第一話:不条理と理不尽
ウザいです。腹立ちます。くどいです。不定期更新です。ルビが変かも・・・
登場人物
男
女(木之本木葉)
男(水瀬雫)
女の母(木之本葉月)
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―――話をしよう。
【「世界は不条理で、理不尽だ」と誰もがきっと、一度は耳にしたことがある話だ。実際にそう思っている人もきっと少なくない。そして、それはその通りで世界は不条理と理不尽で構成されているのだろう。しかし、よく考えてみてほしい。その世界を作っているのは誰なのだろうか。この国の政治家?某国の大統領?はたまた世界を裏で牛耳る裏社会の首領?まぁ、誰がそのような世界にしているのかはこの際、どうでもいい。
重要なことはむしろこの先。ではなぜ、その人はそのような世界を構築しているのかということだ。そのような不条理があった方がその人が儲けられるからだろうか。たしかに、世界に存在する人、もの、金がある程度決まっている今の世の中では、誰かが不条理や理不尽によって損をするということはその分の得を誰かがしているということになる。そして、そのような世界を構築している人間だ。そのことによって多少なりとも得するシステムを構築しているに違いない。
だがしかし、考えてみてほしい。世界を操る力を持った人間がいまさら何のために金を欲するのだろうか。己の地位を盤石のものにするため?
答えは否だ。
そのようなことか目的であれば理不尽や不条理というものはむしろ邪魔になる。理由は簡単。その者も理不尽や不条理というものを感じているからだ。世界をそんなカタチで構築している以上はその世界で生きる限り、その者も同様の理不尽や不条理を感じることは当然の帰結であるといえよう。もちろん、この結論に反論がある者もいるにちがいない。たとえば「自分にだけは理不尽が起こらない世界にしているに違いない」みたいに。だが、そんな反論は受け付けない。なぜかって? 】
『この世界は不条理で理不尽だから』
【「ふざけたこと言ってんじゃねえ?」
残念でした。それがこの世界。どれほど憤慨しても変わらない理不尽と不条理の山。
「こんなクソみたいな話があるか?」
あるんだなぁ、これが。もっと現実みなよ。君の眼は節穴なのかい?実際にいま、きみの目の前に広がっているじゃないか。
そんな「ふざけた」「クソみたいな」世界がいま生きている世界だろう?キミらの住む世界は、暴論と暴言と暴力によって火をつけ、鍋の中で理不尽と不条理を煮込んだような世界じゃないか。
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おっと、口が滑ったね。あとでこの部分は消しておかなくちゃ。最近はネタバレにうるさいからね。
話がそれてしまったね。もう一度、メインの話に戻そう。】
―――きみはいったい、なぜこの世界は不条理で理不尽なんだと思う?
既に二人が切り結んだ刃の数は両指の数では足りなくなっていた。互いが出会い、構えてからまだ十秒と経過していない。その切っ先は当たれば致命傷。たとえ防いだとしてもその傷は広がり続け、毒は全身を廻り、結果的に死をもたらす。つまり、両者とも攻撃を続けつつ、その刃を打ち落とし続けなければならない。そこに寸分の差が生じたとき、敗北という名の悪魔が首をもたげ、声高に笑うのだ。
汗が二人の頬を伝い、体の動きは全く同じ。このような殺し合いの場でなければ二人は親友や恋仲になることが出来たかもしれない。そう、これは運命の悪戯。心技体、すべての相性がぴったりと合う二人が殺し合いなど、実に馬鹿げていると思うだろうか。しかしながら、悲しいことにそんな光景が現実である。
