終わりなき物語
或る日、一人の若い人間が終わりなき物語を読み始めました。そして、それを見詰める若い神がいました。
若い人間は来る日も来る日も物語を読み続けました。暫くすると、見ているだけの若い神は飽きて来ました。なので若い神は終わりなき物語を読む若い人間に話し掛けました。
「貴方は何の為に終わりなき物語を読むのですか?」
「さあ、やる事が無いからですかね」
「その物語を今まで読み終えた人間はいません。貴方に読み終える事が出来ますか?」
「さあ、そればっかりはわかりませんね」
若い人間はそ知らぬ顔で本に目を戻しました。若い神は、これは駄目だとその場を去りました。
それから何年も経ち、世界中を旅していた若い神は、あの若い人間と再び会いました。
若い人間は年をとり、もう老いた人間になっていましたが、その手にはしっかりと終わりなき物語が握られていました。
「読み終える事は出来ましたか?」
「さあ、どうでしょうか」
若い神はやっぱり駄目だったかとがっかりして立ち去ろうとした時、老いた人間が口を開きました。
「貴方はこれを読み終えた後に、何が起こるか知っているのでしょう?」
「いえ、それは読み終えた者にしかわかりません」
老いた人間は皺枯れた声でくすくす笑いました。若い神はなぜ笑っているのかわからず、怪訝な顔をしました。
「どうして笑っているのですか?」
「いえね、神にわからない事がどうして人間などにわかるのかと思いまして」
若い神は言いました。
「人間だからわかる事もあるんですよ」
「そう言う物ですか?」
「そう言う物です」
若い神と老いた人間はくすくす笑い合いました。
馬が合ったのか、若い神と老いた人間は一緒に暮らす様になりました。
それから何年か経ち、病気を患った老いた人間は今にも死にそうでした。
「終わりなき物語の終わりが見えたよ」
かすれて小さな声でしたが、若い神にははっきり聞こえました。
「それは良かった。これで私も安心して神界に帰れるよ」
「それは良かった。これで私も安心して眠る事が出来るよ」
若い神と老いた人間はお互いの手を取り、最後のお別れを告げました。
神界に帰った若い神は老いた神に言いました。
「終わりなき物語は、悲しい物語でした」