108話
「頑張ってください」
「またですにゃ」
「着いて行ってあげられたら良いんですけどねぇ」
「わん」
追憶の広間の面々に見送られて、夜のお城へ向かうことになった。ミニログハウスに戻り外へ出る。
「夜の神社も怖いな……」
神聖な場所のはずだが、無人で灯りのついていない神社は雰囲気があって非常に怖い。和風ホラーの影響だろうか。
怖いところから怖いところへ移動するのだ。異変前なら絶対にしない行動だな。これも図鑑コンプリートのためなら致し方ないか。
シュナイダーが日本のお化けならお経で何とかなるんじゃない? 大丈夫だよと励ましてくれる。ゼロはお化けや幽霊は平気なようで、特に怖がっている様子はない。もそもそとゼロに乗り込み夜のお城へ向けて飛び立った。
少しお城から離れた上空で、生命感知の反応をチェックする。お城の周囲には昼間と違い、浮遊霊や虚無僧、スケルトンや人魂がウロウロしていた。
ここら辺は見慣れたモンスターなので、怖くない。特に虚無僧は破邪の経文を落とす良い奴だ。モンスターたちにお経をあげて昇天させ、城内へ入る。
お城の中にはモンスターは湧いていない。どうやらダンジョンとかではないようだ。
「もう良いかな? 特に何もないみたいだし」
お城がお化け屋敷になっていなくて良かった。よし、帰ろう。そうして踵を返すと、シュナイダーに何か聞こえない? 誰か泣いてるみたい。と声をかけられた。
シュナイダーは何を言っているのだろうか? モンスターの反応はないのだから、何かいる訳がないじゃないか。
「空耳じゃないか? モンスターの反応もないし、もう帰ろう」
しかしシュナイダーは、こっちから聞こえる。とトコトコと歩いて行ってしまう。
「あ、シュナイダー待ってよ。気のせいだってば」
迷子だったら大変だよ。と構わず歩いていくシュナイダーを追いかけ城内を進む。いや、いくら静かだとはいえ、泣き声がこんな城中に響くように聞こえるはずが……
「ひぃ、何か聞こえる」
若い女性の声だろうか。悲哀に満ちた泣き声が聞こえてくる。たまにブツブツと何か呟いているのがさらに怖い。色んな意味でモンスターだったほうがありがたい。しかし生命感知には反応がない。
いや、まだわからない。泣き声による自己主張が激しいが、幻想花のように生命感知をごまかすスキルを持っている可能性だってある。諦めちゃいけない。
そしてとうとうある部屋の前でシュナイダーが立ち止まり、ここだよと告げてきた。こちらを見上げて、開けないの?と言ってくる。
この襖を開けたら後戻りはできない……恐怖と緊張で身体が震える。そんな自分をゼロが、やばかったらブレスで吹き飛ばしてやると勇気づけてくれる。少し勇気がわいてきた。
いや、国宝だった。吹き飛ばしちゃいけないダメ絶対。ダンジョンは謎のダンジョン力学が働き、戦闘で傷つくことはないが、ここは普通のお城なのだ。ブレスはいかんよ、とゼロに念を押してから意を決して襖に手をかけ、一気に開け放った。
ゴクリと息を飲む。部屋の中央には浴衣のような着物を着た女性が俯いて立っていた。もう泣いておらず、ブツブツとなにもない畳に向かって何かをつぶやき続けている。
人間本当に怖い時は叫び声も出ないんだなぁ。と、止まりかけた心臓を必死に動かして頭も回転させる。
心臓が止まりかけたのと、この動けないのは攻撃じゃないよな? というか透けてないから幽霊じゃない? 浮遊霊はスケスケだしな。本当に人かもしれない。
様々な思考が頭の中を駆け巡る。特に良い案は思い浮かばない。とりあえずお経をあげるか? 幽霊だったら成仏してくれるかもしれないし、人だったら、突然お経を読み上げる変な人と思われるだけで済むかもしれない。
しかし怖いもの知らずのシュナイダーは、俯いた女性に躊躇なく歩み寄ると、どうして泣いているの? と話しかけた。
シュナイダー、相手が幽霊にしても人にしても、多分何を言っているかわからないと思うぞ。