こうしている間にも優に50秒は経過しただろうか。この間、両者とも一言も発さず、ただただ命の奪い合いに興じ、二人の間で交えられた刃の数は百に迫っていた。驚くべきことに二人の振るう刀の速度は加速度的に増加しているのだ。もはや二人の剣戟の嵐は素人の目には映ることすら許されず、達人でさえも目で追うことが出来なくなりつつあった。まさに、数百年に一度の魔人の領域である。そして今、そんな怪物が二人いる。
そして、90秒が経過した時、どちらから言葉をかけるわけでもなく、吹き荒れていた嵐がぴたりと止んだ。そして両者、刀を鞘へと納め、静寂が訪れる。
「―――楽しいな。」
一方の男がぽつりと漏らす。その言葉は独り言でも、ましてや相手に語りかけたわけでもない。ただ、心の底から言葉が漏れたのだ。
彼の天によって与えられた才と、魔の域にまで達した鍛錬についてこられる者がいる。そんな者と出会えたこと、切り結んでいること、語り合えることがどうしようもなく悦ばしい。永遠に続いてほしいと思うほどに。
「―――楽しいわ。」
一方の女がぽつりと漏らす。その言葉は独り言でも、ましてや相手に語りかけたわけでもない。ただ、胸の底から言葉が溢れたのだ。
彼女の悪魔に売り渡した才と、神によって授けられた鍛錬に匹敵するものがいる。そんな者と出会えたこと、切り結んでいること、殺し合えることがとてつもなく喜ばしい。永劫に終わりが来てほしくないと思うほどに。
「でも、こんなに楽しい時間も、終わる。」
男が女を見据えて言葉を放つ。愛別離苦を恨みながら。
「そう、楽しい時間だったわ。終わってしまうのね。」
女が男を見据えて言葉を返す。求不得苦を呪いながら。
「「次の一撃で決着をつける!」」
瞳に宿るは勝利への執念と自身が勝利することを一ミリたりとも疑わない限りない自信。
『勝つ』ということへの渇望。『勝利』への焦がれ。
その究極の利己によってシンクロするにまで至っていた互いの心は無理やり引きはがされ、身体に、刀に宿っていた。
そして、先ほどまで二人の間に生まれていた悲しみを弾き飛ばすかの如く、空気が爆ぜる。一つとなって混ざり合っていた心が離れたのだ。刀が触れ合わずとも二人の間に一瞬の真空が出来上がることなど自明の理というものであろう。
長い静寂。名残惜しいという甘えはもはや消え去り、そこには2匹のケモノのみがいた。
経過時間、95秒。
96秒。
97秒。
98を数えた瞬間だった。
「「勝つのはッッ」」
―――構え
「俺ッ」「私ッ」
―――引き抜き
「「ッだあぁぁぁ!!!!」」
―――結ばれた
ひと時の静寂が訪れる。皆、息をのみ、その時間は限りなく長く、永遠にも感じられるものだった。そして、立っているのは一人。一方は地に臥している。それがどちらなのかその場に居合わせた全員が目を見開いて確認する。その殺し愛を制したのはどちらなのか見届ける義務があると言わんばかりの眼差しで。
99秒。
「WINNER、はああぁあぁぁぁぁぁああああるぅうううぅぅうぅぅぅうううう!!!」
男が咆哮する。喉が引き裂けるような声で。
「ッしゃあああああああああああああああぁ!!」
拳を握りしめ、天高く突き上げる。足は震えて力が入らず、目は眼振を引き起こして焦点が定まらない。突き上げた拳もどこか力がなく風が吹くだけで崩れ落ちるに違いない。止まない耳鳴りと今にも胃からせり上がってきそうな吐瀉物、etc…etc…端的に言って満身創痍。しかし、それでも、歯を食いしばって立ち、ちぎれそうな腱を張り、軋みを上げる背筋を伸ばし、止まらぬ震えを押し殺す、男の姿があった。
そして
「貴様は弱くない。私が強すぎただけだ。」
とウィンドウに表示された、可愛らしい女の子の姿が画面の中にあった。
パチパチパチとどこからともなく拍手が起こるとそれは瞬く間に伝染を広げ、数秒後には会場全体を巻き込んだ歓声へと変貌を遂げる。
