表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
システムソフトウェアの日常譚  作者: ありぺい
第1章 「ガーランドと星の少女」
8/14

パルサー・ルールという男

最近書けてなかったので、一話の量が若干多めです。

目が覚めると、意識の明瞭さと視界の不明瞭さのギャップに驚いた。

癖なのか、どうやら俺は意識の覚醒と同時に瞼を開かないようだ。と言っても、電子機器であるPN4と酷似する点が多い俺のことだから、そう驚くことでもない。どんな機械だって、電源を入れてから使える瞬間までの時間は僅かとはいえあるのだから。


「固くねぇ……」


そんな刹那の時間に、俺の背中は柔らかい感触を感じ取っていた。この世界に来て最初の目覚めが岩の上だった事を考えると、随分な出世だ。

むくりと起き上がり、この場所がピアの家であることを再認識する。

ソファーの目の前に置いてある長机には、読了後の魔道書が数冊置かれていた。


「ソファー上で寝てたのか、そりゃあふかふかな筈だ」


人の家でなかったら、文明最高とでも叫んでやりたいくらいの気分だ。安眠の素晴らしさを知ってしまった以上、もう野宿には戻れない自信がある。これからガーランド討伐の為に何泊もしながら旅をするというのに、快適さを満喫してしまった。


「おはようございますレイドさん。眠れました?」


キッチンの方からピアの声がする。

俺は、魔導書を棚に戻しながら返事をした。


「あぁ、このソファーに見事なまでに爆睡させられたよ」

「それなら良かったんですが、なんか申し訳ないです。私だけベッドで寝てしまって」

「いやいやいやいや!! 十分すぎるから!! 不法滞在黙認してもらって、寝床まで借りて、飯までご馳走になって、その上家主からベッドまで奪い取ったとなったら間違いなくバチが当たるって」


しかもガーランド討伐まで同行&サポートもしてくれるという。俺はこれだけの恩を、どうしたら報えるというのだろう。それくらい、今は助けてもらってる身だ。


「奪うとまではいかなくても、普通に一緒に寝ればいいじゃないですか」

「それはダメなんだ。そのな、なんていうか……倫理的に? 超えちゃいけない一線ってのがあってな。俺の場合それに触れるというか……」


ピアは分からないといった顔だ。無理もない。俺の訳あり度はちょっと普通じゃないし、詳らかに説明をしたとして果たして信じてくれるか、そもそも理解してくれるかどうかすら正直自信がない。そんな事情を抱えているものだから、迂闊に昔の話は出来ないのだ。故に、少女の寝床に入るなんて事は、同意であっても騙したようなものになってしまう。そんな卑怯な真似をする奴は犬に食われて死んじまえ、という確固たる意志が、一夜の誘惑を跳ね除けた。


「よく分からないですけど、ちゃんと寝れたなら良かったです」


そんなやりとりと朝食を済ませた俺たちは、ガーランド討伐への資金不足を解消する為に、あるところへ向かっていた。

場所は、昨日のギルドだ。

何故こんなところに戻ってきたかというと、話は昨夜まで巻き戻る――――――――




「馬車だってタダじゃない。食費の事もあるし、軍資金が全く足りてないのも問題なんだよなぁ」

「それに関しては安心してくれて大丈夫ですよ」

「どういう事だ?」

「実はですね………」


ピアは何か手紙のようなものを取り出すと、机に置いた。封に銀のシールの様なものが貼られているのを見る限り、送り主は相当お偉い様だと察せられる。もちろん、この時代にシールなんてある訳がないのだから、糊付けに決まっているが。


「これは誰から……?」

「ギルドの受付から、レイドさん宛にです」

「冗談よせよ、俺はこの街に来てまだ一日も経ってないんだぞ? 手紙もらう相手どころか、知り合いすら居ないはずなんだが……。それに、ギルドの受付っていったらあの爽やかな兄ちゃんの事だろ?」

