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システムソフトウェアの日常譚  作者: ありぺい
第1章 「ガーランドと星の少女」
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そほモグラ





「あったあった、ここか」


ピアの案内の元たどり着いたのはにぎやかな街の、さらにその中心部。

木造の巨大施設の入り口上部には、大きく「ギルド・パーベル」と書かれた看板が掲げられており、周辺と比べても圧巻の存在感を放っていた。

目立つのは看板だけが理由ではない。基本的にレンガ造りの建造物が並ぶこの町で、このギルドだけが木造でできているのもその一因だろう。


全開で来客を待つ両開きの鉄扉には、ガタイのいい男たちや、ローブを身にまとう華奢な少女、さらには老人までが出入りしていた。彼ら彼女らに、これといった関連性は見られない。

圧倒的にガタイのいい男達の割合が多いが、まぁギルドだしな当然だろう。


「ここが、ファインデリーズ最大のギルドなのか?」

「そうですよ。ギルド・パーベルはファインデリーズ以外にも多くの支部を持つ、大陸最大のギルドです!」


大陸? いま大陸って言わなかったか?

大陸という言い方をするのは、大陸の外を知っている場合のみだ。

ということは、この大陸以外にも人のいる土地がある可能性がある。


街を歩いて分かったことだが、この町にはどうやら電気の概念がない。

生活水準を元の世界の時代で言い表したいところだが、生憎見てわかるほど俺には知識がなかった。ヨーロッパ系統の文化っぽいのは確かなのだが。

俺とPN4に間違いなく何かしらのつながりある以上、元の体に戻るのには、電気のある環境がもはや必須だといってもいい。

だからこの町に入ったときは少しがっかりしたのだが、その期待は大陸外へとシフトした。


おっと。すぐ目的から考えがそれるのは俺の悪い癖。とりあえずはギルドだ。

両開きのドアをくぐると、内部の熱狂した雰囲気に気圧された。


「す、すげぇ…」


内部の構造は依頼を受注する為であろうカウンター、そしてその依頼が貼ってある巨大な掲示板、そして横長のテーブルが並べられた酒場。

酔っ払うもの、飲みすぎで潰れるもの、いろんな奴らが皆いきいきと酒を流し込んでいた。

飲んでない者らは、掲示板を眺めながら依頼を吟味している。しかし、飲んでる奴が「なにを受けるんだー!?」などと声を掛けており、この雰囲気の一部に呑まれているようだった。

ギルドとしての目的を大幅に外れているように思えるこの酒場が、いい方向でこの場の雰囲気を作り上げていた。


――――――なるほど、これはよく出来ている。


ギルドの条件を達成すれば報酬が入る。つまり一時的な小金持ちだ。しかも、彼らは依頼を成功しての帰還で気も大きくなっている。自分へのご褒美に飲みたくなったり、仲間とパーっと騒ぎたいのは当然の事。命を懸けた肉体労働ならなおのことだ。

集客効果、集金能力、共に効率のいい商売方法だ。

そう思っていると、酒場のテーブルから一人の男が立ち上がり、カウンターで酒を受け取っていた。


あれっ、えっ……金払ってなくないか?

強奪……?! いや、そんな物騒な感じでもなさそうなんだが……


「なんであいつは何も払わないで酒を貰えてるんだ?」

「これがこのギルドが人気の理由ですよ。ここは手数料が物凄い高いギルドなんですけど、代わりに依頼成功者はここで自由に飲み食いできるんです」


なるほど便利だ。せっかく騒いでいるのに、いちいち金を要求して水を差すのも無粋だ。多くの人がここに集まって騒ぎたがるのも分かる気がする。素晴らしい気遣いだ。このギルドの設立者は、実に盛り上がる場の作り方について熟知しているらしい。

しかし、ここの奴ら全員が酒飲みか……変なのに絡まれないといいんだけど。


俺はそんな事を不安に思いながら、掲示板に貼り付けられた依頼に目を通した。

率直な感想は、「見にくい!」だった。

なんでこんな効率の悪い貼り方をしてるんだ? 頼まれたら空いてるスペースにペタペタ貼りたくっているとしか思えない。依頼の量も膨大なんだから、せめてソートとかするべきじゃないのか? 酒場で雰囲気を盛り上げる前に、ギルドとしての機能をもっと効率のいいものにすべきだ。このギルドの設立者は、整理といったものに無知だったのだろう。

