序幕
神話によれば、人族と魔族は神の御使いとして地上に生まれ出でたという。
知の力を持つ人族と、魔の力を持つ魔族。
地上を豊かに富ませる、それが二つの種族に課せられた使命。
けれど、主が永い眠りについたのを境に人族と魔族は争いを始めた。
創世記より起こり、現世へ続いていると言われる人魔の諍い。
発端は何か確かなことが伝わる事もなく、又、和解への道を進む事もなく。
陰と陽の如く、光と影が如く、互いの種族は決して交じり合うことはなかった。
いがみ合い、謗り合い千歳が過ぎた。大小の戦、休戦期間を経ながら。
二つの種族は使命を同じくしながら、決して相容れる事はない。
それは不変の事実である、そう誰もが信じて疑わなかった。
だが、事は唐突に起きるものである。
不変という言葉など、時の流れの中では全く意味を成さないものだ。
文明が起こり、記録が書物として残るようになった頃より4000年――すなわち通暦では、神帝暦4000年。
この記念すべき年に、人族と魔族は和睦を結んだのである。
ゆっくりゆっくりと、しかし確実に進められ、ついに実を結んだ和睦。
様々な思惑がひしめき合い、その末に成った和睦。
決して円満に事が運んだわけではないし、異を唱える者も少なくない。長く続いた異種族間の諍いは、そう簡単に解決するものはない。
それでも、その日、神帝暦4000年という記念すべき年に和睦は成った。
その証としたのは、王族同士の婚姻。
互いの王族を、現王と結ぶ事で和睦の証と成す、と。
いがみ合い、謗り合いを止め、これより先は共に歩み進むという証を夫婦の契りと擬えた。
かくして、和睦と婚姻は時を同じくして結ばれたのだった。
―― 著者不明 【人魔の交わり】より抜粋