「ですです」

「で、その兄ちゃんが手紙を寄越すって事はガーランド関連なんだろ? あ、もしかして、前言ってたガーランドに親を殺された剣士ってもしかして……」

「あー、残念。それはちょっと違うんですよ。でもニアピンです」

「ニアピン?」

「ガーランド襲撃事件の関係者っていうのは正解なんですが、剣士の方とは別人です。家族ではあるんですけどね」


家族という事は、まだ見ぬ剣士の彼と受付の爽やかお兄さんの関係は恐らく兄弟といったところだろう。ガーランド襲撃事件、家族の敵。これらのキーワードが指し示す事実は、彼らの両親がガーランドに殺されたという事実。

そう考えれば、この手紙も納得が行くというもの。俺が受注した件についてなにかあるのだろう。

封を切り中身を取り出すと、中からは「ガーランド討伐を援助します故、明日ギルドにてお待ちしております。」とだけ記された紙切れが出てきた。

この意味が分からないほど、俺は阿呆ではない。


「つまりは復讐の手助けか」


両親の敵を倒そうとしているものが出てきたから手を貸し、間接的に復讐を成し遂げる気なのだ。他人任せとは感心しないが、どんな事情があれど援助は援助。俺にとっては渡りに舟というやつだ。

それならばありがたく受け取るとしよう――――――




ここまでが昨日の出来事。

これで、ファインデリーズ随一のギルド「ギルド・パーベル」へは2回目の訪問となる。昨日と違うのは、入る時に使う場所が正面の両開き大扉ではなくて、路地に隠れた裏口という事だろうか。ここには先ほどまでの狂気じみた空気は薄くなっており、ひっそりとした雰囲気すら感じさせた。それでも微かに酒飲みの叫び声らしき咆哮が響くのは、さすがギルドと言ったところだろう。


軽快に鳴り響いたノックの音に応じて扉から顔を覗かせたのは、昨日の受付の青年。一度半開きで俺とピアの姿を確認すると、安心したかのように俺たちを迎え入れてくれた。


「昨日ぶりですね、オービスさん。もしかしたら来ないんじゃないかって内心ヒヤヒヤしていましたよ」

「あの手紙の主はあんたで間違いないんだな?」

「そうです。それにしてもすいません……本来ならこちらから伺うべきなんですが、色々事情がありまして」

「いいっていいって。大した距離じゃないんだから」


それに、援助してもらえるチャンスなんだから自分で掴みにいかないとな。

そんな言葉を胸にしまう。


「ピアさんも、ここに寄るのは久しぶりですね」

「数年ぶり位ですもんね。ギルドで顔を合わせるのであまり意識してませんでしたけど」


見る限り、二人は馴染みの仲のようだ。

ただ、幼少期からの幼馴染といった風には見えない。なんというか、一方的にパルサーが慕っているといった感じだ。


「ここで立ち話もなんですし、とりあえず入ってください」


中に入ると、薄れた活気が僅かに戻ってきた。

通された廊下の奥の方に、見覚えのある受付の裏側が覗いている。どうやらギルドの受付と事務所は直通のようだ。


その通路の途中にある応接間に案内されて気付いた。

大量の茶菓子と紅茶の用意もそうだが、驚くべきはその防音性だ。戸を閉めた瞬間、先程まで聞こえていた騒ぎ声が、微塵も耳に届かなくなる。

これだけで、この応接間が今までどういう用途に使われて来たかが伺える。そして、これから飛び出てくるであろう話がその類である事も。

用意された紅茶を口に運び一呼吸置くと、タイミングを見計らっていたのか、青年は話を切り出した。

「間」の気遣いの仕方に、親切心が滲み出ている。貴族的だと言ってもいい。


「お二人をお呼びした理由ですが、もう察されているでしょうがガーランドの件です」


まぁそうだろうな。

それ以外接点がない訳だし、そこまでは分かる。問題はその先。


「両親の仇を代わりに取ってくれ……って事でいいんだな?」

「はい、その通りです」


コミュニケーションを図るうえで最大のポイントである共通認識の確認。それが円滑に行われている事に、ピアが不思議そうに首を傾げた。


「あれ、私そこまで話しましたっけ」

「お前の知り合いに剣士がいることと、その家族の一人が受付の兄ちゃんって事と、両親がガーランドに殺されたって事までは聞いたからな。復讐なんだろうってのは普通に予想できるだろ」

