102話
大鰐さんの護衛の二匹を残して、ワニたちはパトロールに戻っていく。
「さぁさぁ、こっちですよ」
ドロップ品のオニギリを入れた袋を持つ大鰐さんが、両隣にワニを従えてスタスタと歩いていく。しばらく歩くと建物に着き中に招き入れられる。
「ふぅー、着きました。どうぞ座ってください」
ワニの飼育施設のバックヤードのようだ。大鰐さんが椅子に腰掛けて、こちらにも椅子を勧めてくる。
「ありがとうございます。それで、ここには大鰐さんお一人で?」
「そうですね、あの子たちを放っておくわけにもいかず逃げおくれてしまいました」
大鰐さんの話によると、異変発生直後、この温泉観光地にもモンスターが大量に現れて当然ながらパニックになったらしい。
当時は連休中ということもあり、沢山の観光客が訪れていて混乱は大変なものだったという。スタッフたちも何がなんだか分からず、避難を呼びかける者や我先にと逃げ出す者がいたそうだ。
そんな中、大鰐さんはここで飼育されているワニたちが、このまま放置されてしまうとどうなるか考える。餌を与える人間も居なくなり、閉じ込められたワニたちは食べる物に困り、もしかしたら共食いを始めてしまうかもしれない。
しかしいずれはそれも出来なくなり餓死してしまうのでは、と。ここで飼育員として働いていた大鰐さんは、ワニたちを可愛がっておりとても見過ごせなかったという。
「なるほど、それでワニたちを逃がしたと」
「はい……いけないことだとも考えんですけど、どうしてもあの子たちを放置して逃げることはできませんでした」
その後ワニたちを逃がした大鰐さんは、モンスターに襲われそうになったところをワニたちに助けられ、ドロップ品や残っていた食料で食いつないで現在に至ると……
しかし驚いたのはあのワニたちだ。大鰐さんの話を聞く限りでは、なんとテイムされているわけでは無いらしい。最初は偶然飼育員の大鰐さんを助けたのかもしれないが、先ほどの動きを見ると明らかに大鰐さんを守るように動いていた。
レベルアップで知能が上がったのもあるだろうが、大鰐さんに懐いていたんだろうな。
「わたしは逃げ遅れちゃいましたけど、結局助けたつもりのあの子たちに助けられて今日まで生き残りました」
「はは、情けは人の為ならずと言いますけど、その通りかもしれないですね。相手はワニでしたけど」
今度は自分のことを説明する。モンスター図鑑のくだりでは大鰐さんが、この人は何を言っているんだろう? といった顔をしていたが、日本全国にまだ生き残りがいて通信機能も回復したことを知ると、安堵の溜息をついていた。
「佐藤さんに会うまで、正直もうこの世には自分とあの子たち以外いないんじゃないかと不安になってました」
「結構人間もたくましいもんですよ、以前のようにとはいきませんが、変わり果てた世界でも新しい生き方を確立しはじめています。それで、大鰐さんは今後どうされますか? ご希望なら自分が近場の避難所にお送りすることはできますが」
「そうですね……やっぱりあの子たちを置いていくことはできないです」
ふむ、女性ながらと言っては大鰐さんに失礼かもしれないが、タフな人だ。それによっぽどワニたちが可愛いのだろう。
うーん、テイムして連れて行くにも数が多いからワニ全員は無理だしな。それに大鰐さんいわくワニたちはここの熱を利用して飼育していたので、避難所なんかに連れて行っても温度管理が出来ずに、あまり良くないかもとのことだ。それにワニたちの大きさと数でスペースの問題もあるし、テイムして完全にコントロールされている訳でもないので、人が大勢いる場所に連れて行って万が一のことがあっても困る。
「それじゃあ各地の避難所と連携を取れるようにしたほうが良いですね」
自分の考えを大鰐さんに説明すると、非常に助かるとのことでその方向で話を進めていくことにした。まずは最近会った鈴木さんに連絡して、こちらの事情を説明する。少し話し合ってから折り返し連絡するとのことで、通話を切る。
お次は大鰐さんのレベル上げだな。そしてテイムスキルを覚えてもらおう。今の段階でも大鰐さんとワニたちはかなりの絆で結ばれているが、テイムすることで完全にコントロールできるようになるだろう。と言ってもあくまでこちらの考えなので、大鰐さんに説明して返答を待つ。
「やってみたいと思います。佐藤さんよろしくお願いします」





