048_古の記憶
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
俺の中に見た事ない光景が浮かぶ。
それは戦いの記憶。
戦争の記憶。
神に抗う記憶。
その中では人々が戦っていた。
武器を持ち、魔法を使い。
人だけじゃない、獣ような耳や尻尾をつけた者、エルフに似た者、そして肌が青白いおそらく魔族と呼ばれた者も。
その争う者達の中に、見た事ある人物がいた。
まだ髪は短く、顔は幼さを感じるがあの瞳は変わらず今と同じ。
セルビアナ。
あの皇帝の側にいる、皇帝の剣と呼ばれたあの女が。
「アイン?」
「あ…、夢か。痛てて、ここは?」
「ストーンヴィレッジの宿屋ですわ」
「宿屋?」
「覚えてらっしゃらないの?」
「ああ」
「突然、消えて戻ってきたと思ったら、アインとエメさんはボロボロでしたのよ?そしてそのまま倒れましたのよ」
ああ、そうか。
セラフィスの試験を受けて、戻れたのか。
ふと周りを見渡すとベッドの横には、大きな魔石があった。
あそこを出る時に現れた魔石。
もしかしてこれがさっきの夢を見せたのか?
「アインちゃん、目が覚めたのね!」
野太い声が聞こえ、振り向くも涙で目の周りが真っ黒なマスラオがいた。
俺が目覚めた事を確認すると、逞しい腕で抱きついてくる。
「痛ててててててっ!!」
「ちょっと離れなさい、マスラオちゃん!アインは怪我人ですのよ!」
「…ご主人様!!良かった、目が覚めて!マスラオちゃんもいい加減離れてください!私が抱擁出来ないじゃないですか!」
「ちょ、何気にクロエさん、アインに抱きつく気ですの!」
「…えっと、ご主人様専用の奴隷兼メイドとして務めを果たすだけです」
「ず、ずるいですわ!わたくしだって、アインの為に色々してあげますことよ!」
「あらん、じゃあみんなで抱きしめればいいわ」
そう言うとマスラオはみんなまとめて、抱きしめみんなをギリギリと締め始めた。
「一体、何があったんですの?」
「…ご主人様達が消えて、みんな心配してたんですよ!」
二人は首をさすりながら、俺に何があったか質問をしてくる。
「俺たちも突然の事だったしな…、ところでエメは?」
「無事…とは言えませんわね。隣の部屋にいらっしゃいますわ」
「先に様子を見に行ってもいいか?」
「ええ、手を貸しますわ」
俺はクロエとロザミアに肩を貸され、隣のエメがいる部屋へと向かう。
「エメ…」
「マスター、よくぞご無事で」
「お前こそ…」
声こそ、普段と変わりはないがその見た目は無事と呼べるものではなかった。
かなりの硬度を誇るはずの体はひび割れ、手足も一部損壊し、自分で立つ事も難しそうだった。
「二人が出てきて、すぐにエメさんの体がこうなってしまいまして。マスラオちゃんが担いでここまで連れてきてくださいました」
「ありがとう、マスラオ」
「いいって事よ。私達は愛と絆で結ばれた仲間じゃない」
「あ、ああ。エメ、すまない屋敷に帰るまで我慢出来るか?ここだと突貫での修復しか出来ない」
「問題ありません。それよりもマスターの傷こそ早く治してください」
「ああ、そうだな。魔力を使いすぎたからな、魔力が戻って来れば魔法で怪我も早く治せるさ」
あの試験の最中にあった色々な事。
エメは何一つ、俺とその事を話そうと思ってなさそうだった。
俺に異世界での前世がある事、セラフィスの転生体の事、エメの心に触れた際に見えた過去の記憶。
エメ自身が触れたくない事なのか。
「異変はどうなった?」
「異変なら、もう大丈夫そうですわ。アイン達が寝込んでる三日間の間にわたくしたちで『石の塔』を探索しましたが、高ランクモンスターは消滅。ダンジョン内に元々いたモンスター達も復活して来ましたわ。それとダンジョン核も、元の状態に」
どうやら試験が終わったおかげで、異変は止まったようだ。
しかし、三日間も寝てしまったのか。
みんなには心配かけてしまった。
「アイン…、どうなさったの?顔色が優れませんわ」
「ああ、すまない。ちょっと色々あって疲れたのかもな」
「アインちゃん。これだけは教えてもらえるかしら。あの中で何が起きたのか知らないけれど、異変は止まったという事で合ってるかしら?」
「…ああ。俺とエメはあの中で原因と思われる物は取り除いた」
「そう、分かったわ。私達はベヒモスを倒して、異変を止めた。原因は魔力に狂ったベヒモスがダンジョン核に悪影響を及ぼした事。それでいいわね?」
「マスラオ…」
「ちゃんよ、マスラオちゃん!いい、貴方が何かを思い詰めてるのは分かるわ。無理して話さなくていいわ。けど冒険者として市民の安全が確保出来るまで、怪我が治るまでダンジョンは見張るわ」
「ありがとう、…ちゃん」
「ふふふ、もう照れ屋さんなんだから!」
部屋を去ろうとするマスラオにお礼を伝える。
帝国が、帝都が荒み切らないのはマスラオという優しい冒険者が市民の為、頑張ってくれてるからなのだろう。
俺は改めて、冒険者仲間であるマスラオに感謝する。
夜になり俺は一人、手にした魔石を調べる。
「刻印…?これは、銘なのか」
古代文字だが、学校で学んだ拙い知識で読む。
「セ…ラ…フィス。セラフィスか。しかし何で魔石に。そうか、これ、元は魔石だが違うぞ。ゴーレム核だ」
とても大きなゴーレム核。
しかし何で銘をわざわざ。
いや違う、これは入れ物。
「魂の器か。まさか、セラフィスは自分をゴーレムにしてたという事か?」
あの戦いで奪い取った錬成の知識。
それはほんの一部なんだろう。
錬成士の行き着くもの。
俺は少しずつ、そこへの興味が湧いてきていた。
数日後、回復した俺はストーンヴィレッジを出発する。
あれから、ダンジョンは元通りなのが確認され一応は依頼は成功という事になった。
マスラオには迷惑をかけてしまったが、何とかすると言われる俺は彼を頼る事にした。
エメは簡単な修復だけ行い、歩く事は出来るようになった。
屋敷に戻ったら、何よりも修復してあげよう。
帝都に戻り、ギルドで報告を終えた俺たちは久しぶりの屋敷へと帰った。
「やっと帰ってきたか」
「あんたは、クルス?」
「おお、覚えていたか。久しぶりの再会を楽しみたいとこだが、アインよ。今すぐ白へ来てくれ」
「城?」
「ああ、ソフィア様と、元老院達がお待ちだ」