まぁ見ない訳にもいかないから、俺も吟味の群に加わろうとしたその時、ピアに声を掛けられる。


「レイドさんレイドさん。私は少し用事があるのでここで選んでいてください。一時間程で戻ってきますので」

「えっ、戻ってきてくれるのか?」

「当たり前じゃないですか。だってレイドさん、住む場所のアテもないんでしょう?」

「まぁそうだけど……」


正直な話、ここまで助けてもらっているわけだからこれ以上はないと思っていたし、俺もそのつもりはなかった。労働に従事する少女から、身勝手な理由で時間を奪い、手を煩わせる事は果たして男として正しいのだろうかと考えるなら、絶対に違うと思う。

ピアの口ぶりだと、俺を自宅で寝泊まりさせてくれるつもりだったみたいだが、そこまでやっかいになる訳にはいかない。

しかし遠慮する姿勢を見せようとしたその時、ピアが不穏なことを言い始めた。


「街の外で野宿なんてしてたら間違いなく死にますし、街でホームレスなんてしてたら騎士隊にしょっぴかれますよ? それに……」


聞かれるとまずい話なのか、ピアはこっそり耳打ちしてくる。


「レイドさん、大陸外から来たんですよね? いまこの国は、大陸外への人に色々敏感なんです。ファインデリーズを知らないって事は密入国なんでしょうけど、バレたら地下牢は免れませんよ」


確かにそうだ。よく考えれば分かることだった。

パスポートなるものがあるのかないのかは知らないが、無許可で他国の土地に足を踏み入れているというのが俺の現状だ。捕まって事情を話せば間違いなく狂人扱い、それだけならまだマシだが、信じてもらえなくてそのまま牢暮らしなんて事態も視野の外には置いておけない。

でも、もっと問題なのは………


「ピア……それってお前が負わなくていいリスクを負ってるってことなんじゃないのか……?」


俺を匿っているなんてバレたらタダじゃ済まないだろう。

ハッピーセットでイントゥープリズンじゃ流石に報われない。


「困った時はお互い様ですよっ。いつか私の事も助けてくださいね。それと、受注する時は私の紹介って言えば身分証明がいらないですよ!」


そう言ってピアは、用事とやらを済ませる為にギルドを後にした。


――――――俺がかっこよくてタイプだなんてなんの冗談だよ、お前の方が百倍かっこいいじゃねぇか。


思わずうるっときたが、涙ぐんでいる場合じゃない。

ピアの優しさを無駄にしないためにも、俺はぱっぱと稼いで迷惑を掛けないようにしなきゃいけねぇんだ。


それから俺はしばらく吟味を続けた。

3枚ある巨大掲示板の内の1枚を見終わった時、俺はここに集められる依頼が大体三種類に分けられることを知った。


一つ目は「討伐系」。説明の必要性すらないだろう、駆逐対象のモンスターを討伐することで条件達成となる。


二つ目は「調査・捜索系」だ。

本来ならペットの捜索などが主になるはずのこの分類だが、ピアから聞いた通り簡単な案件は帝国とやらに回収されているようで、ここに残っているのはどれも難易度の高そうなものばかり。

