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秋葉原ヲタク白書13 裏アキバの百合メイド

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第13作です。


今回は、裏アキバにある私立幼稚園のお受験担当が失踪し、モンスターペアレントの仕業か?と園長から人探しを依頼されるコンビでしたが…


お楽しみいただければ幸せです。

第1章 メイドは夜の顔


場違いな(ひと)だ。


何しろ、身だしなみが上品過ぎる。

マリンブルーのノースリをインした大胆花柄フレアスカートの丈は膝まである。


「ごきげんよう。ミユリさんのお屋敷は、コチラでよろしくて?」

「ご、ご、ごきげんよう…ですと?」

「おかえりなさいませ、お嬢様。秋葉原のメイドでミユリと申します」


場違いセレブの出現にドン引きしたヘルプに代わってメイド長が直々に接客する。

ココは、ミユリさん(僕の推し!)がメイド長を務める秋葉原の老舗メイドバーだ。


場所柄、メイドも常連もヲタク揃いなので、昔流行ったシロカネーゼみたいなセレブの御帰宅(来店)は超常現象なみの激レア。


「貴女がミユリさんね?貴女にお話があってお邪魔しましたのょ」

「ワンオーダーをお願いします」

「あ、失礼。キール・ロワイヤルを」


おいおい!


アキバのメイドバーにシャンパンなんかあるハズないだろ!

…と、思ったらアラ不思議、シュワシュワと泡の出る怪しいカクテルが出て来る。


さすがはミユリさんだ。

炭酸水の瓶がチラ見えしたけど笑。


「ふぅ…美味しい。ところで、ミユリさん」

「はい。お嬢様」

「貴女と貴女の御主人様のコンビは、秋葉原で1番の街の便利屋だそうね」


便利屋?!


物事には、もう少し何か逝いようというモノがあるのではないだろうか?

確かに僕とミユリさんは、アキバで起こる事象を色々と扱ってきている。


しかし、ソレらは依頼され、期待には応える主義の僕が解決に導いてきたまでだ。

そもそも商売にはしていないので、ココはミユリさんもキッパリ否定して欲しい。


僕の本職は、あくまでSF作家であり…


「ええ。そうですけど何か?」←

「よかった。内々に人探しをお願いしたいと思っています。ウチの教諭なのだけど」

「ウチ、と仰いますと?」

「聖アンモナイト幼稚園。私は園長のリリス」

「聖アンモナイト?あの金澤町の?」


あ、金澤町と逝うのは、パーツ通りに面した1角の旧町名だ。

確か界隈に区立の大きな幼稚園があったけど、コチラは園名からして私立みたいだ。


あんなトコに私立幼稚園なんてあったっけ?


