黒い娘と白の苦悩 始終譚 その3/10
「おおっ!! キタキタぁー。白の願いは叶えられ、主人くろさまの望を達成するー」
光に包まれた白の叫びが終わる頃。
小さな猫の姿は、徐々に肥大化する。
明るさが薄れると、そこに立つのは一人の少女。
大きな目に、金色を含んだ白く極め細やかな細い髪が流れる。
そして、猫耳が頭部に二つ。これはサービスよ。
顔の造形は十代前半かしら。
白いスーツ姿は背伸びした高校生……?
いや、これはせいぜい中学生ね。一年生かしら? うふふ。
「なっなんでぇー!? ちょっとくろさま、若すぎますよ。それに、なんですかぁこの耳はぁー!!」
「これ以上は無理よ。要望は全部入っているでしょう?」
彼女が想像する変身後は、成人女性のビジネスウーマンだったようだ。
でも……実はわかっていたのよ。
その辺は悪魔だけに悪意を込めたの。
ぷっ、可愛いわね。
「そんなぁー。白の威厳が……これじゃハッタリが効かないじゃないですかぁ……」
そんな事を考えていたの……
そこまではわからなかったわ。アホらしい。
「年齢まで変える余力は、今の私にないのよ。諦めなさい」
嘘だけど……
しょんぼりする白は、下を向き独り言を呟きはじめる。
その姿を見て少しスッキリした。
さあ、行きましょう。
「そんなに嫌なら、そのまま家に居なさい。出掛けてくるわね」
「いえー、もういいですよ。行きます。これがくろさまの精一杯ですからね。仕方がありませんよ。次です、つぎのチャンスですー」
なんだかムカつくわね。
でも仕方がない。すでに無駄な力の行使をしてしまったわ。
使った力は戻らないので諦めましょう。
部屋中のタップ式節電コンセントで電気を消す。
最後に戸締まりを行って、再び外に出る。
「夜風が気持ち良いわね。今晩は上手くいきそうな気がするわ」
「絶対に手に入れましょー。そして、こんなチンチクリンの変な姿じゃなくて、立派な女性の姿を手に入れましょうー」
あなたのためじゃないのよ?
それに魂を得ても、白の容姿を変えるつもりはないわよ。
でも勝手に勘違いしているのは彼女だから、あえて訂正もしないけど。
気合いを入れている自分の使い魔を横目に、やっと見つけた心からの願いを持つ人物の元に向かう。
「くろさまー、飛ばれないのですか? 早く行かないと横取りされませんかー」
「歩くのは嫌いなの? 理由は……そう、万が一のために節約よ」
「だからぁー!? なんで、失敗することを前提にしてるんですかぁー。かっさらうぐらいの気持ちを持ちましょー」
本当に面倒だわ。
どうせダメだった方が多いのだから、無駄に存在力を使って枯渇したら困るじゃないの。でもどうせ言っても聞かないでしょう。
もう無視よ。
「……」
「聞いてるんですかー。くろさまー」
大きくなって猫より声量が上がったわ。
次はネズミにしましょう。喋らない方が良いわね。
「絶対に変なこと考えていますよねー。目が怖いですー」
騒々しい使い魔と共に、目的地に向かい二つの影は進む。
やがて一棟の大型マンション前で立ち止まり、上部階層を見上げる。
「くろさまー。ここですか? 今回の契約者は凄いところに住んでますねー」
「ええ、そうね。彼が住んでるのは、ここの1506号室よ」
「よくわかりますねー。追跡していたなんてやるじゃないですかー。見直しましたよー」
なんで自分の使い魔に、私は見直されているのかしら?
しかも、微妙に上から目線で気に入らないわね。
でも、私は心の広い悪魔だから許してあげる。
使い魔の無礼なんて気にしないわよ。それが大人ですから。
根拠を答えてあげる。
「別にたいしたことじゃないわ。そう悪魔の勘……」
「信憑性も、なんにも無いですー。悪魔の勘? ちゃんと追跡して確認したのじゃないですか?」
むかっ!?
「ええ……必要ないのよ。悪魔ですから。このぐらい当然なの」
「……えっと、本気で言ってるんですかー?」
「……」
もういいわ。さっさと行くわよ。
こうして、二人はマンションの正面玄関に向かう。