例えば、「洞窟コウモリの生態調査」とか「殺人熊の捜索」などの依頼が多い。

「ツチノコ捜索」などという依頼に大金がかけられているのには閉口した。やっぱりどこの世界にも夢追い馬鹿はいるんだな。


三つ目は「特殊系」となっている。

モンスターは一切関係なく、「要人の護衛」とか「借金の取り立て」なんてものまで様々だ。例の如く難易度は非常に高そうなものばかり揃っている。


どれを選ぶかが重要になりそうだな……

特殊系は比較的対人要素が強くなっているみたいで、トラブル待ったなしなのは目に見えている。新しい世界で、将来に禍根を残すような真似はしたくない。

となると必然的に選ぶのは「調査・捜索系」か「討伐系」のどちらかだが、いかんせん数が多すぎるので簡単には選ぶ事ができない。


小一時間うんうん唸って手に取ったのは「赭土竜討伐」という討伐系。

モグラなら、どんなに強めに見積もっても数人くらいギルドの誰かを雇えばなんとかなるだろう。あそこの酒場の飲んだくれ数人を雇ってみてもいい。

分け前を割らなきゃいけないのは痛いが、何故かこのモグラ討伐だけは、ほかと比べても破格の報酬金が設定されている。なかなか人前には現れない珍しいモグラなのだろう。


さっそく受注したいところだが、やり方がよく分からない。ピアのさっきの話もあるし、あまり世間知らず感を漂わせるのも不味いから誰かに聞くわけにもいかない。

辺りを観察していると、ローブを着た少年が掲示板から依頼紙をもぎ取り、カウンターに持って行っていった。

なるほどなるほど、そうすればいいのか。

俺も真似して「赭土竜討伐」の依頼を掲示板からちぎり取り、カウンターへ運ぶ。


「これを受注したいんだが」

「身分を証明するものはございますか?」


俺がそういうと、爽やかな受付のお兄さんが出迎えてくれた。明るい雰囲気の好青年だ。

要求されたのは、身分の証明。大丈夫だとは聞かされているが、心臓が大きく波打ってるのがわかる。


「ピア・ルーブルムの紹介だ。名は、レイド・オービスという」

「ピア様の………かしこまりました。依頼状を発行させていただきます」


ピアすげぇ。齢20に満たない少女の名前に、ここまで効力があるとは思わなかった。

リンゴ農家は表向きで、実は貴族の秘蔵っ子です、とか? なんにせよ、こうなるとピアの正体が気になってくる。

しかし、事態はよろしくない雰囲気を醸し出してくる。

依頼紙を受付のお兄さんに渡すと、その表情に雲がかかったのだ。目線を、俺の顔と依頼紙で三往復させてから、その瞳を疑惑の色で塗り替えた。この好青年は、感情を隠すのが得意でないようだ。

彼の表情に心当たりがないかといったら、ある。

おそらく、俺の正体に対する疑惑だろう。ピアの紹介とはいえ、この街で見かけたこともない奴が紹介だけで依頼を受けようとしたら、疑うのは当然だ。


だが、悪いな青年。

こっちも受注しないわけにはいかないんだ。


「すまない、急いでるんだが」


俺の顔には、手際の悪い受付に対する不満をあらわにした4.06の表情が写っていることだろう。

精神的プレッシャーを与え、判断ミスを誘発するという高等テクニック。そしてそれは怖いくらいに上手くいった。


「もっ、申し訳ございません!」


青年は慌てて依頼紙に印を押し、俺に渡してきた。

内心ホッとしながらそれを受け取ると、先程俺に受注の仕方を真似された少年が、全身で驚愕を体現していた。


「お姉さん……っ! まさか、それを受注するつもりじゃないですよね……?」

「つもりも何も、もう正式に受け取っちゃったぜ?」

「じょじょじょ、冗談でしょう……!? ガーランドに挑戦したものは誰一人として生きて帰ってはいないのに…………!!!!」


ガーランド? お姉さん? 何をいってるんだこの餓鬼は。

………いや、お姉さんは間違ってないのか。少なくとも表面上は。

だけどもう一方は、ちんぷんかんぷん過ぎて全く理解が及ばない。

しかし、少年の絶叫を聞いたギルドの人々の間には、ただならぬ空気が流れ出した。例えるならそれは、狼狽。酒飲みの群衆が、例外なく騒めきだす。

なんだなんだ。なんかおかしなことになってきたな。

流れ的に、こいつの通称が「ガーランド」だというのは理解した。しかしこいつを追ったやつ皆音信不通だって? みんなまだ発見できずに探してるだけなんじゃないのか?

俺の困惑をよそに、さっきまで酒を飲んでいたおっさんの一人が駆け寄ってくる。


「嬢ちゃんそれは本当か!?」

「こいつの渾名がガーランドなら、多分本当だけど」

「正気か!?」

「おうおう、見ろよこの澄み切った目を。気が触れた人間の目じゃないだろ?」


まあこれ他人の目なんだけどね。そんな言葉は胸にしまった。


「だとしたら異常だ! 死にたいとしか思えない!」

「おっさん、こっちにゃ何のことかさっぱりなんだ。教えてくれる気があるなら、ちゃんと教えてくれ」

 

言い終わって俺は自分の失言に気づいた。

馬鹿か俺は! ついさっき無知を悟られないようにって警戒したばっかじゃねぇか!

