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9/10

黒い娘と白の苦悩 始終譚 その9/10

挿絵(By みてみん)


「それをどうするかは、あなた次第よ。有効にお使いなさい……」


「ああ、ありがとう。本当にあなたは悪魔だったんだな。もっと、願いを叶える……」


 あら、欲が出来てきたわね。


「残念だけど、もう願いは叶えたでしょう。そろそろ御暇おいとまするわね」


 夜も……あら、もう早朝の時間ね。帰らなくちゃ。

 しばらくしたら、また忙しくなるだろうから……


 思考の呟きに、白からの疑問が再び届く。


**


『忙しくですかー。えっと、なんでですか? もう終わったのですよねー』


『ええ、次は舞華さんよ。きっと、心からの後悔と懺悔(ざんげ)、憤怒が起こるでしょう……』


 きっと、心からの願いが生まれるわよ。


『へっ……? なんでですかー』


『舞華さんの仕事だけど、実は夜のお(キャバクラ)でのお勤めは、旦那さんに内緒なの。24時間の工場事務として、夜間の勤務をしてることになっているから……』


 おそらく、今回の一件で破綻するでしょうね。

 そのときどうなるか? うふふ。楽しみだわ。


『どいつもこいつもー。ろくでなしですー』


『さあ、もう念話はおしまいよ。願うわ……』


 **


「白、帰るわよ。それは有効に使いなさい……」


 自身の魂を、半分使って引き換えにした。

 二枚の書類(じゅみょう)をね……


 白は、自分で淹れたコーヒーを一気に飲み干してから横に並ぶ。


「はいくろさまー。お待たせしました。おまえ、がんばれよー。いいことあればいいな……」


 やはり男性は白を恐れているのか、目を合わせない。

 顔も上げなかった。返事もしなかった。

 もう恐怖を乗り越えたサービスタイムは終了ね。


 私も振り返ることなく、男性の自宅を後にする。

 そして、来た道を逆に歩き始めた。


「ふう、何とかなったわね。結果をみると白の努力が大きかったわね……」


 良いかどうかの判断は別として、結果だけをみればね。


「そうですよー。感謝してくださいねー。そして、ついに念願の魂を得ましたねー」


「そうね。でも、あなたがドアを叩いて、貞操でもなんでも捧げる発言には笑ったわ」


「うげぇ。そこは、忘れてくださいよぉ……」


 ああ、面白いわね。真っ赤になって。ふふ……


「それよりくろさまぁー。無事に魂も得たことですしー。白の見た目をそろそろ固定し……」


「何の話かしら? それより……」


 時間切れね。

 そう考えた瞬間、白の変身時間が切れる。

 まばゆい光を伴い、徐々に小さくなっていった。


 変化が完全に収まったとき横に並んでいるのは、いつも通りの白い猫だった。


「ナシテェー。もどってますー!? くろさまぁ?」


「仕方がないわよ。ほら白、見てごらんなさい、もうすぐ朝日が出るわよ……」


 ああ、まるで明るい未来を示唆しているようね。


「ちょっとぉくろさまー。一晩中あの状態じゃ!?」


「もう夜明けなのよ、願いも切れたわ」


正味(しょうみ)三時間(さんじかん)ぐらいだったー!?」


 うるさいわね。別にその姿でも、さほど困らないでしょう。


「さあ、帰るわよ。朝ごはんは何かしら?」


「ふう、わかりました……いつも通り和食でいいですよねー。ご飯は昨日の残りを温めますので……それと、食後にもう一度術をかけて、今度はちゃんと大人でずっと過ごせるよう……」


「嫌よ。だって、まだこれから舞華さんの事があるのよ、ちゃんと節約しておかないとだめじゃない」


「だって、出掛ける前にくろさまは……」


「約束なんてしてないわよ」


「へっ!? だって、あの時……今はこれ以上……はぁぁ。言ってませんでした。白が勝手に言ってただけですね……ううっ」


 なんだかかわいそうね。

 ずっと変身したままなのは、さすがに存在力の消耗が激しいけど、せめて……


「願うわ……」


「……? くろさま、何かいいましたかー?」


「別に何もいってないわよ。それより早く帰りましょう。あなたは今日もお勤めがあるでしょう?」


「はい……朝八時からですー。ご飯の用意を終えたら、出掛けますねー。白のいない間に部屋を散らかさないでくださいねー。それと、おやつは冷蔵庫の中にプリンが用意してありますので、それを食べてくださいね。帰宅は晩御飯の買い出しをしてきますので、だいたい四時ぐらいですー」


「そうなの、プリンね……」


 大好物よ。うふふ。

 それに存在力もこれでしばらくは持つわね。次の目星も立ったし、今回は上々ね。


「くろさま。じゃあ先に帰ってますのでー。ゆっくりでいいですよ」


 白はそう言って横の草むらに飛び込んだ。きっと近道なのだろう。

 私には無理ね。サイズ的に……普通に歩くわ。


 今回最後の願いは、白の変身時間の延長。

 それは、一時間の縛りを二時間にしただけ。


 これで職場での頻尿娘の汚名が少し晴れればいいわね。

 毎回トイレに籠ってばっかりじゃ、かわいそうだから。頑張った報酬ね。うふふ。



 こうして、黒い悪魔の娘は魂を得る。

 そして、長くあっという間の夜は、完全に終わりを迎えた。

 

 蒼くうすぼんやりとした世界に、赤い朝日が射し込んできて景色を一変させる。

 徐々に人々の活動時間を迎え、動き始める気配がする。

 

 それを横目に眺めながら、くろは独り歩く。

 使い魔の白が待つ、小さいながらも快適で、トタン壁の一部屋しかない彼女達の棲む城に。


 エピソードに続く。

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