「先月から休みだして、今はすっかり行方不明になってしまったのです」

「警察に届けは出されたのですか?」

「総合的な判断から未だ控えております」


彼女は、幼稚園では入試係だったと逝う。

いわゆる「お受験」の担当だったワケだ。


「先月から、一部の熱心な御父兄から脅迫めいたメールが届いていたようなのです」

「脅迫…ですか?」

「つまり、入園させなければ何かが起こる、と逝う風にですね。実は毎年のコトではあるのですが」


東京には、いわゆる有名幼稚園というモノがあり、その多くは小学校受験の予備校(園?)なんだが、ソコに入るのが大学より難しい。


まぁ2〜3歳児の学力?なんて大差ナイので、勢い合否は親次第?と逝う面が強く、いつも親世代の異様な過熱ぶりが話題になる。


昔、モンスターペアレントって言葉が流行ったけど、モンスター受験生ペアレントとでも呼ばれるべき人々が巣食う世界なのだ。


心優しい教諭は、モンスターの脅迫に心が折れ、姿を消してしまったのかもしれない。


「わかりました。でも、やはりコレは警察のお仕事かと思いますが」

「ソレが…警察に逝く前にココにお邪魔したのには理由があって」

「伺いましょう、リリス園長」


ココで、今まで強気一辺倒だった園長先生が始めて躊躇うような素振りを見せる。

しかし、ソレも束の間、直ぐにいつも?の強気に戻って僕達にキッパリと告げる。


「彼女は…夜はアルバイトでメイドカフェのメイドをしていたようなのです」


第2章 裏アキバの巌窟王

私立の有名?幼稚園のお受験担当が、夜は秋葉原のメイドカフェでバイトをしている。

別に驚くコトではなく、メイドの卒業理由が保育士免許の取得なんてコトはよくある。


そう逝えば、前には幼稚園カフェなんてのもあったょね、直ぐに潰れちゃったけど。

知り合いのメイドさんが、突然幼女コスプレを始めて大笑いしたコトとか思い出す。


とりあえず、御屋敷(メイドカフェ)の名前を聞くと、案の定、メイド長はミユリさんの後輩。

手始めに、アイドル通り沿いのビル4Fにある御屋敷へミユリさんと御帰宅してみよう。


あ!でも、その前にリリス園長にどうしても聞いておきたいコトがある。


「ところで、僕とミユリさんのコトは誰から聞いたんですか?」


「あら?昭和通りのギャング連中がベタ褒めしてたのょ。みんなウチの卒園生なのだけど」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「おかえりなさいませ、お嬢…あ、あら?ミユリ姉様!お久しぶり!」

「ただいま、ヒカリちゃん。元気してた?」

「ハイ!あ、コチラが噂のテリィ御主人様ですね?へえぇぇぇ…」


へえぇぇぇ…なんなんだ?笑


メイド長のヒカリさんは、まるで動物園でパンダを見るような視線で僕を見る。

僕も彼女を見返すが、背高ノッポである以上の特徴はない…爆乳である以外は。


僕の視線に気づいたミユリさんが異様に長い溜息をついてから話を始める。


「実は、ヒカリちゃんのトコロのメイドさんを探しているの」

「ええ。お話は伺ってます。リリンちゃんですよね?ナイト(遅番)をお願いしてたんですけど、突然シフトに穴を空けられちゃって」

「単刀直入に聞くけど…彼女、誰かに脅迫とかされてなかった?」


すると、ヒカリさんはサスガはミユリ姉様!という感じでニッコリ微笑む。


「実は、御屋敷(おみせ)の方にもよく電話があって。何でも御相手は警察署長さんの奥様だとかで…」

「ええっ?警察署長の奥さん?」

「しかも、万世警察なんですょ。娘を幼稚園に入れろって。ウチも色々お世話になってるのでムゲにも出来なくて…」


署長夫人からの電話は執拗で、リリンさんが録音したモノをヒカリさんも聞いてみたら、内容的にも脅迫スレスレだったらしい。


コレはコレで、誰かに当たってもらう必要がありそうだが、問題はその次だ。


「彼女は、そのコトを色々と相談していたようですょ。青空相談のお世話にもなってたみたいで…」

「青空相談?」

「区がやってる無料法律相談のコトです。毎月第2土曜日に芳林公園。雨天中止」


おおっ!次回は今週末ではないか。

ミユリさんを誘って逝ってみよう。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


区の「青空相談」に逝ってみる。

正式には「ふれあい法律マルシェinアキバ2018」と逝うらしい。


まぁ実際には、公園の端っこに運動会の本部テントみたいのが張ってあるだけだ。

すぐ横では、アイドルヲタクが1チーム、揃いのTシャツでヲタ芸の練習に余念がない。


裏アキバの、のどかな公園風景…

と、思いきや!


「いらっしゃい!メイドカフェを始めるんですね?風営法の申請はお済みですか?もし未だならゼヒ私にお任せを!」

「え?え?何コレ?売り込み?」

「いいえ!コレは相談です!しかも相談は無料!」


テントの中は折り畳みの机が1つとイスが数脚。

そして、ヤタラ元気なお兄ちゃんが1人いて怒濤の勢いでグイグイ売り込んでくる。


営業用の微笑を浮かべたミユリさんが反撃の口火を切る。


「先生!色々と教えてくださいな。私ったら書類のコトとか全然わからなくて」

「おおっ!飛んで火に入る…じゃなかった、今日から私が貴女の開店までのパートナーだっ!が、その前にもう1度、私のコトを呼んでいただけますか…先生と!」

「モチロンです、"大"先生!ところで、この子を御存知?」


ミユリさんが、ヒカリさんからもらったリリンさんの写メをスマホで見せる。

リリンさんが、何処か懐かしい感じのメイド服で微笑んでいる写メだ。


すると…


「帰ってくれ」

「え?」

「帰ってくれ!… ヲレは巌窟王」


呆気にとられる僕とミユリさんを無視して、何と男は1人でテントを畳み始める。

ヤタラ手際がよく、あれョあれョと逝う間に全部片付けるやスタスタと立ち去る。


巌窟王だと?


