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システムソフトウェアの日常譚  作者: ありぺい
第1章 「ガーランドと星の少女」
10/14

楽しい旅になりそうだ


ファインデリーズからインルタル大森林に向かうならば、一も二もなく皆馬車を選ぶ。魔導車という方法もあるのだが、コストパフォーマンスが抜群に悪いのだ。

よって、ファインデリーズの馬車乗りに依頼を飛ばすわけだが……


「30万ソニーだ。こっからはまけねぇ」

「相場の1・5倍は強欲すぎるんじゃないのか?」

「運び屋は人手不足に馬不足。嬢ちゃんが30出してくれれば、俺の手持ちも合わせて馬が買える。悲しいことに、この前一匹ぽっくり逝っちまってよ、今は一匹しか居ねぇんだ。馬車は馬一匹じゃひけねぇからな」


そうごねるのは、自称フリーで世界一の運び屋こと、スタット・ラインという男だ。

街の公的なアシが丁度予約で埋まっていたため、こうしてフリーの馬乗りを探しているわけだが、フリーはどこも基本吹っ掛けてくる。この男はまだましな方で、数分前に声をかけた奴は60万ソニーを要求してきた。

だが、手持ちが足りないけど馬を買いたいという状況は利用できる。


「その馬は幾らくらいなんだ?」

「きっかり50万ソニー。そう聞いている」


実は俺たち、乗る立場として大きな「ハンデ」を抱えている。果たしてどこの世界に、ガーランドのような殺人竜の住処まで馬車を引きたい者がいるというのか。インルタル大森林の中心部に発生した荒野と言えば、「死地」とまで称される程だ。これに気づかれると、足元を見られて100万ソニー位は軽く吹っかけられかねない。

しかし、手持ちギリギリというスタットの懐事情は、そんな問題を簡単にクリアしてくれた。


「ちっ、しょうがねえ。30で乗ってやるから早く馬を出せ」

「毎度あり。じゃあ、馬を買ってくるから少し待ってろ。大丈夫、結構前から話をつけてた馬だ、時間はかからねぇ」


スタット・ラインは渡した30万を握りしめて、どこかへと駆けていった。

これで、パルサー・ルールから受け取った前金の三割は使ってしまった。今後何があるか分からないことを考えると、痛い出費だ。

しばらくすると、スタット・ラインは馬屋から毛並みのいい白馬を連れて戻ってきた。


「ふっふっふ、世紀のお買い得馬だぜ。まさかたったの50万ぽっちでこんないい馬買えるとはよ。これからよろしくな白鳥丸」


スタットの言葉を理解するのに一瞬時間を要したが、それが馬への命名だと気づき心底同情した。

名付け親が馬鹿なことほど悲しいことはない。

馬への同情と、吹っ掛けられた金額への不満は、俺の中で嫌悪となってスタットへ向けられた。


「ピア、荷物は持ったか?」

「完璧ですっ!」

「よし、行くか」


俺は荷を馬車に投げた。重い音が、これからの旅の長さを物語る。

向かう先は、ピアの幼馴染「ステラ」の住むインルタル大森林と、森林の中心部にいるというガーランド・ドラゴンの元だ。過去に起きた事件の真相を突き止め、ガーランドを討伐する。それがこの旅の目的である。


「あれ、魔導書は持っていかないんですか?」

「ピアの家にあったやつなら、昨日のうちに丸暗記したよ。なんだったらまた指定ページ読み上げてみせようか?」

「レイドさんって、なんかずるいですよねぇ」

「同感」


自分の口から品のない笑いが漏れるのを、嫌とも思わず俺は言った。

スライム討伐の時は、俺の事前調査の甘さでピアに危険な目に合わせてしまった。あんな目には二度と会わないよう、今回は準備に準備を重ねて挑んでいるのだ。魔導書を全て頭に叩き込み、様々な状況に対応できるようにいくつかの術式も用意している。軽口を叩きつつも、覚悟は固かった。


馬車を引く二匹の馬を操るのは、先ほどのスタット・ラインという男だ。運ぶのが仕事なこの男は、初対面は不機嫌なオーラを放っていたが、馬を連れて来てからは態度が一転した。


「嬢ちゃんら、駄弁ってんのは構わないが、俺の仕事はお前らを送り届けて、ファインデリーズまで連れ戻すことだ。お前らの帰還が一日遅れれば、俺の仕事できる日も一日減るんだ。そのへん分かってくれよ?」


目に見えて笑顔の上機嫌なのに、呼吸をするように嫌味を飛ばせるというのは何ともひねくれた野郎である。

元の世界なら、こんなタクシードライバーがいたら一発でクビだろう、間違いない。しかし、この世界では危険な道中を運んでくれる命知らずが少ない分、客には困らないのだろう。

