第一章 不吉な影(4)
城は、あのコルノ軍の件もあり、全く騒がしいばかりのものになっていた。兵士達が右往左往し、青い顔をした侍女達がふらふらとゆく。そこをルーベンの案内で、一行は急いで駆け抜けてゆく。すると、やがて最も人の多い所と言える、王城の広間へと一行はやってきた。そうそれは、いつもの見慣れた場所。そして、そこの奥、皆からは死角となる壁にルーベンはゆくと、その壁を力いっぱい押していった。すると、
「こんなところに……」
驚きの声を上げるラナ。そう、そこから隠し扉は出現したのだから。普段は普通の壁に見えていたその扉。皆の目に入るような意外な所にあったその扉。本当に驚くばかりだったが、今はそんな場合ではない、急いで中へと入り、隠し通路を伝って一行は先へ先へと歩いてゆく。だが、
「やめて! 離して! 私は最後まで戦うんだから!」
地上に未練を残すティア、相変わらず暴れに暴れまくっている。全く、どこまでも手を焼かせるフィナであったが、そんな彼女に手を焼きながらも、まあそれなりに順調に、一行は少しずつ少しずつ先へと進んでゆく。
それは、暗いトンネルを、松明を掲げて進む道。ぼんやりとした明かりだけがその先を照らしてゆく、いつ終わるかもわからない、あてどのない旅。そして、手探りのような、そんな道行きが二、三時間くらい続くと、やがて、道の終着駅が見えてきて、大きな扉が皆の前に立ちふさがった。
きっと、これはずっと使われていなかった扉だろう。この隠し通路でさえ、通った者は久方ぶりになるのではないだろうか。歩いてきた道がそんな感じであったし、第一、ルータは長い間平和な国であったから。
そんな、流れる時に、今でもこの扉は開くのだろうかという懸念が皆の胸に過ってゆく。だが、全てはやってみなければ分からないのであった。その思いで、兵士の一人が剣の柄で鍵を壊し、渾身の力を込めて扉を押していった。すると、
ギギギギギギー。
鈍い音を立てながらも、ゆっくり、扉は男四人がかりの力で何とか開く。
すると、外は闇、城を出た時間から計算すれば、もう真夜中の筈だった。
「ここは、どこだ」
周りを見回し、兵士の一人がそう口を開く。そう、長い年月の内、出口の位置はどこかに忘れられてしまっていたから。なので、まずは自分たちのいる位置を知らなければならなかったのだ。それを受けて、もう一人の兵士が地図へと目をやる。すると、
「方向からすると、レイアールの森の筈だ」
確かに、そこは辺り一面太い木の生えた、光知らぬ場所のようであった。そう、深い、深い、森。そんな険しい森の中に、ここだけ異世界のように、人工物である扉がポツリとおかれていた。木々に隠れ、長い年月の風雨にさらされ、それはその森と同化しそうな程に古びたたものになっていたが、明らかに異質のモノとして存在していた。
「進路はこのまま北西だな。この扉の存在を知られるのはまずいから、もう少し歩いて、今日はこの森で休もう。いいですね、姫様」
それは、ルーベンの言葉だった。最後はティアへの語りだったが、それに彼女は眦に怒りを込めると、ムッとしたように口を引き結んで無言で目を逸らしていった。そう、泣き喚きからの、進歩であった。仕方がないとでも思ったのか、とうとう諦めたのか、どちらか分からなかったが、ルーベンは、それを了承と受け取った。そして、いつまでも膨れている、そんなティアを置いて、ルーベンは皆へと顔を向けてゆくと、
「それで、いいか?」
皆に了解を求めていった。
勿論、皆の答えは、了解、というものであった。
短くてすみません!次話はもっと長い話になると思います!