流石に僕とミユリさんも、何が起こったか分からズ顔を見合わせるばかり。

ソコへ、ハンドサインを飛ばしながら、ストリート系のヲタクが駆け寄る。


「テリィさん、ミユリさん!探しましたょ!

ヲレ、セクシーボーイズの伝令なんスけど、マチガイダでウチのクイーンが待ってマス!」


第3章 鮫とサイバー屋からの報告


マチガイダに「鮫」と「クイーン」がいる。


あ、マチガイダは、ホットドッグステーションで僕達のアキバのアドレス(溜まり場)。

で、「鮫」と逝うのは、新橋警察の名物?刑事であるサメロさんのコトだ。


何でも、1度ホシに喰らいついたら死ぬまで離さない(超迷惑な)刑事魂の持ち主らしい。

人呼んで「新橋鮫」。


「おぅ。ロミジュリ戦争の時には世話になったな。まぁ座れ」


横柄な口調で僕達に着席を勧めるのだが、威圧感は全くない。

ナゼなら、新橋鮫の口の周りがケチャップで真っ赤だからだ。


「んーもぅ!ケチャップが口についてるじゃないの!子供みたいなんだから」

「え、そ、そうか?そりゃ…ま、まぁ座れ」

「テリィさん、お久しぶり。コチラが…巷で噂のミユリ大姉様って貴女ね?」


解説しよう。


最初の母性本能くすぐられまくりで女房気取って鮫の口の周りを拭くのはジュリ。

彼女はストリートギャングのヘッドの妹で俗に「昭和通りのジュリエット」と呼ばれる。


あ、セクボの伝令が逝ってた「クイーン」と逝うのも彼女だ。


次は…まぁ解説不要だね。

情けなく口についたケチャップをナプキンで拭いてもらって御機嫌なのは新橋鮫だ。


そして、3人目は…ぐげぇっ!


僕の鳩尾にミユリさんの肘鉄が鋭く決まって僕はマチガイダの床に七転八倒!

いや、ホントに床を転げ回ったんだょ、ヒドイじゃないか、ミユリさん!


「貴女がスピアさんね?先日は"ウチの御主人様"がお世話になったみたいで、ホントにありがとう」

「あらぁ?でも、今日もお世話をしに来たのょ?"貴女の御主人様"のお世話をね」

「ソレで、ジャージの下も流行りのスカート付きの白スク水でキメてきたのかしら?」


わ、わ、わ!ミユリさんが本気になってる!