先ほどまでの嵐のような攻防で会場の熱気は既に沸点に達していた。そこに決着という更なる熱量を加えたのだ、観客は当然のごとく突沸を始める。ある者は神戦だと叫び、ある者は言葉を話すこともできず、ある者は涙をこぼし、ある者は忘れていた呼吸を思い出したかのように声にならない叫びをあげる。
その歓声に体を押され、先ほどまで激戦を繰り広げた男は悔しさで涙を流して震える己のパートナーに手を差し伸べる。
その紳士的な行動によって会場は歓声のみならず、嬌声まで上がり始める。
そんな拍手と歓声と嬌声の中、男は女性の手を握り、自分のもとに引き寄せた。
そして、そのままあたかも当然の流れであるかの如く彼女の唇に自分の唇を重ねた。
その瞬間、再び会場は一瞬の静寂に包まれる。そんな中、男はマイクをとりこう言った。
「俺たち、結婚します。」
そして、一段と大きな歓声が巻き起こる。天才ゲーマー同士の結婚。
そんな光景をPCの画面越しにみる男の姿があった。男の名は水瀬雫。女性のような名前をしている上に、それなりに顔立ちは整っており、目元などは女性なのではないかと思わせるほどクリっとしている。髪も肩につく程度の長さで、体格も華奢であることも相俟って、女性ものの服を着たら十中八九、女性と思われるだろう。化粧でもしようものならとびっきりの美少女の完成だ。
しかし、今の彼からはそんな美少女・・・もとい、男の娘予備軍の面影などかけらも感じられない。目が虚ろに濁り、死んでいるのだ。死んだ魚の目をさらに腐らせたような目。どうやったらそんな風に腐ったような目ができるのであろうか。ありえないものを見ている、地獄を見ている、そんな目だ。
それもそのはず。今、画面の向こう、目の前でキスをしている女性は『現在進行形で彼と付き合っている、正真正銘、水瀬雫の彼女』なのだ。つまり、彼の眼前には本当に何の変哲もないただの地獄が広がっていたのだから―――
彼女の名前は木之本木葉。雫の幼馴染であり、現在恋人。二人が出会ったのは20年前の春。水瀬家が木之本家の隣に引っ越してきたという、ごくごくありふれたもの。
二人ともそのころは引っ込み思案で、母親の後ろに隠れていることが多かったが、公園が近くにあったこともあり、次第に二人の仲は自然と良好なものへと発展していった。さらに小学校も近くにあり、1学年1クラスという環境だったこともあってか毎日一緒に通い、学び、成長して、双子の兄妹のようにすくすくと元気に育った。
雫は小さいころから体格もあまりいい方ではなく、顔立ちも女の子みたいだったこともあり、よくクラスの男の子達からからかわれていた。木葉といつも一緒にいたこともからかわれる原因の一つだったのかもしれない。
そして、雫が意地悪をされるたびに木葉が雫をかばっていた。女の子らしい雫とは対照的に、毎日のように泥団子を作ったり、森に入って虫取りをしたりして体中を泥だらけの傷や痣だらけにしていた木葉は、強い正義感もあり、雫をかばうためによく男の子達と取っ組み合いの喧嘩をしていた。勝率は五分五分で、勝ったり負けたり。そして、喧嘩をするたびに体中が傷だらけになっていた。
木葉がそんな風に育ったのは元来持ち合わせていた強い正義感と負けん気だけではなく、彼女の母の影響が強かった。
「素直じゃなくていい、ただ元気に育ってさえくれれば私は満足よ。」
木葉の母、葉月は口癖のようにその言葉を口にしていた。その言葉とは裏腹に、木葉は素直に、元気に育った。木葉と雫が服を泥だらけにしてところどころにあざを作って帰ってきた日には笑いながら豪快に服を脱がせてお風呂に放り込むような人だった。
木葉が雫のために喧嘩して体中傷だらけで、目には涙をいっぱいに溜めて帰ってきた日には優しく微笑んで
「喧嘩なんて、勝つ日もあれば負ける日もある。大事なのはあきらめない心よ。大丈夫!!木葉は私の娘よ!次やったら絶対に勝てるわ。」
と言いながら髪がくしゃくしゃになるほど頭を撫でまわしてくれた。そして、そんな風に頭を乱暴に撫でてもらうと木葉は自然と元気が湧いてきた。
