられずにいた。
おかげでこちらは全快できた。岩石鎧は剥がされてダメージを受けたが、少なくとも身代わり人形を消費するまでのダメージは受けなかった。
先ほどの攻撃が鬼の全力かはわからないが……ひとまず歯が立たないということもなさそうだ。一応こちらの攻撃でダメージも入っているようだし。
(シュナイダー、助かったよ。かわるから下がって回復して。ゼロはもうちょっと一緒に頑張って)
二人から了解が返ってくる。ゼロはブラックドラゴンに進化した影響か、ワイバーン時代より炎耐性がさらに上がり、炎によるダメージはあまり受けていない様子だ。
しかし、ふわふわのシュナイダーの毛が青い炎によって所々ダメージを受けている。なんて酷いことを……ゼロとシュナイダーの攻撃をかわし、隙ができた鬼の背中から斬りかかる。
鬼はこちらの攻撃に反応し、左腕で受け止める。刃が腕の三分の一程まで入るも切り落とすまではいかなかった。
鬼の動きが止まり、ゼロが首への噛みつきを狙いシュナイダーは足を狙う。鬼に焦った様子はなく、こちらの剣を受けたままシュナイダーは蹴飛ばされ、ゼロは牙を右腕で掴まれシュナイダーが飛ばされた方向へと投げられた。
「いいねぇ、まだまだ遊べそうだ」