いつも冷静なミユリさんを本気にさせるスピアは所謂(いわゆる)「サイバー屋」でかなりの腕利き。

トレードマークは白のスクール水着なんだけど、今日は赤ジャージの上下を羽織ってる。


あの赤ジャージの下はモシカシタラ…

あ、勝手に鼻血が←


「ジュリに頼まれて万世警察に探りを入れたけど、署長のトコロ、確かに今年は幼稚園受験みたいだな」


新橋鮫が内部情報をリークしてくれる。

どうやら、ジュリからの頼みは断れない間柄のようだ。


「署長はキャリアだからな。高学歴一家と逝うワケだ。幼稚園で受験なんて、ノンキャリにとっちゃ別の宇宙の話だがな」

「じゃ、やっぱり教育熱心な署長夫人の脅迫が全ての原因?まさか脅迫が嵩じてリリン教諭を誘拐しちゃったとか?!」

「でも、アリバイがあるのょ。リリンが消えた夜の防犯カメラの画像を確かめたけど、夫人は外出していないの」


割って入ったのはスピアだが、彼女にかかれば防犯カメラのハッキングなどは朝飯前だ。

さらに、アキバのハッカーならではの視点で色々と教えてくれる。


「リリン教諭、どうやらメイドをやるのは今回が初めてではなかったみたいね。と逝うか、幼稚園のセンセーになる遥か前からやってた筋金入りのメイドみたい」

「な、なんでそんなコトが?」

「最近はね、色々と便利なアプリがあるのょ」


僕達が、ヒカリさんから借りたリリン教諭のメイド服の画像をスピアの顔認証アプリにかけると、たちまち記事が数件ヒットする。


因みに、ヒットの過半はスズキくんが営業やってる"萌えマガ"の記事で、さすが地域密着型の(弱小)ミニコミ誌だと感心をする。


当時の"萌えマガ"に、未だ初々しいリリン教諭が両手でハートをつくって御屋敷のオープンを祝う写真付きの記事がある。


しかし、写真の中のリリン教諭はメイド服ではなく巫女さんのコスプレだ。


「でも、不自然なのょね。この記事」

「え?処女じゃナイのに巫女やってるとか?」

「バカ。このページだけ、レイアウトがヤタラ雑で大雑把なのょ。急ぎの差し替えでもあったのかしら」


上下の赤ジャージで、その下はモシカシタラ白スク水かもしれないスピアが頭をひねる。

彼女は、雑誌編集の経験でもあるのだろうか?まさかスク水専門誌の水着モデルとか←


と、その時。


「うわぁ!懐かしいなぁ!コレ、"萌えマガ"のバックナンバーですょね!」


何と"萌えマガ"営業のスズキくん御本人が、コレまた口の周りをケチャップで真っ赤にして現れる(が、拭いてくれる人はいない笑)。


「おおっ!"アキバ神社"だっ!コレ、ホント大変な目に遭ったんですょ!僕が未だ駆け出しだった頃の話ですょ!」


今でも駆け出しだろ!

死ぬまで駆けてろ!

にわかリア充 GO HOME!


なーんてツッコミがいつもなら御屋敷中に満ちるトコロだが、今回ばかりは、店内全員の関心と視線がスズキくんに集中する。


恐らく、こんなコトはもう2度と起こらナイであろう。

次の惑星直列が起きるまで笑。


「で、何かあったの?"アキバ神社"のオープンの時?」

「えっ?知らないんですか?」

「お黙りっ!早くお逝い!」


ジュリが叫ぶ。

彼女は元ズベ公なんだゴメン。


「ヲタクが非常階段で落ちて、半身不随になったんですょ。何でも出禁(できん)を巡って店長とモメてたとか…」


そりゃ深刻だ。


出禁(できん)、すなわち出入り禁止とは、店からお店に来るコトを禁じられるコトだ。

素行の悪い客などに対し、店側が取る最後の手段で客にとっては最大の屈辱。


「"萌えマガ"は店長のオープンに向けた意気込みとかをインタ(ビュー)済みで、後はレイアウトするだけだったのに全部ボツになっちゃったんデスょ!」

「ソレで急遽レイアウト変更をするコトになったワケか」

「でも、上手く仕上がってますねぇ!さすが徹夜で頑張った甲斐があったな!プロの仕事だ、エラいぞヲレ」


昔の自分の仕事を自画自賛して勝手に自己満足に浸るスズキくん。

あぁスピアにかかれば手抜き仕事のやっつけレイアウトらしいけど…


「あ、一般紙にもベタ記事が出てる。ヲタクが非常階段で転倒、だって」

「何か軽い奴でしたょ、"アキバ神社"の店長、いや神職だったかな」

「もしかして、この方かしら?」


スピアが手元のサーフェスでネット検索して当時の新聞記事を見せてくれる。

一方、別の画面に写っている"萌えマガ"の記事の写真をミユリさんが指差す。


御屋敷の前で、何人かの巫女に囲まれてオーナーと思われる男が笑っている。

未だメイドカフェが個人経営の喫茶の延長にあった頃、よく見かけた構図だ。


「あ、あれ?!」


巫女カフェ"アキバ神社"のオーナー兼店長は、何と青空法律相談の男ではないか!


