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約束  作者: 日下部良介
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6.

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 私はあの町で中学校までの時間を過ごした。高校は隣の県の学校へ進学して、下宿暮らしをしていた。大学に進学した今は、父と暮らした町で一人暮らしをしている。

 母の実家は今でもあの田舎町にある。もちろん母はまだ健在だ。祖父と祖母も生きている。私も盆と正月には毎年帰郷している。


 あれ以来、あの女の子はもう私の前には出て来なくなった。

 父が亡くなったとの知らせがあったのはあの日から3日後の事だった。父と母は既に離婚していたし、父の方の親戚には母の実家のことを知っている人が居なかったため、連絡が遅くなったのだという。父が他界してから半月も経っていた。


 父は川でおぼれていた子供を助けようとして亡くなったのだという。子供が助かったのがせめてもの救いだった。後日、その時の新聞記事に目を通す機会があったのだけれど、助かった子供の写真を見て私は驚いた。寛太だった。記載されていた名前はまったく違うものだったけれど、その少年は間違いなく寛太だった。奇しくも事故の日は私が初めて寛太と会った日と同じ日だった。

 住職曰く、亡くなった父は少年の姿を借りて私を救うために魂をこの世に留めていたに違いないと。


 父がくれた首飾りは私と父の霊を繋ぎ止めておく役割を果たしていたらしい。父は生前からこの首飾りに自分の“気”を送っていたらしい。それをまだ小さな私に持たせることで、少しでも悪霊を遠ざけることが出来ればと考えたに違いない。自分が元気な間はいつでも守ってやれる。けれど、思惑は離婚という不本意な形で崩されてしまった。母は父が私に会いに来ることを許さなかった。離婚の原因がなんだったのか、母は今でも教えてくれない。


 あの首飾りは今でも机の引き出しの中にしまってある。私にもしものことがあったら、父はまた私を助けに来てくれるのだろうか?それとも、ずっとあの子の父親としてあの子の霊を封印し続けていくのだろうか?

 父の墓は父の実家に近い寺の墓地にある。彼岸の日には必ず父を訪ねている。そして、父が大好きだったアユの塩焼きをお供えする。ハートの形をした小石と共に。





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