サービス精神や丁寧な対応は、需要と供給が釣り合っているものでないと育たないと、俺は一つ賢くなった。もっとも、この町の風土も関係しているのだろうが。


「それならとびきり早くインルタル大森林に向かってくれよ、スタット・ライン。馬車の到着が一日遅れれば、こっちの仕事できる時間も一日減るんだ」

「言うじゃねぇかクソアマ」


こいつは俺と似ている、直感的にそう感じた。多分、向こうも同じ気持ちだろう。


それにしたって、女扱いされるのはどうも慣れない。スライムまみれのスーツの代わりにピアが用意してくれたのは、紺のロングスカートに民族衣装のような羽織もの。これで男として見ろというほうが無理な話なのは理解できるのだが、それでもむず痒さは健在だ。


馬車がガタゴト音を立てて走り出す。

町がだんだん小さくなっていく様を見つめていると、これからガーランドを狩るのだという現実を改めて意識してしまう。

ピアは真面目なのか、食い入るように魔導書とにらめっこしている。

邪魔になってはいけないとしばらく黙っていたのだが、スタットは沈黙が我慢できなかったようで、適当に話題を振ってきた。


「詮索は好きじゃねぇから質問はしねぇが、嬢ちゃんらも物好きだな。ガーランドの荒野まで女二人運ぶなんて依頼、この仕事続けて長いがこんな案件久しぶりだ」

「そうなんですか?」

「護衛なしって条件付ければ、女だけでインルタルに向かう奴なんて五年ぶりだぜ」

「その時もスタットさんが運んだんですか?」

「おうよ。なんせ、インルタル大森林といえばモンスターの巣窟みたいな場所だ。ビビって俺以外は尻込みしちまったのさ。はっはっは!!」


五年前にインルタル大森林に向かった女というのは、恐らくステラの可能性が高い。

そんな風に、黙って外を見て考察する俺とは対照的に、スタット・ラインはピアと談笑を広げている。スタットは、自分の武勇伝をピアに語って聞かせていた。こいつはどうも小物臭い、そう思った。


それに、ピアがいろんな奴に気に入られやすいのは分かるが、こいつの俺へ態度との差は気に入らない。日本人(ジャパニーズ)労働(ワーキング)精神(スピリチュアル)でも叩き込んでやろうか本気で迷った程だ。

癪に触ったので、俺は嫌味の借りをお返しした。


「荒野も森林もあぶねぇから気をつけな、ピアちゃん」

「おいスタット・ライン。対応の差が開きすぎなんじゃないのか? 呼び方が因泥の差だぞ。ついでにピアには身の心配なんておまけ付きかよ」

「妬いてんのか? こんな健気な子と、女っ気のかけらもないお前の対応が一緒なわけないだろ。ま、心配ぐらいならしてやるよ。俺は葬儀屋じゃないから死体を持って帰るのは御免だしな。せいぜいガーランドとは出会わないこった」

「残念だったな、行き先はそのガーランドだ。ちゃんと送り届けてくれよ?」

「ちょっ、待てよ!!」


スタットは手綱を強く引き、馬の足を止めた。


「おい! まさか街で噂になってた、ガーランドに挑む貧乳娘ってお前のことか!?」

「だれが貧乳娘だ、ぶっ殺すぞ」

「冗談じゃない。俺は降りるぜ」

「なら返金してくれよ。なんだったら馬で払ってくれてもいいんだぞ?」

「こんの性悪女め……!」


事前に、ガーランドへ向かうなんて事を話したら、まず断られる。だからこいつに依頼したのだ。嫌になっても降りられないように、馬を買うというこいつの状況をそのまま利用したのだ。返す金が無ければ、仕事は決して降りられない。

客としての「ハンデ」は、相手が回避できない状況を作り出すことによって解決した。


「レイドさん考えましたね」

「まあな。こっちもただで吹っ掛けられたわけじゃないのさ」


目を合わせてニッと笑う俺とピア。対するスタットは、苦虫を口いっぱいに噛み潰したような表情だ。

フリーで仕事を請け負う人間というのは、面子が潰れては飯にありつけない。今のような金を受け取った且つ返金不可の場合、足元を見返されたとしても大人しく観念するしかないのだ。

俺としては、溜飲が下がって悪い気はしない。


しかし、「貧乳女」等と不名誉な呼び方をされているのは気になる。そんなクソみたいな呼称を付けた野郎は、馬に蹴られて死んでしまえ。俺はそう、心の中で毒づいた。


「あー、面白すぎるぜテメー。名前は?」

「ガーランドの噂と一緒に聞かなかったのか? レイド・オービスだ。覚えておけ」

「レイド…………レイド・オービスね。ははっ、覚えたぜ。楽しい旅になりそうだ!」


スタット・ラインは上機嫌だった。


新キャラ出すと把握に苦労するからできるだけ少数精鋭でいきたいのに、人増やさないと話が進まないジレンマ。


一章で予定してるのはあと三名~五名です。


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