また、喧嘩に勝って帰ってきた日には
「お、今日は勝ったのね。さすがはわが娘。」
と笑いながらも
「次からは木葉から手を出しちゃだめよ。約束ね?」
と続けていた。
「なんで?私、悪いことしてないよ?それに、次やったら絶対に勝てる!」
そう言いながらテレビでやっていた正拳付きの真似事をする娘に対して、屈んで目線を木葉と同じ高さに合わせてから諭すように言った。
「だからダメなの。絶対に勝てる喧嘩は喧嘩じゃないのよ。それはただのいじめなの。いじめはいいこと?」
「悪いこと・・・」
「そう、いじめはかっこ悪いし、悪いこと。だったらダメだよね。」
「うん、わかった。」
葉月の言葉に対して、小学生の木葉なりに納得していた。
「それにね」
さらに葉月が付け加える。
「最初から勝てるって決まってる喧嘩なんて楽しくないでしょ。やっぱり勝てるかどうかわからないから勝ったときに嬉しいのよ。」
葉月らしい言葉だった。
そして、その約束を葉月と交わしてから木葉は一度喧嘩で勝った相手に対して自分から手を上げることはなかった。定期的に喧嘩はするものの、それは雫を守るためであり、可能な限り、口で意地悪をしないように説得していた。雫に意地悪をする男の子達も、次第に減っていった。
「木葉ちゃん、いつもありがとう。」
雫が守ってもらう度に口にするこの言葉を使うことが徐々に減っていった。木葉はそのことに対して寂しさを感じていなかったと言えば嘘になるが、それでも、自分のとってきた行動が間違っていなかったということが確信へと変わっていた。
「雫ちゃん、これからもずっと一緒だよ。」
自分の助けがあまり必要なくなった寂しさを払うためか、はたまた愛の告白か・・・木葉が雫にそう伝えたことがある。修学旅行のときの出来事だ。雫にとってその言葉には決して深い意味はなかった。ただ、これから先もずっと一緒にいたいと考えていた雫は特に考えることもなく二つ返事で了承した。
「うん!」
その返事を聞いて木葉は満面の笑みを浮かべていた。
【思えばこれがこの物語の■■■と■■■の始まりだったのかな。あれ?これってネタバレになっちゃう?それとも伏線?まぁ、どっちでもいいや。一番大事な部分をいつも通り、消しておけばいいんだしね。こうしてればバレないでしょ。
ネタバレと伏線の違いって難しいよね。物語の書き手側からすると結末ありきで物語を書いてるわけだし。伏線ってあらかじめ置いておく今後のネタバレでしょ? 大事なのは伏線を伏線っぽく見せず、それでいてあとからあっと驚く回収をすること。
それなら、木を隠すなら森の中って言葉があるように伏線を隠したいんなら、きっと伏線の中に隠しておけばいいんじゃないかな。
こんな風に解りやすく『これが伏線ですよ~』ってアピールしておけば、他に隠しておきたかった伏線を隠すことが出来るよね。
こんなのはさんでこの物語、テンポ悪いなぁとか思ってるでしょ。はいはい、邪魔者はそろそろ退散しますよ。うざいとか死ねとか言われていい気持ちしないし。一昔前の小説のあとがきで作者がサムいやり取りしてるノリかよとか言われるのも心外だし、某小説家のパクリかよって言われるのも面倒だ。
あ、そうだ。退散する前に一つ。自己紹介をしていなかったね、失礼したよ。僕は■■■だ。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■・・・
あ!これはいけない。特大のネタバレだ。ごめんね、どうやら自己紹介は多大なネタバレを含んでいるせいでできないみたい。気を悪くしないでね。
また、気が向いたら来るよ。】
小学5年生の時、木之本葉月が倒れた。
雫や木葉には軽い貧血だと伝えられた。しかし、一応、念のために検査入院を行うとのことだった。雫は元気の塊のような葉月さんでも病気になったりするんだなぁとちょっと驚きつつもそれほど気にはかけていなかった。大人でも風邪を引くことがある、だから、きっとすぐに元気になると木葉も雫も思っていた。
