血塗られた勇者
「ここは?」
気がついたら知らない場所にいた。そこは凄く臭かった。周囲には動物の臓器が落っこちていたり、人間の死体もあった。石畳の部屋で、蝋燭の明かりしかなく、血の池が足下にあった。上を見ると、今の場所が井戸の底のようであることに気づいた。
あるいは、デカイ塔の底か。どっちにしても、階段がなく、脱出ができない。井戸の底から十メートル上の壁に鉄格子が付いており、その奥には通路があった。あそこから上手く外に出られるかもしれない。そのためには壁をよじ登らなくてはならない。
突然、鉄格子の奥から足音が聞こえてきた。
「ひっ」
叫ぼうにも、声がでなかった。とにかく、相手の外見が恐ろしかったのだ。
「今回も失敗のようだ。」
「ゴミのような魔力の数値、貧そうな体、どれを取っても魔王様は満足せぬわ。」
「廃棄処分だな。」
ふと上を見るとゴブリンとエルフとオークが鉄格子越しにこちらを見ていた。真ん中のエルフは目鼻立ちが整っていてイケメンであったが、目付きが鋭く、悪人面であった。ゴブリンとオークは豚みたいな顔をした緑色の化け物だった。
「廃棄?」
まさか、この私が?
「うん、あれ要らないね。」
「クソ不味そう。」
「生理的に無理」
オークに生理的に無理とか言われた。ひどいや。
「次の勇者をまた召還しよう。勇者は俺たちが召還するのだ。」
「勿論、王国に先を越される前に抹殺する。」
「勇者が現れた直後に即死刑。八つ裂きやな。」
顔だけでなく内容も物騒だ。ここは、どこなの?なんなの?
「誰が、殺る?」
「お前が行け、俺は忙しい。」
「生理的に無理。」
エリートの私がこんな雑魚に殺されるなんて、あり得るの?
あんないかにも雑魚な相手に私が……
「じゃ、これ以上あれは見てられないから、俺が処理するよ。」
「ああ、頼んだ。」
「時間をかけるなよ。次の召還にすぐに取りかかる必要があるからな。」
豚野郎が鉄格子をこじ開け、中に入ってきた。
内心では実は焦っている。チュートリアルが欲しい。
「オークパンチ」
オークが一瞬で間合いを詰めて、殴ってきた。私の優れた動体視力でも動きを捉えられなかった。
拳は私の腹に叩き込まれ、そして突き破り、腹に風穴を開けた。
(嘘でしょ?何で私は……)
あまりの痛みで痛覚が麻痺しているようだ。もう何も分からない。
「おし、止めを刺すか、じゃあね。オークスタンプ」
オークの重量たっぷりの足で私は頭を砕かれて、完全に沈黙した。
「はい、終了―」
「グッジョブ。次の召還に取りかかるから戻れ。」
「おうよ。次はもっとマシなのが来るといいな。」
そこで私の意識は途切れ、私は血の池の中に消えた……
次に意識が戻ったのは何日後であるだろうか。目覚めたら血の池の中に私はいた。体は動かない。何も見えない。
分かっているのはその後も何人もの異世界人や動物が召還されては処分されていったことだ。私は血の池の中で自我を保ったまま魔族への復讐の機会を待った。
無惨に殺された人々の怨念と血肉が私に力を与える。私は自らの肉体こそ死んだが、この池の中で新たな自分が形作られているのが分かった。
魔王ごとき、私が必ず殺す。理不尽に殺された生け贄たちの怒りが私に集まってくる。
これが、死にきれなかった私に与えられた宿命だ。
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