しかし、目の前のおっさんは俺の発言のおかしさに言及するほどの余裕がなかったらしい。


「赭土竜、通称ガーランド・ドラゴンってのは、荒野に住み着く―――――」

「たんまたんま。ちょっと待てよおっさん」


俺は両手で「待て」のジェスチャーをして話を遮る。

今とんでもないこと言ったぞこいつ。ドラゴン? ドラゴンだって!?

えっ、これって赭土竜って書いて「そほモグラ」って読むんじゃないのか!?


「いちおう聞く。これ、なんて読む?」

「「「しゃどりゅう」」」


答えたのは受付の青年、さっきの少年、そしておっさんの三人だ。

落ち着け俺。 こういう時に一番回避しなきゃいけない事態は、わめき散らして説得のチャンスを失うことだ。俺は冷静に受付のお兄さんに尋ねた。


「じゅ、受注破棄ってできますかね?」

「その……大変申し訳ないのですが、一度受注してしまわれると解約にはいっ……違約金がですねその、報酬金額の一割ほど発生してしまうといいますか…………」


自分の顔から血が引いていくのを感じた。

バッと依頼紙を確認する。報酬は三千万ソニーと書かれているから、違約金は三百万ソニーか。そもそも、ソニーというのが通貨の単位だといまさら知っている時点で、自分の調査不足&慎重さの欠如がうかがえる。

三百万…………か。

この世界のモノの相場を知らないから、これが果たしてどれくらいの価値を持つものなのか知らないが、この国がハイパーインフレ国家でもない限り、三百万というのは相当な大金だろう。でもものは試しにと聞いてみる。


「なぁ少年とおっさん。三百万ソニーあったら何したい? 試しに三百万で収まる範囲で言ってみ?」

「僕は大量の魔導書と、本を読む時間を邪魔されない為に家を買って、かつ数年は魔道学に励みたいですね」

「俺は馬数十頭と、そいつらを育てる土地を買って、運商業に手を出したいかな」


二人の部外者の夢を聞かされ、心のどこかでやっぱりなぁと思いながらも、仰天した。

そんな金、あるわけない。

しかし、見た目が4.06とはいえ中身は男なんだ、見栄の一つや二つ張ってしまう。


「ま、まぁ、なんとかなるだろ」


ギルド内で歓声が上がる。すげぇとか、やべぇなどが絶え間なく聞こえてくる。

「姉ちゃん頑張れよ!」なんて声も上がるが、頑張ってなんとかなる敵なのか、これ?


「嬢ちゃんは何者なんだ?」

「何者って程でもないけど、今までシステムソフトウェアやってたかな」

「システムソフトウェア…………聞かない職業だけどなんか凄そうだな!」


馬鹿かお前は!聞いたこともない単語に、語感だけでイメージ持つなよ。

赭土竜を、語感だけでモグラだと思ってた俺も人の事言えた立場じゃないが、少なくともこっちは文字通り読んではいた。読み違えはあったのだが。


「ガーランド討伐の暁には、嬢ちゃんの為に盛大に宴会でも開いてやるよ!」

「帝国内でも、最高度の危険度を誇るモンスターに、こんな女の子が挑むのか…………」

「戦う前にも気合い入れなきゃダメだろ、今から飲んでくか、嬢ちゃん?」


おいどうすんだよこれ。収集つかなくなっちゃったじゃねぇか!

酒飲み軍団は、あちらこちらで盛り上がっているせいか、それとも単純に人がいいのか、全く俺の事を疑おうとしない。


俺が内心あたふたしていると、ギルドの入口に唯一見知った姿が表れる。


「なんの騒ぎですか、レイドさん」

「ピッ、ピアァァ……」


年端もいかない少女が、救いの女神に見えた気がした。


「ピアさん、この嬢ちゃんがガーランド討伐するんだってよ!」


酒飲み軍団の中の誰かが、ピアに叫んだ。

一瞬で事情を察したのか、何か納得したような表情になるピア。


「レイドさん、一旦ギルドを出ましょうか」


ピアに手を引かれ、俺は熱狂のギルドを後にした。




やっと書きたい所まで書けた……!

とりあえず章題のガーランドまでは回収できたから、後は星の少女だけですね。ピアは星の少女ではないので、そこら辺はよろしくお願いします。


次話も見てくれると嬉しいです!

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