お見舞いには木葉と共に定期的に行っていた。葉月の頼みで木葉と葉月の好きなお店のラングドシャを持って行くのがお決まりのパターンだった。
「おぉ、木葉、それに雫!元気にしてる?ちゃんとご飯は食べてる?」
病室に入って目に入るなり葉月が大きな声で呼びかける。
「もう、お母さん!周りに迷惑でしょ。」
「こんばんは、葉月さん。お元気そうでよかったです。」
その声を聞くたびに二人ともほっとして葉月が元気であることを再確認する。
「元気いっぱいよ。今すぐにでも退院したいけど、お医者さんがうるさくてねぇ・・・ここだけの話、ご飯が不味いのなんのって・・・」
二人にこそこそと耳打ちをしてはみんなで笑い合う。病院でも家でも豪快で、笑顔が良く似合い、病気が似合わない。そんな葉月だった。
「あ、お母さん!ラングドシャ買って来たの!あそこのお店のだよ!」
木葉が来る途中で買って来たお菓子のはいった紙袋を差し出す。
「・・・しっ!!病院の人に見つかるとうるさいからね・・・こっそり食べるよ・・・3時になったら例の作戦を決行するわよっ!!」
いつもお菓子を食べようとするたびに医師や看護師にみつかり、注意されて、結局、葉月は食べることが出来ていなかった。そこで、今度こそは・・・と言いながら布団の中に3人で隠れて食べる作戦を決行した。3人で布団をかぶり、箱を開け、個別包装された袋に手をかけた瞬間
「き~の~も~と~さ~んッ!!!」
布団が引きはがされ、わなわなと震える看護師がそこにはいた。
「あ、あの、これは・・・ですね?その・・・娘に食べさせるためにあけてたんですよ!!」
そう言って半分に割り、木葉と雫の口の中に押し込む。突然のことで驚いたが、かむたびに口の中に広がる甘味を感じ、満面の笑みを浮かべる。
「んもぅ・・・間食は元気になるまで控えてくださいってあれほど言ってるじゃないですか!!」
「はぁ~い・・・」
「んぐ・・・あぐ・・・ゴクン。だめだよ~お母さ~ん。」
「わかりましたぁ~。以後、気を付けま~す」
無理やり詰め込まれたラングドシャを飲み込み、さっきまで共犯者だったはずの木葉が飲み込んで満足気に母を叱る。そして、「って、お前が言うなぁ~」と言いながら葉月が木葉の頬をつまみ、引っ張りまわして笑い合う。
そして、看護師がどこかに行ったことを確認してから、今度のお見舞いのときにどうやって隠れて食べるかの作戦会議を始める。そんな、ちょっとした非日常をはらんだ日常を感じ、各々がそれぞれに少しずつ楽しさを見出してた。
「今度こそやってやるわよ~。ってわけで、これで新しいの買ってきてね。」
そう言って葉月が木葉にお金を渡す。
「余った分は、いつもみたいに二人で好きなの買って食べていいから。でも、食べ過ぎはダメよ。」
「そういえば葉月さん、せっかくお菓子いっぱい持って来たのに、おいていかなくていいの?夜にこっそり食べられるのに」
「ん~?それじゃ、面白くないでしょ!やっぱりこういうのはこそこそ隠れて食べてこそ一番美味しく食べられるのよ。」
「あ~わかる気がする。ちょっと悪いことってドキドキするよね~」
「そう!それにね、一人で食べてもおいしくないのよ。あんたたちと食べるからおいしいの。私は最初の一口にこだわる方だからね。最初の一口は最高の一口にしたいのよ。」
あんたたちと一緒に、隠れて食べる!
そう言って、白い歯を見せながら葉月は笑った。
そして、それから3か月後、木之本葉月はこの世を去った。
腹立ちましたか?――それが現実です
構成が悪かったですか?――それが現実です。
何が言いたいのかわかりませんか?――まだ8000字弱の一話ですよ、あなた。
世界観がわかりにくかったですか?――私にそんなことを言われても困ります。