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結局、エントリーしなかったのだけれど、夏ホラー用に書いたものです。あまり怖くないので『ホラー』と言えるのか判りませんけど。
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父と母が離婚した。
私が小学校にあがったばかりの夏休みの事だった。離婚の原因がなんだったのかなど、まだ小さかった私には解からなかった。ただ、お父さんとはもう会えなくなると告げられて、どうしてなの?と母を問い詰めたのだけれど、母は何も答えてはくれなかった。
私は母に引き取られ、母の実家がある田舎町へ移り住むことになった。
身の回りの物だけをボストンバッグに詰め込んで、母は私の手を引き、家を出た。
「美子!」
背中越しに父の声が聞こえた。父は私たちを追ってきた。そして、私の手に何かを握らせた。
「早く!」
母にはそれが煩わしく感じられたのか、私を父親から引き離すように強く引っ張った。
「元気で…」
父は笑顔で手を振っていた。まるで遠足にでも行く私たちを見送っているかのように思えた。それが生きた父を見た最後だった。
あれはこの時より2年前の事だった。
私が産まれてから毎年そうしているように、その年も夏休みに家族で母の実家に里帰りした。
母は連日、誰かしらを訪ねては外出していた。
「久しぶりに帰って来たんだからいいじゃない。みんなも会いたがっているんだから」
「気持は解かるが、せっかく君の実家に来ているんだから、少しは美子をどこかに連れて行ってやったらどうだ?」
「じゃあ、あなたがそうすればいいでしょう。いつもは仕事でほとんど美子と顔を合わせていないんだから」
そう言われると父は返す言葉を見つけられないようだった。
そんなある日、祖父が私たちを魚釣りに誘ってくれた。祖父と父と私の三人で近くの川へ出かけた。
「釣りをするのも子供の頃以来だなあ」
父はそう言って釣り糸を垂らした。祖父が私のために仕掛けを作ってくれたのだけれど、一向に連れないので私は飽きてしまった。
「ねえ、お父さん、その辺で遊んでてもいい?」
「遠くに行っちゃダメだぞ。それから川の中には入っちゃ出目だからな…。おっ!掛かったぞ…」
私は頷いてから父たちのそばを離れた。そして、きれいな形をした石を探して河原を歩いた。時折、父たちが居る方を確認しながら遠くに行きすぎないよう注意を払った。
「なにをしてるの?」
不意に声を掛けてきたのは私と同じくらいの女の子だった。私は拾った石をその女の子に見せた。きれいなまん丸の石…。
「うわー!きれいだね。私も一緒に探していい?」
「うん」
二人で遊ぶのは楽しかった。時間が経つのも忘れて夢中で遊んでいた。気が付くと、父たちの姿が見えない場所に来ていることに気が付いた。
「お父さんのところに戻らなきゃ」
「そう…。明日も来る?」
「うん。お父さんに頼んでみる」
「本当?うれしい。また一緒に遊ぼうね」
次の日は雨だった。私は昨日の約束などすっかり忘れていた。
その日の夜はなぜだか寝つけなかった。誰かがずっと私を見ているような気がしたのだ。私は隣で寝ていた母に告げた。
「なんだか怖いよ…」
母は疲れて熟睡しているようだった。私は無理やり目を閉じて頭から布団を被った。その瞬間、私は心臓が止まりそうになった。布団の中に誰か居る気がした。恐る恐る目を開けた。私のすぐ目の前には女の子の顔があった。その顔はまるで生気のない青白い色をしていた。真ん丸に見開かれた二つの目が私を凝視していた。
「ひぃーっ!」
私は恐怖のあまり、声を発する事も出来なかった。声どころではない。体を動かす事も出来ない。
「あ・そ・ぼ・う…。や・く・そ・く・し・た・で・しょ・う…。は・や・く・お・い・で…」
女の子はそう言って冷たい両手で私の首を掴んできた。息が出来ない。痛い。次第に意識が薄れていく…。その時、部屋の襖戸が開いてかすかな明かりがさしたような気がした。しかし、私はその後のことを覚えていない。




