101話
「シュナイダー、匂いが辛いなら中に入ってたら?」
そう言うとシュナイダーは頑張ると言って、全力で強化防風を使い始めた。なんとか匂いを和らげようとしているらしい。
無理はしないように言って、匂いのする方へと飛んでいく。眼下に血のように真っ赤な温泉や、海のように青い温泉が見えてきた。他にも間欠泉が高く吹き出していたりする。
そういえばここら辺は有名な温泉観光地か。実際に訪れたことはないが、テレビなんかで見たことがある。しかし空から一望すると、また凄い光景だ。
「ん? なんだあれ、ワニ?」
しばしモンスターを探すのも忘れて、景色を楽しんでいると、温泉地を闊歩するワニを発見した。ワニのモンスターといえばメガクロコダイルだが、ワニの辺りからはモンスターの反応はない。それに、メガクロコダイルにしてはサイズが少し小さい。
そして何よりも、そのワニは周囲に湧いているオーガに襲いかかっている。
「そういえばなんか熱を利用してワニの飼育をしてるんだったか?」
もしかしたら、そのワニが野生化したのかもしれない。ワニたちはモンスターを連携して攻撃しているように見える。レベルが上がって知能のアップしているのだろう。
ワニがオーガを殲滅すると、何処からか人がやってきてドロップされたオニギリを拾い集めだした。ワニが襲いかかる様子はない。
「ちょっと話を聞いてみよう」
ゼロに高度を落とすように言ってゆっくりと近づいていく。ドロップを拾っている人物はまだこちらに気がついていないようだ。
「こんにちはー」
声をかけて手を振ると、こちらに気がついたようだ。ドロップのオニギリを入れた袋を落とし、腰を抜かしている。
しまった、最近避難所を訪れても皆ゼロに慣れていて、近づいても驚かせることはなかったので油断していた。男の子たちなんかはカッコいいもの好きだから群がってくるくらいだ。
腰を抜かした人物を守るようにワニたちが周りを囲み、こちらに向けて口を開けて威嚇してくる。しかしゼロとの力の差を感じているのか、不用意にこちらに襲いかかってきたりはしなかった。
「驚かせて申し訳ないです。こちらに害意はありません」
「ふぇっ?! 怪物が喋っ、ひ、人が乗ってる?」
「自分は佐藤と言います。モンスターを倒す旅をしています」
「こ、この子たちはモンスターじゃありません! 確かになんか凄くおっきくなっちゃってますけど、ただのワニです!」
「あ、それは把握してます。スキルに反応もないし、それにオーガを倒してましたから」
「オーガって、あの鬼みたいなやつですか?」
「そうです。すみません驚かせてしまったみたいで。空から見かけてちょっと話を聞こうと思ったんですが、最近周りが慣れてきていたので……配慮が欠けてました」
「あ、いえそんなご丁寧に。確かに驚きましたけど……良く見るとそのドラゴン君、イケメンですね」
二人でペコペコしあっていると、ワニたちが威嚇をやめてくれた。どうしたのかと見回すと、いつの間にかシュナイダーが降りてワニたちに向かって、何やら話している。
シュナイダーはこちらを振り向くと、もう大丈夫と言ってきた。何やら話しがついたらしい。
(シュナイダー、お前バイリンガルだったんだな)
ゼロから飛び降りて倒れている人物に近づいていくと、ワニたちが退いて道を開けてくれる。
「ありがとう。本当にすみませんでした、立てますか?」
「大丈夫です。あ、ありがとうございます」
手を出して助け起こすと、倒れていた人物が自己紹介をしてくる。
「わたしは大鰐と言います。外で話すのもなんですし、建物に入りませんか?」
ということで大鰐さんが拠点にしているという建物に案内されることになった。