第4章 百合達の夜


またも、場違いな(ひと)がいる。


膝丈のフレアスカートはともかく、プルオーバーの首元でパールとレースがエレガンスを声高に主張している。


「で、何かわかったのかしら、メイドさん?」

「ええ、行方不明のリリンさんが会っていた法律相談の人は、巫女カフェの元店長さんでした」

「何ですって!あのヲタクが階段から落ちたとか逝う巫女カフェの店長だったのね!」


ココは、ミユリさんがメイド長を務めるアキバの老舗メイドバーだ。

(メイド)探しを依頼して来たリリス園長を呼び出し、今までの経緯を話している。


「全く怪しい男ね!リリンは、きっと彼が元店長と知り、ソレを知った彼は正体が明らかになるのを恐れてリリンを誘拐したのではないかしら?ねぇ、みなさんはどう思われて?」

「でも、リリンさんは何でそんな昔の事件を掘り返しに逝ったのかな。それから、調べてみたら元店長のケンカ相手が半身不随と逝うのはデマで、今はスッカリ回復して"神田河岸148(ワン・フォーティーエイト)"の現場でTOを張ってるらしいょ」

「えっ?ソレはよかった…」


僕の話に、リリス園長はナゼか心から安堵した様子でホッと胸を撫で下ろしている。


因みに、"神田河岸148"はアキバ発の地下アイドルグループで全部で148人いる。

アキバには、アイドルの数だけTO(トップヲタク)がいるが神田河岸のTOと逝えば格が違う。


「で、でも、やっぱり怪しいわ!その元店長、もう少し調べていただけないかしら?」

「…ヤケに元店長に御執心みたいですね?もしかしてお知り合いなのでは?」

「えっ?ま、まさか…」


リリス園長が狼狽える。

ミユリさんがアッサリ切り札を切る。


「お久しぶりです、エヴァ巫女長。いいえ、今は聖アンモナイト幼稚園のリリス園長とお呼びした方がいいみたいだけど」

「な、なぜソレを…」

「貴女は、巫女カフェ"アキバ神社"で巫女長を任されていたエヴァさんですょね?神田明神の打ち水で何度か御一緒したミユリです。御記憶ありませんか?」


その年のアキバを代表するメイド達による神田明神の打ち水は、毎年全国ニュースに画像が流れる国民的?な夏の風物詩だ。


その夏の風物詩に、かつてリリス園長が出ていた?メイドとして?

教諭のみならず、園長までメイドをやってたのか?いや、メイドではなく巫女か笑。


さらに、巫女カフェ"アキバ神社"の元常連で今は地下アイドルグループ"神田河岸148"のTOが語った真実をミユリさんが話す。


「あの夜、非常階段で常連を突き飛ばしケガさせたのは、元店長ではなく、リリスさん、貴女だったそうですね」

「やめて…もう、やめて」

「確かにメイドの出待ちをした常連も悪い。しかし、乱暴されそうになって突き飛ばした常連が階段落ちして気を失った時、咄嗟に店長に罪を着せようと思った貴女は、やはり魔が差したのかしら」