「まあそうですけど」

「あっ、今気づいたけどまだあんたの名前聞いてなかったな……ってどうした表情」


受付の青年に向き直り名を尋ねると、青年がなかなかに表情を歪めていた。

あ、まずったか? 確かに両親の死の掘り返されていい気分の奴は、世界広しといえどもまずいないだろう。


「もしかしてこの話題ってタブーだったりする?」

「あ、心配しないでください。両親の事はもう吹っ切れているので」

「ならよかった」

「それと、名前を教えていませんでしたね。私はパルサー・ルール、ファインデリーズ領主の養子で、ご存知の通りギルドのマスターを務めております。お見知りおきを」


この若さでギルドの運営か……

ピアといいパルサーといい、この世界は労働基準法の尊重といった概念が足りてないらしい。この場の三人とも、恐らく同年代だろう。パルサーの場合、親を失ったという過去も一因のようだが、皆平等に学習の場が与えられないというのは、まぁ、悲しむべき事なのだろう。

才覚の埋没ほど勿体無いものは無い。

義務教育とは、本来なら学習能力に優劣をつけ「ふるい」にかける役割があるはずなのだが、その「目」が荒すぎでまるで役に立っていないではないか。

ピアだって、独学で魔導をものにしようとしていたくらいだ。環境さえ整えてやれば、その才能を開花させる可能性は十二分にあったはずなのに。実に勿体無い。


まぁ、この青年に限って言えばギルドマスターが天職なような気がしないでもないが。


「知っていると思うが、俺はレイド・オービスだ。よろしく」

「一人称、『俺』なんですね」


しまった。

ピアが指摘してくれないものだから、全く気にしていなかったけど、4.06の体で「俺」だとやはり違和感を与えるらしい。

いや、人のせいにするのはよくないな。うっかりしてたのは自分なのだから、今後改善しなければ。


「まぁ……家庭の事情でな」


とりあえずは茶を濁して流す。

これからはちゃんと気をつければ正体はバレないだろう。


「でも、オービスさんって雰囲気か男らしいですし、割としっくりきてますよ。案外本当に男だったりして」

「っ!」


図星をつかれて思わず咳込む。


「だっ、大丈夫ですか?! まさか飲み物が口に合わなかったとか……」

「大丈夫……ちょっとむせただけだから」


まじかお前。こうもあっさり核心に迫られると、流石に驚きを隠しきれない。

パルサー・ルール。どうにも勘がよくて、油断ならない奴だ。

ただ、気の遣い方といいなんといい、なんだかピアと話しているような気分になる。


「少し話が逸れてしまったので、一度戻しましょう。ガーランドの件です」


いけないいけない。

今日はパルサーから援助が貰える筈だ。話の道草食ってる場合じゃないな。


「いきなり突拍子もない事言ってしまい申し訳ございませんが、私の両親を殺したのは恐らくガーランドではないです」

「「はい?」」


ピアに、聞いていた話が違うぞと問いただそうと思ったが、ピアの様子を見るにどうやら初耳なのは俺だけではなかったようだ。となると、こいつは今まで胸の内に秘めていた事を、昨日あったばかりの俺に打ち明けようというのか?

これは、パルサーの意図を慎重に読み取る必要がありそうだ。そこまで怪しいというわけでは無いが、何かしらの罠の可能性を考慮から外すのは馬鹿のやることだし、なによりそんな話をいきなり打ち明ける不可解さが晴れていない。


「両親を殺したのがガーランドじゃないなら、一体だれだっていうんだ」

「それが……さっぱりわからないんです」


ますます怪しい。

俺はあれか? とびきりヤバい案件に首を突っ込まされようとしているのか?

