117話
鬼の攻撃をサイドステップでかわし、脇を黒龍剣で斬りつける。攻撃をかわしながらなのであまり力は入らなかったが、斬れ味抜群の黒龍剣は鬼のムキムキの腹筋をあっさりと斬り裂き、苦悶の悲鳴をあげさせる。
(裸だから鋼の肉体なのかと思いきや、普通に攻撃が通るな)
剣のダメージに呻きながらも、こちらへと拳を振り下ろしてくる鬼の胸に剣を突き刺す。厚い胸板をスッと貫き、あまりの手ごたえの無さにビックリして動きが一瞬止まってしまった。
慌てて剣を横に振り抜くと、胸を斬り裂き勢いそのままに左腕を落とす。倒れてくる鬼を飛びのいてかわし油断せずに剣を構える。
しかし鬼はそのまま黒い霧になって消えていった。
「……あれ? 終わり?」
ドロップもきちんと残っているし、図鑑にも登録されている。本当に倒したようだ。
ゼロもシュナイダーも出番がなかったと手持ちぶたさにしている。
113番 鬼丸 アイテム1 鬼力の数珠 アイテム2 スクロール(調理)
鬼力の数珠は装備すると力が上昇するようだ。良い装備なんだが、真紅の龍鎧とは見た目の統一感がないな。装備すると、鬼丸がしていたように右腕にはまる。
それにしても、見た目に似合わず調理スキルを持っているとは……意外と家庭的な鬼だったのかな。
しかし強者のオーラを感じる相手でもメダルを落とさないんだな。しかも案外弱かったし。妙に思いながらも、自分が思った以上に強くなっているのかもしれないと考え直し、部屋の探索をすることにした。
入り口の謎バリアはとけているのでいつでも出られる。どうやらボスを倒したら入り口に戻される親切設計ではないようだ。
まずはこれ見よがしに光っている財宝をスルーして、広い部屋を歩いてまわる。特に何もない。
「入り口へのショートカットもないのか……」
敵は弱いとはいえ少し面倒くさいねとシュナイダーと話ながら、財宝へ近づいていく。
大判小判に日本刀や槍、綺麗な織物や宝石なんかが山のように積まれている。
「凄いな、まさにお宝って感じだ」
シュナイダーは眩しいと目をつぶっているが、ゼロは少し興奮しているようだ。……そういえばドラゴンってお宝を集めたりするんだっけ? ゼロにもそんな習性が?
何個か収納にいれてみたが、特別な説明がでることはない。どうやら普通の品なようだ。異変前なら早期リタイアしても一生食べていけそうなお宝だが、今となってはまさに宝の持ち腐れだ。
しかし戦利品であることも事実なので、根こそぎもらっていこう。織物なんかは母さんへのお土産に良いかもしれない。ゼロはキラキラしているもの以外に興味がないようだし、キラキラはゼロのだな。
大量のお宝の回収も収納で一瞬だ。財宝が無くなると、松明で照らされた部屋が幾分暗く感じる。
さぁ帰ろうと扉に向かって歩く。扉まであと少しというところで、背後から突然声を掛けられた。
「おい、俺様のお宝持ってどこ行こうってんだ?」
途端、目の前の扉が青い炎に包まれる。炎はそのまま部屋の壁を伝うようにして燃え広がり、あっという間に部屋の床以外を覆ってしまう。
シュナイダーと同時に後ろを振り返る。そこには青い髪をした女性が立っていた。正確にいえば、女性型の鬼か。
床にまで届き広がる癖の無い長く青い髪は、毛先にいくにつれて色が濃くなっている。水のような、部屋を覆う青い炎のような不思議な色だ。
額からは二本の長い角が伸びており、先ほど倒した鬼丸よりも長い。着崩した着物から覗く肌は白く、肌の白い鬼もいるんだなと呑気なことを考えてしまった。
そして乙姫以来の喋るモンスターだった。咄嗟に鑑定眼を使い、その返ってきた結果に驚く。
なんだ? 計り知れない強さって……スカ◯ターが壊れちゃったよ。まだ53万とかのほうが良い。
「どうした? さっきから黙りこくって。お宝が欲しいのなら俺様を倒してからいきな」
「あのー、一旦返しますので日を改めてという訳には?」
「は? 通る訳ねぇだろ。俺様の飯炊き係までボコってくれちゃてからに、良いからさっさとかかってこい」
まんまと初見殺しに引っかかってしまった。聞いてないよ。