「出待ち」とは、仕事を終え店を出るキャストを待ち伏せする一種のストーカー行為だ。


リリス園長、いやエヴァ巫女長は、「出待ち」していた常連を突き飛ばして失神させ、現場に店長愛用のライターを落として去る。


「私は、そうするしかなかった。あの時、私はとても大事な時期だったの!」

「当時、成人した貴女は、付属する金澤幼稚園を信託財産として受け取れるか否かの瀬戸際にいた。そう。貴女は、金澤寺のひとり娘だったから」

「そんなコトまで…そうょ!あの時の私にとっては、どんなスキャンダルも命取りだったのょ!」


金澤寺は、裏アキバの旧金澤町界隈にある、江戸時代から続く古い寺院だ。

エヴァは、サブカル好きが高じて巫女とかやってたが、実は寺のひとり娘。


その娘は、やがて成人し金澤寺が経営していた幼稚園を信託財産として受け取る。

ソレを機に、彼女はサブカルを卒業し幼稚園経営に専念する…リリス園長として。


その彼女の幼稚園が、今の聖アンモナイト幼稚園と逝うワケだ。

園名を変えミッションっぽさを出す彼女の戦略は当たって一部でセレブ幼稚園として名を馳せる。


「全てが順調だったのょ。何もかもが上手く逝っていたの。あの男が現れるまでは」

「信託財産騒ぎの時に貴女を(かば)い、スキャンダルを被った当時の店長さんのコトね」

「2人の夢だった。彼が店長の巫女カフェで私は巫女長として働く。毎日、巫女コスプレをして好きな人と過ごす。若かった。若過ぎたのょ、何もかもが!」


警察から現場に落ちていたライターをつきつけられた店長は瞬時に全てを理解する。

彼は、進んで取り調べに応じ、業務上過失致傷の罪を認めて、甘んじて罰を受ける。


ところが、全てが終わり、彼がアキバに戻ると、ソコにかつて未来を約束した巫女長の姿はなく、素知らぬ顔をした園長がいる。


既に男は「元」店長の立場で、2人で夢を語ったカフェは影も形もない。

絶望した男は、自分を苦しめた法律を狂ったように学び司法書士となる…


「ん?司法書士?ココは…司法試験を受ける、とかの方が話の座りがイイのでは?」

「ソコまで頭が良かったワケではナイのです」

「了解。話を続けて」


ミッション系のセレブ幼稚園の経営者として立派に成功したリリスの下に、ある日気がかりな情報がもたらされる。


「最近、秋葉原に風営法専門でかなりのやり手な司法書士が現れた」

「どうやら、区の無料法律相談へ訪れる客に営業をかけ顧客を増やしてるらしい」

「過去に萌え系の店を経営した経験もあるようだ」


胸騒ぎを覚えたリリス園長に逝われ、様子を見に逝ったリリン教諭は、そこでかつて巫女カフェの店長だった男と再会する。


リリン教諭から報告を受けたリリス園長は、昔の傷害事件がぶり返されるのを恐れ、偽りの誘拐事件のデッチ上げを思いつく。


リリン教諭誘拐の濡れ衣を元店長に着せて、忌まわしい階段の惨劇と共に、全てを過去の闇に葬ろうと画策したのだ。


「やめて!やめて!もう…」


両手で両耳を塞ぎ、泣き崩れるリリス園長。

カウンターから出たミユリさんが、彼女の肩にそっと手を置く。


「次は、貴方が逝く番ょ。彼、待っているらしいの、貴女のコト」

「ええっ?私のコトを待つ人がいるの?私は何処へ逝けばいいの?」

「決まってるじゃない。困った時には、先ず青空相談に逝きなさい。無料なのょ」


そして、ミユリさんは場違いな客にニッコリと微笑む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ところが、リリス園長が青空相談を訪れるコトは永遠にない。


「あぁ!ヤラレタわ、あの雌狸(めだぬき)!」

「まさか、肩書きと一緒に性的嗜好までチェンジとは!」

「結局、リリン教諭は何処にいたのょ?」


事件の解決?から数日が過ぎて、再び、ある夜のミユリさんのメイドバー。

僕も含めてカウンターの内外で御屋敷(メイドバー)にいる全員が天を仰いで嘆いている。


「まさか、リリスとリリンが百合とは!トホホ」

「結局、リリンはリリスのマンションに引きこもってたらしいぜ」

「元店長の巌窟王は、女を女に寝取られたとも知らずに罪を償ってたのか」


百合というのは、女子同性愛のコトで「ガールズラブ(GL)」とも呼ばれる。

そう、リリス園長とリリン教諭は、共に同性愛者、そして恋人同士だったのだ。


妄想の巫女長からリアル幼稚園長となったリリスは、ある日、百合に目覚める。

園長と教諭という関係も追い風?となって、秘密の恋は、ますます萌え上がる。


そこへ現れた、リリスの過去の「リアル男」。

恋人達は、共謀して彼の存在を消しにかかる…。


どうやら、ソレが今回の真相のようだ。

でも、まぁいいや。


だって、最初のリクエストは「リリンを探せ」だったょね?

今回も、ちゃんとリクエストに応えたコトにはなってるんだ。


まぁリクエストした人は、最初から答を知ってたみたいだけどさ。



おしまい

今回は、実は百合な幼稚園長と教諭、実は巫女カフェの元店長な司法書士、第12話で登場した敏腕?刑事の新橋鮫、白スク水のサイバー屋などが登場しました。


また、稚拙ながら伏線を張りドンデン返しを繰り返すストーリー展開に挑戦してみた実験作となっています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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