例えるなら、やくざの殺人の敵討ちにされる可能性だ。この世界にやくざがあるのかは知らないが。


「……ガーランドじゃないと思う根拠は?」


とりあえず一つ探りを入れてみる。

メリット無しに人は動かないと俺は信じている。という事はこいつの暴露話には、何かしらの利がどこかで生まれる筈だ。だから腹を探る訳だが、あまり露骨なのも良くないことを考えると、妥協点はこのあたりだろう。


「それは―――――」


パルサー曰く、彼の両親は生まれたばかりの弟と、新しい家族の誕生で姉になったパルサーの妹を連れて、深夜の街を散歩していたという。その時たまたま通りかかったガーランドに家族を食い殺されたというのだ。

しかし、両親が食い殺されたとする現場に一切の血痕がなかったことや、モンスターが結界を超えたら警報が鳴るはずなのに、入ってきたときは鳴らないで出ていく時だけ鳴ったこと。同じく、出ていくところは見たが、入ってくるところを目撃していない見張り台の騎士隊。その他にも統合性の取れない事実や証言がいくつもあるという。

それが、彼の疑惑に火をつけたらしい。


聞けば確かに不自然な話ばかりだった。もし自分がその場にいたら、間違いなく証言したやつを順番に問いただすところだ。それをしなかったのは頭が悪いのか、もしくは人がいいのか。

後者であることを望んでいると、パルサーからそれに続く説明を受ける。


「本当に悔しい事に、私はその時期は帝都に経営学を学びに行っていて、ファインデリーズに居なかったんです。弟は私が帝都にいる間に生まれたので、悔しい限りです」

「それは辛かったな……」


両親に加え、顔も見る機会もなく弟まで失うとは、ずば抜けて酷な過去を持っているようだ。

不幸な身の上の青年を慰めていると、突然、黙っていたピアがいきなり口を割った。


「ちょっと待ってくださいパルサーさん! おかしいじゃないですかその話!!だって……ステラはまだ生きているのに……!!」

「…………」

「まさか……あの時引っ越したのって別に理由があるんじゃ……!」

「恐らく」

「恐らくって……」


急激に話が見えなくなり、とうとう俺は口をはさんだ。


「なんだなんだお前ら。一体何の話なんだ?」


突然現れた謎のキーワード「ステラ」。人物名であると思われるその名前だが、もちろん俺が知るわけもない。


「ステラっていうのは私の幼馴染なんです。私が林檎農家を始めるより昔の」

「その幼馴染と、この話になんの関係が…?」


俺と問うと、ステラはパルサーに一度目配せした。それが、「話してもいいんですか?」という意味を持っているのは容易に理解出来た。


「僕から言います。ステラは……あの事件の唯一の生き残りで、今ではたった一人の家族である私の妹なのです」

「妹……えっ、妹? たしかあんたの家族のもう一人は剣士っ……ちょ、待て、ピア!なにすんだ!」


確かに俺は聞いた。ピア曰く、ギルドの受付の青年とまだ見ぬ噂の剣士は家族だと。

そして、たった今飛び出てきたパルサーの「たった一人家族」という事実。

そして、自分と同年代ぐらいのパルサー。

つまり、俺達がいまから頼ろうとしているのは、年下の少女という訳だ。

しかし、冗談だろうと思いパルサーに確認しようとしたら……このザマだ。


口には何故か用意されていた茶菓子がピアの手によって大量に詰め込まれており、そこには空気の通り道すら存在しない。


「いやー、レイドさん全然食べてませんでしまもんね!ほら、せっかく用意して貰ったんだから食べてくださいな!」


理由もわからず口に押し込まれた茶菓子を、とりあえず紅茶で飲み込こもうとするが、どうやら話を聞きながら飲み終えて閉まっていたらしく、傾けたカップからは何も流れてこない。


「えっと、水かなにか持ってきます。少しお待ちください!」


水を取るためにパルサーは部屋を飛び出した。


「危なかったぁ。あっ、すいませんレイドさん。色々事情があって、その話はパルサーさんにはしないで欲しいんですよ。理由は後で話します」


事情……事情ね。他にやり方無かったのかと言いたい気分だが、口内の甘味に阻まれてそれは叶わない。パルサーが慌てて持って来た水で何とか窒息死を免れる。

情報が増えてきたので、話を仕切り直す。


「一旦まとめるけど、事件の概要はお前がファインデリーズにいない間に、両親と弟、そして妹が深夜の散歩中でガーランドと遭遇。その時、妹以外は命を落としたんだよな?」

「そうです」

「だけどあんたは、状況的にも怪しい話ばかりなのが原因で、家族の死は第三者の手によってのものじゃないかと疑っている訳だ」

「直接殺したとまではいかなくても、ガーランドを誰にも気づかせずに街まで手引きした者はいると踏んでいます。私は、その真相を知る為にオービスさんを呼んだのです」

「それはいいんだが、一つ気になることがあってな」

「何でしょうか?」

「いくら不可解なことがあったとしても、ガーランドの襲撃で生き残った妹とやらに聞けば一発じゃないか。何でわざわざ俺に頼む?」


事件をその場で見た肉親が存在するというなら、完全に信用を置けない筈の俺に依頼するより、誰よりも信頼出来る妹に聞くのが自然だ。


「もちろん私もそう考えましたし、何度も聞きました。けれどステラ……私の妹は何も語ってはくれませんでした。いつも帰ってくる答えは『お兄ちゃんは聞かない方がいい』の一言だけで、結局真相は分からず終いです。しかも、ある日突然引っ越すと言い出して、どこかへ消えてしまったんです。今もまだ消息不明でして……」


どういう事だ? 昨日の口ぶりだと、ピアはステラとやらの居場所を知っている風だった。こいつ、パルサーに隠してるのか?

ちらりとピアの様子を伺うと、パルサーに気づかれないように人差し指を唇に押し当てている。


後で問いただしてやるから覚悟しろよ?


「この書類をご覧ください、ギルドからの正式な依頼書です」


パルサーが机に滑らした書類を確認する。内容は、ガーランド襲撃事件の再調査となっており、報酬金額は一千万ソニー。注目すべき点は、百万ソニーの前金の存在だ。


「これはオービスさんが受注したものとは違って、私からの個人的な依頼となります。どうか極秘かつ慎重に、この依頼を遂行して頂けないでしょうか」

「一千万ソニーっつったらひと財産なんじゃないのか?」

「安心してください。もともとガーランドの依頼自体も帝国から報奨金が出ているので、『こんな金額じゃとてもじゃないが誰も受注しない』って脅したら前金の百万はともかく、残りの九百万は間違いなく追加で出してくれますよ」

「本当かよ」

「ガーランドは大陸資源であるインルタル大森林の面積を次々と減らしてしまっていますからね。帝国としても危機感の強い案件なんですよ」


爽やかイケメンフェイスの裏にあった、悪役感溢れる知略。でも、人間味に溢れてて嫌いではない。


「お主も悪よのう」

「?」


通じなかった。何言ってるんだこいつ、みたいな視線で見られた代わりに、滑りもウケもしなかった。ちっくしょう。これじゃ、日本のネタは大概使えないではないか。

恥ずかしいのも相まって、速攻で話をまとめる。


「よし分かった。パルサー・ルール、お前の依頼、確かに受け取った。ついでに妹も必ず見つけ出してやる」


ピアの体がびくりと跳ねたのは見逃さなかった。ガーランドの真相は分からなくても、妹の位置ならピアが知っているみたいだしな。受け得な話だ。


「しっかし本当にそんな依頼を俺に渡していいのか? もし真相を俺が突き止めちゃったら、この一千万の中から違約金を払って、ガーランド討伐を投げ出しちゃうかもしれないんだぜ?」

「大丈夫ですよ。それでもいいと考えていますので」


はっ、となった。この青年は、命がけの戦地に赴く俺の身を案じてくれているのだ。しかも、違約金を払った後でも、生活の基盤を作るまでの資金の用意まで考えてくれて。

最初に罠の可能性を考慮していた自分がバカみたいだ。こいつは純粋に心配してくれていただけだったというのに。


「あんた、いい奴だな」

「そうでしょうか」

「ああ、それでいてピアによく似てる」


俺は、事態には恵まれなくても、人には恵まれているらしい。

俺が躊躇いなく依頼書にサインをすると、パルサーから前金の100万を渡された。


「これが一応の活動費となります。では、依頼の成功を祈っております」


さすがギルドのマスターだ。こういった気前の良さが、活気あるギルドなどの雰囲気を支えているのかもしれない。

受け取った札束からは、パルサーの思いがこもっている気がした。託された、そう考えていいのだろう。


これでいよいよ退けないな。


右手の札束の重みを感じながら、俺はそんなことを考えたりもした。


最近忙しいので、来週末くらいまでに一話更新出来たらなと思っております。

もちろんそれ以降は今まで通りのペースに戻しますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